第43話
◆(少し前の)
「くそっ、開かねえぞっ!」
敵を殲滅しながら、やっとの思いで最奥の扉にたどり着いた薊。彼は押しても引いてもビクともしない扉に苛立っていた。
本来なら開いている扉だが来紅とメリッサの逃亡を防止するため、グレーテルが魔法で鍵を掛けていたのだ。
しかし、そんなことは知らない薊。理由は分からないが、分かったところで何も変わらないので、現状の打開策を考える。
「壊すか」
結論は秒で出た。見たところ鍵も鍵穴もないのだ、他に方法などあるはずがない。
もはや、当然のようにゲーム知識は当てにならなかった。ゲームでは閉まってる展開など無かったのだから。
「オラッ」
一度、蹴ってみた。音は大きかったが扉に変化はない。次に『
「いけそうだな」
やはり、剣のバフがあると違うようだ。二度、三度と繰り返し、ようやく壊れた扉。
かすかな達成感が湧き上がるが、中にいるであろう怨敵への怒りで、そんな感情などすぐに消し飛ぶ。
「魔女はどこだぁぁぁっ!!」
そうして叫びながら中へと入って行った。
◆(そして前話ラストへ)
やっとの思いで、たどり着いたボス部屋。そこには俺の予想通りに魔女がいた。
そこまでは良かったのだ。そこまでは。
「久し振り、薊くん♪」
どういうことだ?
見つけ次第、殺すつもりだった怨敵の横で
なぜ来紅が二人いる!?
俺は混乱の極みだった。一応、彼女が知らない間に俺から離れた可能性を考慮してポケットを漁ってみる。
「よしっ、いるな」
ポーション瓶を取り出して、そこに
ここで、ようやく答えが出た。そもそも悩む必要などなかったのだ。
「ハッ、親友の幻覚を見せて俺が攻撃を躊躇うと思ったか? 俺達は今も一緒にいるんだぞ。騙される筈がない!」
「あっ。私の取れた指、見られちゃったんだね。恥ずかしいなぁ、もうっ」
「「「……」」」
そうして俺は
というかなんだ、いまの幻覚のセリフは。知能の欠片も感じられない応対だったぞ。
それに来紅は固有スキルである【
「俺の親友で遊ぶのも大概にしろよ。双子諸共、お前を殺してやるからな」
「みてみて、師匠に『
「「「……」」」
幻覚の来紅が胸に抱いた杖を見せびらかしてくる。
彼女の可愛らしい表情は完璧であり、首に掛かったネックレスも完成度を上げるのに一役買っているが、そんなの本物の
まぁ、また買えばいいか。
それより、なぜ魔女は直接俺に話さないんだ。俺の姿を見て嘲笑っているのか?
「俺の話を聞いてるのか!? いい加減、何か───」
「目の前に私がいるのに誰と話してるの?」
「お、おう」
「「「……」」」
なんということだ。
吸血鬼となり、これまでとは比較にならない程の力を手に入れた俺を幻覚越しの言葉だけで怯ませるとは。
流石は怨敵。決して侮れるものではない。
「師匠に73回、グレーテルに24回、ヘンゼルに10回、私に3回」
「???」
何の話だろうか。
魔女の言いたい事が分からない。というか、師匠ってなんだよ。弟子が欲しかったのか?
「今のはね、この部屋に入ってから誰に何回視線を送ったか、だよ」
「そ、それがどうした?」
「そんなに他が気になるの? それなら、私の
「は? まぁ、いい。ぶっ殺してやるよクソ魔女!」
俺の友人を冒涜したのだ、楽に死ねると思うなよ。
そうして、『
多少の怪我なら『HP自然回復』で即完治する上、もし万が一が起きても固有スキル【不死の鼓動】の、もう一つの効果でどうにか出来る算段はついている。
だから俺は安心して魔女へと突っ込んだ。
「魔女めっ! 来紅の偽物をつく……っ!?」
来紅の偽物を作り、俺へ精神攻撃を仕掛けてきた魔女へ怒りの言葉を吐きながら斬り掛かると、突如館内に展開されている『魔女の毒霧』とは違う、白い霧が俺を包む。
完成度が高いとは言え、所詮は幻覚。無視するのが一番だと思い、注意を向けていなかった来紅の幻覚から攻撃されたのだ。
恐らくは幻の後ろから魔女が魔法を撃ったのだろう。来紅が打ったように見せ掛けるために。やつの性格の悪さが伺えるな。
まずい。そう思った時にはもう遅く、指先から徐々に石となっていた。それも、俺の再生力を上回る速度で。
「……あんた、何しに来たんだい?」
そうして灰
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