ベッドにて眠る子犬の触れる背に 思い出すのは昔のあの娘(こ)

   

 もう私は50代であり、普通ならば大きな子供がいるような年齢です。そんな人間が詠んだものなので、読者の方々からは「これは親が娘を想う短歌だろう。『昔のあの』は亡くなってしまった娘、あるいは既に大きくなった娘の小さかった頃を意味している」と思われるかもしれません。あるいは「昔の」を「自分も小さかった頃」と解釈して、幼少期にお昼寝か何かで友達と添い寝した思い出だと思われるかもしれません。

 まあ解釈は読者次第ですからどんな解釈でも構わないですし、私としてもわざと違う解釈も出来るように詠んだつもりもあるのですが……。

 あまり現実とかけ離れた「嘘」を歌うのは心苦しいので、本当のところを一応、記しておきます。


 少し紛らわしく「昔のあの」としましたが、その部分は最初「昔の彼女」あるいは「昔のカノジョ」と考えていました。

 子犬と一緒にベッドで寝ていると、学生時代に付き合っていた女性のことをふと思い出す。そんな心情を詠んだ短歌です。

 といっても、別にその女性が外見的に犬と似ていたわけではありません。さらに少し説明すると……。


 ペットの犬は野生動物ではなく愛玩動物なので、基本的に飼い主とのスキンシップは大好き。背中やお腹を撫でられたら気持ち良さそうですし、人間に抱きかかえられた状態のまま、お腹の上だったり長椅子で一緒に横になったりでウトウト昼寝するのも気持ち良さそうです。

 しかし日中の昼寝にせよ夜ベッドで就寝する際にせよ、軽くウトウトでなくグッスリ眠ろうとしている場合は事情が異なります。抱きかかえられるのも撫でられるのも鬱陶しいらしく、逃げるように移動したり、前足や後ろ足を突っ張って押しのけたりという仕草を見せます。

 ただし、そんな時でも軽いスキンシップは欲しいみたいで、こちらから触れるのは嫌がるくせに、犬の方からは背中を少しくっつけてきたり、前足や後ろ足でピトッと触れたり、こちらの腕や脚を枕にしたり。


 そんな犬の様子を見て思い出したのが、若い頃に付き合っていた女の子のことでした。以前に書いたノンフィクション小説;


『郵便受けの白い箱』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895695875


 において、


>当時付き合っていたKちゃんは、私よりもかなり年下。


>ほとんど毎晩、私の部屋で寝泊まりする状態。いわゆる半同棲というやつだろうか。もう着替えも勉強道具も私の部屋に置きっぱなしで、洗濯も二人分まとめて行うくらいだった。


 という記述がありましたが、その『Kちゃん』の話です。

 彼女もベタベタするのは好きなタイプで、ギュッとハグしたまま眠る場合もあるほどでした。しかしそんな彼女でも、ある時「毎晩のようにこんな格好で眠ると、いくら眠ってもあまり疲れが取れないから嫌」みたいな言葉を口にしていました。

 その発言をふと思い出して「犬も人間も同じだなあ」と思った次第です。




 

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第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部 烏川 ハル @haru_karasugawa

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