第7話勇者の座学

 今日は座学だ。毎日剣を振る必要はあるが、毎日ひたすらそればかりしていてもマンネリ化してしまう。

 基本的な素振りだけして、今日は勇者の心得について教えることにした。

「アリア、俺は勇者だった頃に培った持論がある」

「はい。それは何ですか?」

「勇者の力は半分は聖剣の力、もう半分は仲間の力ということだ」

 アリアは不満げだ。

「でも、それじゃあ勇者である自分は何もしていないってことじゃないですか」

「いいかアリア。勇者として国を救っても、魔王を倒しても、世界を救っても、決して増長しちゃいけない。これはそういう戒めだ」

 アリアはそれを真面目に聞いていた。

「まあ、俺が言いたいことはそれだけだ」

 これはあくまで持論であって、正解ではない。弟子である以上は伝えておいた方がいいと思ったが、絶対に守れというつもりもない。

 アリアはきっと旅の中で、自分だけの持論を見つけていくだろう。

 俺は棚からチェスのボードと駒を取り出した。

「アリア、お前にはこれから、俺とチェスで戦ってもらう」

 俺は駒を並べ始めるが、アリアは不満げだ。

「遊びですか? 息抜きとか?」

「違う。これも修行だ。勇者は基本的にパーティーのリーダー。指揮官を担う。その時に、きちんと指揮をとれるように、チェスで戦術を学んでおくんだ。それに、チェスはプレイ人口も多いから、知っておくと仲間や民衆との話題作りもしやすい」

「色々考えてるんですね……」

 アリアは俺を少し見直したというか、感心したような目で見てくる。

「じゃあ行くぞ。目上が黒い駒だ」

 というわけで、当然師匠の俺が黒い駒を動かす。

 何十手と駒を動かし合うが、中々勝負がつかない。俺も騎士見習いの頃から仲間と賭けトランプやチェスはやりこんだので、アリアに進められる程度の腕前はあると思っていたのだが。

「中々やるな……」

「フーバー王国でも、チェスは貴族の遊びとしてありましたから」

 ああ、そうだった。久しぶりに会った時にボロボロの姿だったから忘れていたが、アリアはフーバー王国の王女。高等教育を受けていた。

 これなら基礎的な学力をつける修業はしなくてもいいかもしれないな。

 結局、接戦の末に俺は負けた。

「ううむ……参った」

「ありがとうございました」

「各国の治安情勢や基礎知識を教えようかと思ったが、必要なさそうだな」

 旅をするにあたって、通る国の治安や情勢は重要だ。安全なルートを通れば危険も減らせるが、勇者として治安をよくするのもいい。

「はい、基本的な知識は頭に入っています」

 ならいいか。知識面の修行を減らして、その分致命的な戦闘面の修行を増やそう。

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