番外編 私を見ない不思議な君 その2

 アタシには気になる男の子がいる。景浦信夫という変な男の子だ。出会って二日目で告白して来た。


 アタシは自他共に認める美少女だから、一目惚れされたのかと一瞬思った。でもシノブくんは私の容姿については一切語らずアタシのことを好きだと言った。それがアタシの心を震わせた。

 今思えば出会って何が分かるんだって感じちゃうけれど、でもあのとき確かにシノブくんという男の子に恋をした。

 同じ部活に入って、だんだんシノブくんについてわかってきたことがある。


 シノブくんはいい人だ。よく誰もいない朝の教室を掃除していたりする。案外抜けていてアタシがいることに気づかないこともしょっちゅうだ。


「仕方なくだよ。普通のことだろ?」


 いつだってこんな風なことを言うけれど、シノブくんの言う普通は割と善人だ。性善説的な考え方なのか、それともそう思いたいのか。シノブくんはみんながめんどくさがってしないことを率先してやる。


 そういうところはいいと思う。アタシにはない魅力だ。

 シノブくんはいい人で、それに気づく人は少なくない。幼馴染のヒカリちゃんに



 でもやっぱり、シノブくんは私に何か隠しごとをしている。



 最初はアタシを見るのを照れているんだって思った。でも違うってすぐにわかった。

 シノブくんは相手の目を見て話す。相手をよく観察する。美人の天見先輩相手だって目を見て話す。それどころか天見先輩に限って言えば睨みつける勢いで見ている。ついでに大きな胸にもよく視線が奪われている。

 見ちゃ駄目とは言わない。アタシだってつい目線が行っちゃうから。でも相手からはわかるものなんだから、そんなチラチラ見るのは良くない。


 ……話が逸れた。えっと、シノブくんがアタシに目線を合わせないのは何かしらの理由があるんだと思う。その理由が何かは分からない。だけど話してくれないってことは話せないようなものなんだと思う。


 いつか話してくれるまで待つつもりだけど、正直自信がない。アタシは割とせっかちだから。



 それに何だろう。アタシはシノブくんに話しかけたときから、なんだか初めて会った気がしなかった。どうしてだろう。シノブくんみたいなどこか達観した性格の子なんて、覚えていそうなものなのに。

 気のせいなのかもしれない。いや、きっと気のせいなんだと思う。


 もっと前から出会っていたかっただなんて、少し痛い妄想なのかな。


 誰もが羨む美少女のはずのアタシが、他の子の手作り弁当を頬張る男の子に頬を膨らませている。絶対、振り向かせて見せる。でも私のことを見てないのにどうやって見てもらえばいいのかな。


 足踏みしてたら、他の子に取られちゃう。だからアタシは一歩踏み出すことにした。



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