第27話 次の遺跡へ

 仲良しグループLINEには、親戚の家へ行くので返信は期待しないでねと打ち込んでコメントを残した。


 爺ちゃん達にも友達と、宿題キャンプに行ってくると言ってある。

 これで、暫くアラウザルゲートへ赴いていても、問題はないだろう。


 僕は、門の世界へ再び飛び込むのだった。


 宿屋の部屋へ転送が完了すると、まだ朝の5時だった。

 設定画面を開き、地球時間とこの世界の時間の時差を弄った。


「これで良しと…もう少し寝れそうだし。寝とくか」


 それから少し仮眠して、朝8時起床し、皆で宿屋の食堂で、朝食を摂った。

 外へ出ると一人の御者とヤム車が2台用意されていた。


 僕らを見かけるとすぐに声を掛けて来た。


「おはようございます。イロハさんのパーティで合っていますか?」

「ああ…はい、そうです」

「協会職員で1号車御者を担当する、オーライと言います。2号車御者はモロスと言う者がが運転をします、お見知りおきを」


 僕の名前が出たので、僕が前に出てそう言った。

 当初の予定では8人乗りのヤム車を持ってくる手はずだったのだが、それでは手狭だという事でランバルさんが変更して6人乗りを2台にしていたようだった。


 4人ずつに分かれ、2台のヤム車へ乗り込んだ。

 1号車には僕とイル、ガラン、チーヌの4人。

 2号車には、ビクタル、シャルヴル、アイネ、ヴィルトスが乗り込んだ。


「えっと、では…人間の王国「アイレンス・ボレス」の国境にある町、「アビライ」の町へ向かいます。ここからは約5日くらいの道のりになりますが…この協会用ヤム車は、簡易通信魔道具が付いているので、2号車への会話も出来る様になっていますので、仲間との会話はそれを使って下さい」


「わかったぜ」


 ガランはそう言って先に乗り込んだ。

 その後に、イル、チーヌが乗り込み、僕が乗り込もうとした時にヤム車をよく見ると凄く精巧に出来ているのが伺えた。


 この車輪、衝撃を吸収するためにちゃんとバネが使われていたのだ。

 車輪自体も木材と鉄、そして滑り止めをするかのように、タイヤの溝のような物まで細工されていた。


「どうかしましたか?」

「ああ‥いえ、この車、ちゃんと作り込まれているなぁと思いまして」

「ああ、協会で使われるヤム車などは、すべてドワルフスミス国製の荷車になってますので、ちゃんとしているのですよ」

「へぇ…これもドワーフ製なんですねぇ」

「はい。魔狩人協会の物だけではなく、王族や貴族や軍用、後はお金持ちの方の馬車やヤム車は、ドワーフの手によって作られている物が多いと思いますよ」

「なるほど…」


 そう頷いて荷車の中へ、七羽は入った。


 中へ入ると、内装は綺麗な木目調で、座椅子は思ったよりフカフカだった。

 壁には武器を掛けるためのフックなどもあり。

 6人用に4人なのでゆったりと座れたのも印象だった。


『こちら2号車ビクトル。1号車聞こえますかな?』


 いきなり壁からビクトルの声が聞こえた。


「ああ、聞こえてるぞ!」


 ガランがそう反応し声を出した。


『ほいほい。通信魔道具の調子は良いようじゃな』

「へぇ…通信出来るって凄いですね」

「でも、これって確か半径15mくらいしか声を飛ばせないから、あまり離れると聞こえないのよ」


 僕の言葉にチーヌがそう返した。


「これも、ドワーフが開発した物なんですか?」

「ええ。ドワーフはありとあらゆる魔道具を開発してね。人間やエルフもいろいろと便利な物を創り出したりしたけど、ドワーフ族はその上をいつも行ってるわ、この通信機もその一つ。これは喋った言葉を記憶してそれを、もう一つの魔道具へそのまま魔法で飛ばすと言った技法だったかしら?」

「さあな。俺ら獣人族にとってはどっちでも良いさ。便利なら使わせて貰う。それだけだな、ガハハハ」


 ガランは話に割って入って、そう笑い飛ばした。


「イル?でもエルフの国ではあまり魔道具とか見なかったよね?」

「ああ、、それは…あまり、私達エルフは、他の種族が作った物とかを使いたがらないと言うか…、精霊術もあるし魔法力も高いので、生活などはある程度は、自然な形で自分達でやりくりするの」

「へぇ…そうなんだ…」


 確かに、エルフ国の森は夜になったら光の精霊に頼んで灯りを灯していたり。

 あまり近代的な物はあまりなかったような?…まあ、エルフって自然を好む種族ぽいし、イメージそのまんまって感じかな?



 8人を乗せた2台のヤム車は、人間の王国「アイレンス・ボレス」国境の町「アビライ」へ動き始めた。


 ◇


 それから5日間が過ぎて、小さな村などを経由し、人間族の国とエルフの国の国境にあるアビライの町へ着いた。


 ここまでの道中、魔物も出たりはしたけど、そこまで強い魔物ではなかったため、僕達の敵ではなかった。


 この間、魔狩人協会御者のオーライとモロスには、逐一、魔狩人協会からのメルロウで手紙が届いていた。


 それによると、≪小規模な魔物反乱スタンピードがあちこちで起こっているので気を付けたし≫の言葉が目立ったと言う。


 それから、僕達が発ったグランリア町では、早速、迷宮遺跡1階層のボス「ミノタウロス・ジェネラル」がAランククランによって撃破されたらしい。

 僕達の残した1階層データがあるにしても、速い討伐だった。


 このままでは、グランリアの町に魔狩人マカド達が押し寄せるのも時間の問題になるため、急いでアビライの遺跡を解放してくれと、ランバルさんから僕当ての手紙も来たくらいだった。


 アビライの門で僕は、魔狩人ランクCのプレートを見せた。

 そう、グランリアを発つ時にランバルさんが昇格して作ってくれたプレートだ。


 全員の魔狩人プレートを確認すると門を開けて入れてくれた。

 門の扉もそうだったが、塀の壁も所々ひび割れが酷く。補修はされているものの、結構ボロボロの印象だった。


 アビライの町の事は、ここに来るまでにチーヌさんから聞いた。


 エルフの国と人間の王国の国境にある、中立の町アビライ。

 どちらからも遠いこの辺境の町では、迷宮遺跡が閉じてしまってからは人がどんどん減ったが、1000年くらい前に闘技場が出来て、賭け事などが好きな住人や、一攫千金を求めて人がやってくるようにはなった、それでも20万人ほどしか人口はいないのだと言う。


 そして流通しているのはお金だけではなく、物や人まで交換対象になり、治安は良くない。


「皆、ここでは貴重品は次元箱持っている人に預けておいた方が良いと思うわ、それだけここは治安が悪いって事よ」


 チーヌはそう皆に伝えた。

 1号車は、イルメイダ次元箱へ財布などは預け。2号車のビクトル達は、次元箱スキルを各自に使えるので開いて仕舞っていた。


 アビライ町の魔狩人協会の入り口で降りると、周りから幾つもの視線を感じた。

 まるで隙を伺っているかのような目が気持ち悪くも感じた。


 魔狩人協会から兵士のような人達が現れ、すぐに僕らを案内し、中へ連れて行った。


 ◇


 魔狩人協会の中へ入ると、一人の老人と、ここの偉い職員らしき人間が立っていた。


「おおお…お待ちしておりました。えっとイロハ殿と言うのは?…」

「僕です」


 そう言って一歩前に出る。


「よく来てくださった!申し遅れた。儂がこのアビライの町を治めている、ホロウェイ・パンプキンスと申す」

「あ…はい、僕が七羽いろはと言います」

「ふむ。そして俺がこのアビライ町の魔狩人協会の総支配人、ミロク・ハービンジャーと言います。お見知りおきを」

「はい」


 ホロウェイこの人がこの町の長か。

 老人の割には背筋も姿勢正しく、顔に幾つか古傷がある所を見ると、昔は名のある魔狩人だったのだろうなぁ。


 このミロクと言う魔狩人協会総支配人の人も体は大きく。

 歳は50歳くらいだろうか?こちらも筋骨隆々でまだ現役の魔狩人じゃないのかと思うくらい強そうだった。


 2人とも見るからには人間だ。

 中立の町って言ってたけど、エルフの国、人間の国、どちらの所属ではないと言う事なのかな?


「君がイロハ殿か?若いな…幾つなのですかな?」

「あ、17歳になります」

「若いなぁ…でもな。儂はその頃にはすでにBランクになっておっての。その歳っていえば体の…」

「ご、こほん!ホロウェイ爺」


 ホロウェイが身の上話に入ろうとした所をミロクが咳払いで遮った。


「あああ…立ち話もなんじゃ。こっちへどうぞ」


 ◇


 応接間に通された一行はいろいろと話を聞く事になった。


 ミロクさんが主に話を進めた。

 まず、グランリア町の迷宮遺跡が解放された事を聞いたミロクさんは、すぐにグランリア魔狩人協会のランバルさんに連絡を取り、ここの迷宮遺跡も早急に解放して欲しいと打診していたらしい。


 そもそも、西の大陸の魔物が強くなって来て、この東の大陸にしても、いろいろな所で魔物の氾濫が起きている事もあるが、この辺境の町の活性化も理由の一つであり、グランリアの次は先ずアビライ町へと強い要望をランバルさんへ懇願していたのだと言った。


 早速明日には、迷宮遺跡の解放を願い出て来た。

 勿論、僕達はそのためにここに来たわけなので快くそれを承諾したのだった。


 それから、協会総支配人ミロクさんと、このグランリアの町長ホロウェイさんは、元々Sランククランの仲間だったそうだ。

 どうりで屈強そうな体をしているわけだ。


 この町では強い者が尊敬されるらしく。

 この二人は一時、闘技場で10年以上も上位を争った経験もある猛者だった事もあり、今の地位を築いたと言った。

 2人ともこの町が大好きらしく、この町の発展を本当に願っているみたいだった。


 そして、この町で有名な「赤い陽炎」と言う名のSランククランが、僕達が滞在している間護衛してくれるのだと言う。

 宿も用意してくれて、この町で一番大きい宿で、宿の私兵が守りを固めているので、賊などの心配はないらしい。


 何から何まで用意されていて今日はゆっくりと休めそうで何よりだった。



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