第32話 次元箱

 入り口から入り半日は歩いただろうか?

 日が暮れる事がない、フィールド迷宮の中で幾度か魔物と戦い、疲弊した頃キャンプするのに十分な場所を見つけた。


 そこは、少し小高い丘の下。土が少し抉り取られた、洞窟の入り口のような場所だった。


「ここなら、魔物に対してもすぐに発見出来るし、この魔道具が役に立ちそうじゃの」


 ビクタルはそう言って何かを取り出した。

 スイッチを入れると壁のような物が投影された。


「ビクタルさんそれ何ですか?」

「ん?イロハ殿は知らんのか?これは設定した映像を映し出す魔道具「偽投影機」じゃよ」

「偽投影機…何となく名前で分かるような気がしますが‥それもドワルフスミス国で造られた物なんですか?」

「勿論そうじゃ」


 ビクタルが弄り回すとレンガの壁や、岩肌、土の映像がコロコロと切り替わる。

 そして、この場所に似たような映像が出た時、範囲を弄ってその場に置いた。


 内側から見ると薄っすら外が透けて見えるが、外に出てみるとそこは土と草が自然にあるかのように見えた。


 凄い…まるでマジックミラーみたいだ。

 ドワーフってこんな物まで開発したんだ…

 下手したら地球より、文明高いんじゃないだろうか?…


「ま、ただの偽の映像じゃからの…就寝する時はちゃんと見張りを立てないとダメじゃがのぅ」

「ですよねぇ…」


 ◇


 次元箱を持っている人が次々と、寝具を取り出したり。

 数人が薪など燃えそうな物を集めて持ってくる。


 キャンプの準備はすぐに整った。

 外から見ると、火煙が土の壁から出ている風に見えると思うが、煙の臭いで魔物の鼻も誤魔化す事か出来るようでそれは問題ないのだそうだ。

 ビクタルは次元箱から魔物の肉を取り出し、バーベキューのように焼いて行く。


「肉の焼ける匂いで魔物寄って来たりしませんかね?」

「大丈夫だろ?血の匂いの方が来ると思うぜ?」


 イロハの問いにガランは答える。


「そう言えば…ちょっと疑問に思ったんだけど、イルメイダちゃんの今日の動きなんだけど…」


 チーヌがイルメイダを見ながら、話しをきり出す。


「え?…はい」


 やば…今日のイル凄かったもんなぁ…、風魔法を使って空中を跳ねていたし…。

 剣の攻撃もそうだったけど、放つ矢もグングン曲がって魔物倒してたしな…


「この前の迷宮の時より急に強くなってない貴方?」

「そ…そうですかね?…私は普段と変わらないと思うのですが…」


 チラっと七羽を見るイルメイダ。


 こっち見るなよ…僕も関連して何かあるように見えちゃうじゃないか…。


「ふ~ん…あたいの見た目では、このアビライに来てから急に何か変わったような気がするんだけど?」

「き…気のせいですよ。ほら…この間の迷宮で自分の戦い方をだいぶ研究したせいかも…知れませんね。私なりに頑張ってます!ハハハハハ…」


 チーヌさんって注意深いし…その内これはバレるな…。

 うーん。その時の事を考えておかねば…。


 暫くして、肉や果物が皆に配られ、食事を始める。


「イロハさん」


 食事の乗ったプレートを持ったイルメイダは、七羽の隣へ座った。


「ん?モグモグ…」

「イロハさん、そろそろ次元箱の具現化、行けると思うんですけど?」

「え?ほんとに?」

「はい。魔力の高い、エルフ種やドワーフ種などは生まれつきその能力を持っているみたいですが、私は5歳の頃、次元箱を習得する事が出来ました。イロハさん脳豆食べてから魔力と知力も格段に上がってますよね?」

「確かに知力と言えば、覚えた物を忘れなくなったかな?魔力もイルには負けるけど30くらいだったっけ?」

「そうですね。それくらいでした、お婆様から聞いた話ですが、次元箱の能力に目覚める事が出来る人って、魔力と知力がある程度超えている事が必要って言ってました。ひょっとしたらですが、今のイロハさんなら身に着ける事が出来るかも知れません」


 イルメイダの言う言葉で食事の手が止まった。


「でも…次元の中って…そもそも人間でも使える人いるの?」

「はい!いますよ。なんなら獣人種の方でも魔力の修行をした人なら使えるって聞きました。私が最初にお婆様に教えて貰った時は、頭の中に水面を広げて、その中に空間を作るようなイメージで訓練したら出来たような気がします」

「水面…ねぇ…」


 七羽は地面に皿を置いて、目を閉じた。


 水面。そこに入り口を作る…。目の前に水面。広げて…

 僕は頭の中で、そう何度もイメージを膨らませた。


 すると、七羽の少し前に出した手の付近の空間が少し揺らいだ。


「イロハさん!その調子です、その中の空間を広げて固定するように…」

「うん」


 空間を広げる…ええっと…どのくらい広げれば?…

 とりあえず自宅にあるクローゼットくらいの空間を…広げる…。


 皆、何時の間にか食事の手を止め、七羽の様子をじっと見始めていた。


 空間…入り口…クローゼット…広さ…固定する…。


 何度かそう念じて魔力を使う。

 すると、自分の中でしっかりと嵌ったような感覚を感じた。


「出来た!」


 すっと目を開けると、空間に歪んだ切れ目があった。


「おおおお…」

「やりましたな。イロハ殿」

「ふむふむ」


 皆が拍手した。


「あ…有難う。これが次元箱…」


 七羽はその次元の切れ目に手を入れてみる。

 勿論、何も入っていない。


「やりましたね、イロハさん!次元箱についてですが、次元に仕舞った物は時が止まるので、肉なども新鮮なまま保存する事が出来ますよ」

「あのさ。生きている動物とか入れたらどうなるの?」

「次元の中では生物は生きられません。その理由は分かりませんが…時が止まると言う事は生命にとっては良くない事なのかも知れません…」

「なるほど…」


 なるほど、次元箱ってこんな感覚なんだ。

 つまり、ラノベの異世界系でよくあるアイテムボックスってやつだね。

 あ、待てよ…イルとかのステータス見た時に能力スキルの欄に記載されていたって事はこれは魔法ではなく、言わゆる超能力…みたいな物なのかな?


 イルメイダに預けていた、リュックを受け取って自分の次元箱に収納してみた。

 何度か出し入れする七羽。


「おお、これは便利だね~」

「あたいも次元箱習得するくらい魔力の修行してみようかしら?」

「ガハハ。チーヌ止めとけ止めとけ、俺ら獣人は相当な修行が必要なんだ。それより体鍛えた方が早いぜ?」

「はあ?ガラン、あんたと一緒にしないで!ガランみたいな脳筋ならいざ知らず。あたいはそこそこ教養も身に着けているから知力ってステータスはそこそこのはずよ!後は魔力だけなのよぉ、失敬な!ふんっ」

「ああん?はいはい。精々頑張れよ、ガハハハハ」


 確かにチーヌさんって知力はそこそこあったはず…。

 魔力さえ鍛えれば行けるのかも知れない。

 魔力とは…多分、=精神力の事だと思う。


 メイ婆さんに前に聞いた事あるけど、この世界の魔法とはエルフの森にもある、あの世界樹の大樹から発生しているマナや魔素と呼ばれる目に見えない空気のような物があるらしく、それを体に取り込んで行使する術だって言ってた。

 そしてその世界樹の大樹はエルフの森だけではなく、世界中に幾つか存在しているのだとか。


 つまり、僕の推測だけど。

 精神力(魔力)でイメージした物をマナって特殊な気の流れを使って具現化(魔法)しているって事だと思う。


 地球で言う超能力は、その脳から発信する精神力で、体を硬くしたり、物を動かしたり、千里眼や未来予知とか出来たりするのかも。あの火事場の馬鹿力ってのもその類の力だと思う。


 地球でのマジシャンって名乗る人達は、純粋にタネとかがあるのは分かるけど、実は一部の人は、コインを消したりするのに、別次元とかに忍ばせる人もいるかも?って想像しちゃうね。


 この世界では魔法ってチートな物が使えるから、すんなりそれを受け入れて上手く成功出来たけど。次元箱が、精神力の成せる業なら地球でも行使できそう、戻った時にちょっと試してみよう。


 ◇


 見張りを立てて、3~4時間ほど交代で寝た。

 この世界の人は野宿する事に慣れているみたいで。

 大体、2時間ほどの睡眠があれば元気に動けるらしい…。

 まあ、確かに魔物が徘徊しているような場所でぐっすり眠る事は出来ない。爆睡するような輩は命を落とすだろう。


 皆は各自荷物を次元箱に収納して、探索への準備で装備などの確認をして装着していく。


「次も方角はこっちの方へ行きましょう」


 チーヌが指を差した方角を見て、皆は頷いた。



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