Chapter 1.0 13番目のキリト

Chapter 1.0 プロローグ

 ここは、剣と魔法の世界。

 そう言われて、何もかも納得できるわけではない。幻想ファンタジーにだって、法則ルールはある。不可能なことは不可能だし、不可解なことは不可解だ。

 青年は、そんな不可解に出くわした。

 瞬きするほどの時間で、一つの街が崩壊したのである。


 つい先刻まで家だった、もしくは店だった、あるいは城だったかもしれない瓦礫の山に、青年は立っていた。

 かつてで起きた大地震を思い出した。あの時はテレビの緊急報道で見ただけで、青年――当時はまだ未成年だった――自身の被害は本棚のライトノベルがいくつか落ちるだけだったから、どこか他人事だった。

 しかし今直面している状況は本物だ。

 非現実的ファンタスティックだが、現実リアルだ。

 一体何が起こったというのか。


 拠点としていた街の近くに、希少なモンスターが姿を見せた。これ幸いと思った青年は、恐ることなく立ち向かった。いつものように瞬殺してやろうと、背負った二振りの大剣を抜き、颯爽と駆け出した。

 はっきりと覚えている。当然だ。青年の視点では、わずか数秒前の出来事である。

 しかし、この後が分からない。

 突如、何かに引っ張られた。

 富士急のジェットコースターの比ではないレベルの、強力なGを感じた。三半規管が揺さぶられ、嘔気に襲われた。更には失神しかけたが、なんとか意識は保った。目に映る景色が静止し、目眩が収まって顔を上げたら、この惨状だった。


 呆然としていて気付くのが遅れたが、自分も傷だらけだった。あちこちに軽い打撲のあとや、切り傷が付いている。青年の体は、神様の加護のおかげですこぶる頑丈に出来ていた。そんな自分を傷つけられる程の存在であれば、街一つ消すのは容易いに違いない。

 いったい何物の仕業だろう。

 青年は、辺りを見渡した。生存者を探すべく。謎を解くべく。

 静かだった。探せども探せども、誰一人として見つけられなかった。この街を破壊した「何か」によって吹き飛ばされたか、あるいは瓦礫の下か。

 青年が諦めかけた頃、ついに視界の隅に一人の少女を見つけた。

 急いで駆け寄った。まだ生きている。瓦礫の隙間に入り込む形で、致命傷を免れたらしい。青年は強化された腕力で岩をどかし、軽々と助けおこした。きっと喜んでくれるだろう、そう思った。

 しかし、少女は怯えていた。

 青年に救われてもなお。いやむしろ、青年に救われたことでいっそう、体の震えは大きくなっていた。

 鈍感な青年も、ようやくその惨状の元凶を悟る。


「オレ、何かやっちゃいました……?」

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