「だが、我は気まぐれなものでな。お主には特別な処置を施そう」

「うー頭痛い」

アリシアがゆっくりと起き上がる。

「あれ、ここはどこ?」

アリシアは目をこすりながら、周りを見回した。すると、目の前にはセイレンの部屋のベッドがあった。


「えっ、私、ここで寝てたの?」

アリシアは驚いて言った。そういえば、昨日はエデンヤードの市で、セイレンと一緒にお酒を飲んでいた。その後のことはあまり覚えていない。

「もしかして、セイレンと……」

アリシアは顔を赤くして思った。そのとき、ベッドの横にある椅子に気づいた。そこには、セイレンが座ったまま寝ていた。


「うわー、私ってひどい人だ」

アリシアは自分を責めた。セイレンは自分のことを大切に思ってくれているのに、自分はセイレンに迷惑をかけてばかりだ。

「ごめんね、セイレン」

アリシアは小さくつぶやいた。そして、そっとセイレンの頭を撫でた。セイレンは眠っているのに気づかず、甘えるようにアリシアの手に顔を寄せた。


「ん……アリシア……」

セイレンは夢でも見ているのだろうか。アリシアの名前を呼んだ。


「あ……」

アリシアはドキッとした。セイレンが自分の名前を呼んでくれるというのは嬉しいけれど、今はちょっと困る。セイレンが目を覚ましたら、どう説明すればいいのだろうか?


「あのね、セイレン……実は私……」

アリシアは言おうとしたが、その前にセイレンが目を開けた。



「お目覚めになられましたか、魔王様」


「えーと、はい」


「よくお眠りになられましたか」


「そうですね……」


「私、セイレンは昨日魔王様にあのようなお言葉をかけていただいて、大変光栄でございました」


「えっと、セイレン……」


「私めのことを好きと」


「実はあれは……」

アリシアは慌てて言い訳をしようとした。でも、セイレンはそんなアリシアの言葉に耳を貸さなかった。彼はニヤリと笑って、アリシアの顔を両手で包んだ。


「魔王様、私も魔王様のことが大好きですよ。昨日はありがとうございました」

セイレンはそう言って、アリシアにキスをしようとした。アリシアは驚いて目を見開いた。彼の唇が自分の唇に近づいてくるのを見た。


「ふぁ……!」

アリシアは声を上げた。彼は自分をからかっているのだろうか。それとも、本気なのだろうか。

「セイレン、やめて……」

アリシアは抵抗したが、セイレンは止まらなかった。彼はアリシアの唇に触れる寸前で、急に顔を引いた。

「あはは、ごめんごめん。冗談だよ、冗談」

セイレンはそう言って笑った。


アリシアはきょとんとした顔をしていたが、その直後ニヤリと笑った。

「ふふふ、お主は我を愚弄したか」

アリシアはそう言って、セイレンの胸に手を置いた。


「えっと、そういうことでは」

セイレンは戸惑って言った。


「魔王に対してそのような態度、万死に値する」

アリシアはそう言って、セイレンの耳元で囁いた。

「だが、我は気まぐれなものでな。お主には特別な処置を施そう」

アリシアはそう言って、セイレンの首筋にキスをした。セイレンは身震いした。

「あっ……」

セイレンは声を漏らした。


「どうだ、お主。我の呪詛の力を感じるか」

アリシアはそう言って、セイレンの体を這うようにキスを続けた。


「ああ……やめて……」

セイレンは抵抗したが、アリシアは止まらなかった。彼女はセイレンの唇に触れる寸前で、急に顔を引いた。

「あはは、ごめんごめん。冗談よ、冗談」

アリシアはそう言って笑った。




「昨晩はとても申し訳なく……」

アリシアはベッドの上で縮こまって答えた。


「いや、別に気にしなくていいよ。酒の席で失敗するのは誰にでもあることだから」

セイレンは笑顔で言った。


「でも、あなたにおぶってもらって……恥ずかしい……」

アリシアは顔を赤くしてうつむいた。


「そんなことないよ。むしろ、あんなに軽くて驚いたよ。魔王としての食事はどうなってるんだ?」

セイレンはからかうように聞いた。


「ふ、ふん。私は魔界の大地の力で十分だ。人間のように食べ物に頼る必要はないわ」

アリシアはまた魔王プレイに戻ったようだ。


「そうか。じゃあ、今日の朝食はパスかな?」

セイレンは冗談めかして言った。


「え? 朝食? あなたが作ってくれるの?」

アリシアは目を輝かせてセイレンを見た。


「ええと……まあ、作れるけど……」

セイレンは少し困った表情をした。


「じゃあ、作ってちょうだい。私、人間界の食べ物にも興味を持ったわ」

アリシアは無邪気に言った。



「うわっ、これおいしい!」


「よかった。アリシアの好みに合ってるみたいだね」

セイレンは嬉しそうに言った。


「ふふ、これは何という食べ物なの?」

アリシアは手に持ったパンを指さして聞いた。


「これはクロワッサンというパンだよ。バターをたくさん使って焼くんだ」

セイレンは説明した。


「バター? それは何?」

アリシアは首をかしげた。


「牛乳から作る乳製品だよ。魔界にはないのかな?」

セイレンは驚いた。


「牛乳? 乳製品? それも初めて聞いたわ」

アリシアは興味深そうに言った。


「じゃあ、これも食べてみて。チーズという乳製品で作ったケーキだよ」

セイレンはチーズケーキを切ってアリシアに出した。


「チーズケーキ? これもおいしそうね」

アリシアは一口食べて目を丸くした。

「んんん! これはすごい! 甘くてふわふわで……」

アリシアは感激した様子で言った。

「やっぱり、人間界の食べ物は素晴らしいわ」

アリシアは満足そうに笑った。


「ありがとう。でも、魔界の食べ物も悪くないよ。あの、黒いやつとか」

セイレンは思い出そうとした。


「黒いやつ? ああ、あれはヘルズフルーツという果物よ。酸っぱくて苦くて辛いけど、魔族にとっては栄養豊富なんだから」

アリシアは誇らしげに言った。


「そうなんだ。でも、あれを食べると口の中が痛くなるんだよね」

セイレンは苦笑した。


「そういうのが好きなのよ。人間にはわからないでしょうけど」


「まあまあ、好みは人それぞれだからね。でも、今日は人間界の食べ物を楽しんでくれてありがとう」

セイレンは優しく言った。


「ええ、ありがとう。でも、次回は私が魔界の食べ物を作ってあげるわ」

アリシアは意地悪く笑った。


「え? 本当? それって……大丈夫?」

セイレンは不安そうに言った。


「もちろんよ。私が作るとおいしいものに変わるから」

アリシアは自信満々に言った。


「そうか……じゃあ、楽しみにしてるよ……多分」

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