第33話 フィールド迷宮のボス

 フィールドダンジョンは不思議な所だった。

 森や丘、そこそこ高い山や底が見えない谷、まるで地上にいるようだった。

 違うのは朝や夜などがなく、常に一定の灯りと空気や風がある事だろうか?

 そのフィールド迷宮を一行は、そこまで強くない魔物を屠りながら進んで行く。


 僕は次元について考えていた。

 この迷宮は別次元に作られた物で、次元箱だって別の次元に物を仕舞い込む箱で。

 このアラウザルゲートだってそうだ。

 だって、あの門の置物がどんな原理で造られているのか分からないけど。あの置物の中にこの世界を創り出しているはずで、僕は今その中にいる。この世界の亜人や魔物も生きて存在している、だからこれも一つの異次元に違いない。


 この目で見ないと信じられないけど、僕らの世界って多重次元で繋がっているんだなぁと実感した。やっぱり地球だって神様が造った異次元の一つかも知れない。そんな事を思って歩いていた。



 中に入って、2日ほどの時は経ったのだろうか?迷宮は広すぎて途中で野宿や休憩などもした。


 その都度、僕はイル、ヴィルトスさん、チーヌさんと一緒に精神集中の修行もちゃんと行った。

 チーヌさんは本当に次元箱のスキルが欲しいみたいで、しっかりとヴィルトスさんの話を聞いて修行していた。


 それから、フィールドを歩きながらだったけど、ビクタルさんとガランさんに戦斧の扱い方を教えてもらった。


 いろいろ考えて、今の僕なら扱えなくはないけど、聞けば聞くほど筋力があった方が強いのが分かったので、僕には斧は不向きだなと思った。やっぱ力の強いドワーフや獣人の方が扱いやすいだろう。


 ビクタルさんが言ってたけど、人間種が扱う武器は剣か槍が多いと言った。

 人間種は筋力や魔力にしてもステータスこそは、何かが突出してないけどバランスは良いみたいだ。


 だから何でも使いこなすし、戦闘で考える武器の扱いや、パーティ連携の組み立てなどの発想力も他の種族よりも優秀なんだとか?。その為、魔狩人クランリーダーなどは人間種が意外と多いらしい。


 そんなこんなで、広いフィールド迷宮も僕らにとっては成長するための修行にもなった。そして…


「おい…あそこ見て見ろよ」


 ガランがそう口を開いて、指を差した方向を見る。


「あれは、…大きな扉…に見えるわね」

「ふむ…では扉の先にはこの階層のボスって所でしょうかね」


 チーヌの後にミロクがそう答えた。


 二つの険しい岩壁の間に、明らかにそこだけ違和感のある場所があり。

 扉の様にも見えた。


 一行がそこへ近づいて行くと。

 高さ4mくらいの大きな岩の扉だった。


「ビクタル、俺は右の扉をやるぜ」

「ふむ。じゃあ儂は左じゃな」


 ガランとビクタル2人がその大きな扉を力一杯押すと、それは少しずつ動いた。


 ◇


 扉を大きく開き、中へ入って行く一行。


 そこは球体の中のような大きな円形の中だった。

 先に扉がある所を見ると、その先が次の階へ向かうゲートがある場所だろう。


「皆!天井を見て!」


 チーヌが叫んだ。

 薄暗く、黒い天井には大きな魔物がぶら下がっていた。


「何あれ…蜘蛛?」


 じっと見ると、大きな蜘蛛の体に人間の上半身がついている。

 目が慣れて来てその姿はハッキリと見えて来た。


 下半身は蜘蛛で、頭がある部分から人型の上半身が生えており、頭は蜘蛛っぽい、禍々しい姿をさらしていた。


 カリカリカリ…


 奇妙な音を立てながら天井を這っている。


「こいつがボスだな」


 ガランは盾を構えて臨戦態勢に入り、ビクタルも戦斧を何度もくるりと回しながら腰を少し落とす。


 魔物は天井からスッと降りて来て、くるりと回って10本の脚を地面につけた。

 体長は約4m、虫特有の頭の動きで七羽達をカクカクと首を動かし見ている。

 素早く鑑定する七羽。


 鑑定では、「アラクニッド・デーモン」と名前が出た。


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 アラクニッド・デーモン


 体力: 567

 魔力: 102

 筋力: 1326

 知力: 51

 器用: 202

 敏捷: 1011


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「気を付けて下さい!名前はアラクニッド・デーモン。体力的にはそこまでありませんが、筋力と敏捷はかなり高いです」

「見ればヤバそうなのは一目瞭然だぜぇ…」

「ほほう、イロハ殿の鑑定スキルは、そんな事も分かるのか?‥ある程度強さが分かるのなら勝機も見えるのう」


 ガランとビクタルはそう言った。

 イルメイダも鑑定スキルで確認していたが、そこは何も言わなかった。


「キエエエエーーーーーー!!!」


 アラクニッド・デーモンは奇怪な大声を発した。


「来るぞ!!」


 皆、戦闘体勢に身構えた。


 凄い勢いで突進して来る敵を僕らは素早く躱した。

 すぐに反転し、攻撃を仕掛けて来た。


 鋭い前脚4本で攻撃を繰り出して来る。

 ビクタルはその脚が地面に突き刺さると同時に斬り付ける。


 ガイン!!


「むお…」


 その戦斧は弾き返されてしまった。

 ガランも牛雷旋風斧を、力強く大きく振ってタイミングよく脚へヒットさせた。


 ガイイイン!!

 ビリリイイイイーーー!


「キガア!?」


 ガランの攻撃は弾かれたものの、グランリア迷宮で取得した牛雷旋風斧にマジック付与されているライトニングが発動し、電撃が迸しり。一瞬アラクニッド・デーモンは怯んだ。


「お?ライトニング12%の確率が当たったか!ガハハ。しかっし、かってえなぁ…この斧と腕輪で俺の筋力は15%も上乗せされているのにコレかよ」


 ヴィルトスは何が有効か図る為いろいろな魔法を繰り出していたが、今のライトニングを見て電撃は有効なのをしっかりと見ていた。

 アイネも光魔法で造る障壁で、同じ後衛にいる魔法士ヴィルトスを守っていた。


 硬い外郭に覆われている為、イルメイダも弓は使わず魔法と細剣で対応している。

 チーヌはヒラリと躱しながら接近し、ダガーで何度も届く範囲を攻撃していた。

 シャルヴルも小さな盾で攻撃を上手く受け流し、短槍で間接を狙って突くが中々上手く刺さる事はなかった。


 僕も得意の火炎放射魔法を使ってみたものの、あまり効いていないようだった。


 初見なので、皆は探り探りの攻撃を繰り返していたが、ミロクの剣はそれに傷をつける事が出来ていた。


「キエー…キエエエー!」


 アラクニッド・デーモンも中々当たらない攻撃に、イライラして来たのか、声を荒げて発していた。


 一度、引き下がったアラクニッド・デーモンは、何かの姿勢をとった。


「む…何か来るぞい。皆、気を付けなされ」


 ビクタルは皆に向けそう言った。


 すると、背の部分からポコポコと何かが飛び出て地面に落ちる。


「キーー」「キー」


 それはアラクニッド・デーモンが小さくなったような物体だった。

 と言っても、1mくらいの蜘蛛なので中々デカい。


「こいつ子供産んだのか?」

「そのようね…10匹って所かしら?」


 ガランの呟きにチーヌが答える。


「よっしゃ。俺…いや私が雑魚は引き付けるから突破方法考えて下さい!」


 ミロクは皆よりも前に出て仁王立ちになり。

 目を瞑り、気を溜めた。


 そしてスッと目を開ける。


「むん!」


 ミロクの体から僕でも分かるくらいの凄い気迫が発さられた。

 びりびりとするその感覚は、この広間全体に広がって行く。


 小さな蜘蛛は最初バラバラに動いていたが、一直線にミロクへ向かう。

 ミロクが使ったスキル、これが覇気の奥拉である。

 殺気や存在感で魔物を圧倒し、危険視する魔物はそちらに向かうようになる。


「…………」


 それを見ていたアラクニッド・デーモンは、少し考え蜘蛛の巣を巻き散らすかのような行動をとった。


 お尻から蜘蛛の糸を広間全体に巻き散らす。


 僕の足元にもそれが落ちて来た。

 剣で少し突いてみると、少し触れただけでも凄い粘着力のある物体だった。


「うわ…これ踏んだら…危ないかもな…」


 シャルヴルは手をクロスし、水魔法を展開する。


 ドバザザザーーーーーーン。


 両腕全体から水が溢れ出て、僕らの周りにある粘着糸を流し去ってくれた。


 凄い…あの粘着糸があっさり流れて行く。

 そう言えば、シャルヴルさんってこの粘着糸のような糸でこの間戦ってた。

 この水はその逆で、粘着成分を無効化する水なのか?


 足元の粘着糸がなくなり動きやすくなった僕達は、突進して来たアラクニッド・デーモンを相手に奮闘する。


 覇気の奥拉で引き寄せた雑魚蜘蛛は、ミロクに全て襲い掛かっていたが流石の元Sランク魔狩人。魔剣「業炎烈風刃」で斬られた雑魚蜘蛛は内側から炎によってトドメを刺されて行く。


 それも見ていたアラクニッド・デーモンは更に背中から雑魚蜘蛛を放出し、その度にミロクは、それを引き付ける事となった。


 しかし、そのミロクの戦いを見て、ある事に気付いた。

 七羽も気付いたが、ビクタル、ヴォルトスもそれを見逃してはいなかった。



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後書き


す、すみません。

リアルが非常に忙しく、新話投稿に凄く遅れが出ております。

流石12月と言った所でしょうか…


皆様、ただでさえ遅い更新なのに申し訳ないです。



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