第28話

いつも読んで下さってありがとうございます(*^O^*)


───────────────────────








綺堂 薊きどう あざみ side







 眼前の惨状を見据え、呆然とする。


 嘆き、悲しみ、後悔、そして絶望。


 思考の大半が病み・・に呑まれ、いまなお体を襲ってる筈の激痛は微塵も感じなかった。


 そんな中、絞り滓のような理性が、なぜこんな事になったのかと語り掛ける。


 それに対する答えは様々だ。


 早く見つけていればよかった。


 小屋に入る前、違和感を感じた時点で帰るべきだった。


 俺自身がもっと強ければよかった。


 数え上げれば切りがないこの自問自答も、全ては一つに集約される。




「来紅が死んだのは俺のせい、か」




 これだけは揺るがない事実だ。


 せめて、来紅がネックレスを拾いに行った時に俺もついて行けば、少なくとも離ればなれになる事は避けられただろう。


 ダンジョンへ侵入する時、一定距離内に居ればダンジョンはパーティーとして認識し、二人一緒に入れたのだから。それならば来紅を説得し、安全に魔女を復活させられたかもしれないのだ。




「ハ、ハハ……」




 そもそもハッピーエンド理想の実現は心の平穏があってこそという考えが間違っていたのだろうか。


 そんな生温い事を考えなければ、すぐにでも来紅を含めた非力なキャラ達は拉致し、俺では勝てない強力なキャラはゲーム知識を活かして脅迫などして、全員監禁したというのに。




「ハハハハッ」




 もう、どうでもいいか。


 あれほど求めたハッピーエンド理想は潰えた。


 あの世にいる来紅への謝罪内容を考える方が建設的だろうか。




「ハハ……アギッ、ハハハハ」




 叫びと血の香りに引き寄せられたモンスター達が俺に群がる。


 普段は忌避きひの対象でしかない苦痛が今ばかりは心地いい。


 俺はモンスターに喰われる苦痛を味わう事で無意識に来紅への贖罪しょくざいになるとでも、思っているのか。


 残り滓の理性でも分かる。そんなものは自己満足であり、死んだ来紅には何の得もないのだと。


 我ながらなんと愚かなのだろう。




「ㇵㇵㇵ……ガァッ、ハハハ」




 群がるモンスターが増えてきた、そろそろ自然回復で追いつかないダメージ量になる。


 このまま死ぬのもいいかも知れない。


 色々と未練は残っているが一番の未練は取り返しがつかない事であるし、何より今すぐ死にたかった。


 積極的に死にに行くような自殺をする程の気力は無いが、今のように流れに身を任せる消極的な自殺なら出来そうだ。




「……ハ、ァ?」




 そのまま目を閉じようとした時、ゆるがたい光景が見えた。




「おい……」




 ある一匹のモンスターが石窯いしがまへと近づく。


 いや、正確には石窯に向かってる訳では無い。


 そいつは───




「お前……」




 来紅の唯一、残った指を食おうとしていた。


 それだけは、させてはならない。


 だと言うのに動けなかった。


 生きる目的そのものだった理想の達成が不可能になった影響で気力が削ぎ落とされているのだ。もはや指に反応できただけでも僥倖だろう。


 だからこそ俺は特技を使うことにした。


 この一時たりとも油断ならない世界にはあまりにも不釣り合いな現実逃避という特技を。


 そうして奇跡が起こる。着々と死へ向かう事に危機感を覚えた体が発令した防衛本能と組み合わさり、心を包んでいた病み・・を強引に消し去ったのだ。


 特大の矛盾を残して。




「俺より堕ちろ【禍福逆転】っ!」




 気力を取り戻した俺はみ付く化物モンスター達を固有スキルでダメージを与えひるませ距離を取った後、『応報おうほうの剣』を持ち、刃を寝かせ己の体を一回転し周囲の化物モンスターを斬り殺す。




に近づくんじゃねぇぇぇっ!!」




 両手剣形態のまま『応報おうほうの剣』を視線の先にいる下手人へ投げつける。


 前世は勿論、今世でも剣を投げるのが初めての俺が相手を串刺しにするなんて器用な事が出来る筈も無く、回転しながら飛んだ剣はつかを目標の腹に当てる事で地に落ちた。


 まあ、いい。最低限の目標は果たした。




「くたばれっ」




 剣を腹に受けうずくまっていた化物モンスターの頭を踏み潰す。


 湿り気をまとった硬い物が潰れる音がする。


 まだだ、この程度で終わらせる筈が無い。




 ゴシャッ、グシャッ、グチャッ




 丁寧ていねいに頭を潰していると骨を潰す音が消え血と頭蓋ずがいの中身が潰れる粘着質な水音だけが遺った。


 体が熱い、心臓が燃えそうだ。どこから、ともなく敵を殺せと声が聞こえる。




「でも、悪い気分じゃない」




 来紅を優しく拾い上げると来紅から貰ったポーションビンの中へ入れふところに仕舞う。もう二度と傷つけさせない覚悟を決めて。




「安心しろ、俺が守るからな」




 次に来紅と会ったら言おうと思っていた言葉を指へと語り掛ける。やっと会えたな来紅、心配したんだぞ。


 微笑もうとしたら頬が歪に引きった。


 俺は壊れてしまったのだろうか? いや、どうでもいいか。




「今度こそ離さないからな」




 何故なら、ずっと親友といられるのだから。


 他に何もいらない。


 潰えたハッピーエンド理想も、自身の安全も、何もかも。


 こうして、崩壊しかけた精神を指を来紅だと思い込みが死んでないと暗示を掛ける事で歪に持ち直した俺は、魔女を殺しに行くべくモンスターの殲滅を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る