第6話剣の基本

 あれから数日。アリアも薪割に慣れてきた頃だ。流石にいつまでも薪割りばかりさせているわけにもいかない。

「そろそろ剣を持ってみるか」

「はい!」

 アリアも変わり映えのしない毎日に嫌気がさしていたのだろう。修行に変化があって嬉しいようだ。

 俺は冒険者としての活動に使っている鉄剣を持ってくる。

「そら、まずは持ってみろ」

「はい!」

 アリアは薪割りで多少筋力が付いたかもしれないが、斧と剣では重心が違う。

 斧は刃の部分に重心があるから遠心力で振り回せるが、剣は重心が柄にあるから斧と同じ要領では振り回せない。

「とりあえずそれで素振りしてみろ」

「はい」

 アリアは少しふらつきながらも素振りをし始めた。もしかしたら剣よりもアリアに合った武器があるかもしれないが、勇者になるには聖剣を抜く必要がある以上、勇者の武器は強制的に剣になる。

 しばらく経つと、ようやくアリアはそれなりの素振りをするようになった。

「よし、模擬戦でもしてみるか」

「はい。でも、剣が……」

 剣はそれなりに大きさのある武器だ。故に予備や二刀流でもない限り、余分に持ち歩くことはない。そして、俺は剣を一振りしか持っておらず、予備武器としては持ち運びのしやすいナイフを重宝していた。

「そうだな……お、いいのがあるじゃないか」

「え、それで大丈夫なんですか?」

 俺は掃除用の箒を取ってくる。木製なので剣とは打ち合えないだろうが、方法はある。

「同じ実力なら危ういだろうが、剣を握ったばかりのお前くらいなら大丈夫だ」

「そうですか。じゃあ、殺す気で行きます」

「おう、来い」

 俺が言い終わるより早く、アリアが踏み込んだ。剣を真横から降り抜く。これを箒で正面から受け止めたら終わりだ。俺は身体の角度を変え、箒の柄を剣の刃に沿わせて受け流す。

 勢いを殺せなかったアリアはそのまま半回転して俺に背中を見せた。

「一本」

 俺は箒の柄でアリアの背中を叩く。

「痛っ⁉」

俺はアリアの非難の視線をスルーして、説教を始める。

「一撃必殺もなしじゃない。が、絶対に攻撃が入ると確信した時だけにしろ。普段は攻撃の後、すぐに体制を戻せるようにしておけ」

 それからしばらく模擬戦をしたが、アリアは俺から一本も取れなかった。まあ、今日剣を握ったばかりの相手に一本取られでもしたら元勇者として恥ずかしい話だがな。

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