第四話   学科

 1日目。自分に合った獲物を選ぶ。

 業は迷わずサバイバルナイフを手に取った。長さの種類は多々あったが、何度か試し切りをして使用イメージのブレが狭いものを選択。肉や、内臓など、置いてあるものを色々な方向に切ってみた。たまに疲れて座り込み、離れた場所にある肉に向かってナイフを投げた。取りに行って、また投げる。一本しかないのだからしょうがない。何回か繰り返していると、壁の下方のスペースから音がした。水と弁当が届いた。多少食べては疲れて寝た。


 2日目。獲物の遣い方に慣れる。

 業が起きると、室内の様子が変わっていた。切り刻んだ肉や内臓が一新されている。何物かが業が寝ている間に室内に入り、慎ましく作業を遂行したのだろう。選んだサバイバルナイフの本数が増えている。業は内心で「ありがたい」と呟いた。


 基本的には前日とやっていることは変わらない。肉や内臓を切り刻み、切り方や力加減を学ぶ。疲れたら座り込んで、的に向かってナイフを投げる。本数が増えた分、立ち座りの回数が減った。また、水と弁当が届いた。まだ食事をする気分ではなさそうな業は、とりあえず机の上に移動させ、再びナイフを投げ始めた。


 カリキュラムは雑な内容ばかり。業は飽きを感じつつも、休む時間は最小限に活動を続ける。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切って。投げて。切れ味が明らかに悪くなってきたと感じ、刃を見ていると再度食事が届く。弁当の半分と水分をとって、寝袋に入った。


 3日目。刃のメンテナンス。

 指定された場所を確認する。教壇の中に、メンテナンスと書かれた段ボール箱がある。ほとんど休みなく使用され通づけた刃は刃こぼれしている。切れ味の悪さは素人の業でも明確にわかっていた。


 指定された通り、口にタオルを挟んだり、ヤスリにかけたり、吹いたり、綿で叩いたり。説明書に書かれた通り、忠実に行う。たまに試し切りをしながら、不明瞭な手ごたえを感じ取る。手元にある数十本のサバイバルナイフを全て磨き終えた時、再度食事が届いた。


 14日目。人体を学ぶ。

 人間の急所を実際の教材を使用して学ぶ。部位ごとに出血量が変わる。つまり、失血死までの時間が変わる。弱り方が変わる。復讐は自己満足だ。勢いのままに殺すのもよし。じわじわと痛みつけるもよし。機嫌を取らせて、相手の人格を歪ませるも良し。どこをどうやって刺したらどのような状態になるのか。計画的に自分のいいように復讐を進めていくための勉強。同時に治療方法。自分のため応急処置を学ぶ。


 19日目。動く的に狙い通り射す。

 実際の相手は動いているのだから当然だ。不規則に動く人体模型を追い、急所や関節、血管を狙ってナイフを振るう。繰り返し、食事を挟み、レベルを上げる。人体模型は人体に。飛び散る血液による環境も想定しながら、狭い空間を走り回る。


 21日目。別の武器に慣れる。

 ナイフが使えない場合もある。今までの体の動きをガラリと変える必要がある。ナイフに慣れ切った体だが、別の武器を多種扱ってみた。カリキュラムが始まってから初めて顔を顰めた。もちろんのことながら、得物が違うだけで動きは当然変わる。『特に扱える』ものから『扱いにくい』ものへ。フラストレーションもストレスもたまる中で、精神を落ち着け、いかにパフォーマンスを上げるのかの訓練。


 25日目。複合訓練。

 その場にある武器を、一定時間で入れ替えて、不規則に動き回る的を切り刻む。一定量の血液が流れたら的が入れ替わる。その時間もランダムなため、休息が入るか入らないのか、入るならどれだけ入るのかが不明。突発に始まる可能性もある。状況対応能力も向上を目指すもの。


 そして、30日目が終わる。

 アナウンスが鳴り響く。

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