第46話 百合さんと泣いた親友


13日


今日は休日 明日ですね。


いろいろな感情が入り混じって落ち着きません。

自分が告白をするとしたら、

恋敵と競うように告白をする時が来たら、

こんな気持ちになるのでしょうか。



そんな昼下がり 世界樹広場


椅子に座って人待ち顔の美少女がふたり


行かなければいけません。


最優先事項です。



――――



「こんにちは ふたりともどうしたの 部屋の方に来ればよいのに」


「世界樹広場でお話ししたくてお願いしていました」


いえ 念じなくても来ますからね。


ふたりの服はクリスマス会と同じもの

流石に冷えますので上着を着ていますがどうしてドレスで来たのですか。



「見習いだけど『聖女の祈り』をするのです」


「間違えないか見ていて欲しいです」


「自分で術を使うならズルくないですよね」


上着を脱ぐとドレスの上に『聖女見習い』のケープ

彼女たちにとって最上の正装です。


取り出したチョコレートの小箱をテーブルの上に置きます。


渡す瞬間までに出来ることを全力でやっておく

そういう意気込みなのでしょう。



「雪ねえさまは『ぶれっしんぐ』も使っちゃダメです。

 じぶんの力でやりますからね」


『聖女の術 ブレッシング』・・・・ あははは

お願いですから忘れてください。



――――



乙女の 聖女見習いさんの儀式

口出ししないで見守ります。


心が納得することをやってください。

それがチョコレートを渡す力になるのでしょう。



チョコレートの箱を挟んで世界樹と向き合います。

箱の上には世界樹の葉が一枚

彼女たちの工夫です。


目を合わせて呼吸を合わせて



「世界樹さん 聖女見習いに勇気をください」



願ったのは『渡す勇気』『踏み出す勇気』

恋愛の成就を願いませんでした。


お姉さんには決意表明に聞こえました。

恋愛に対する考え方は私より大人かもしれません。




世界樹はただ静かに立っていました。

でもちょっとだけ微笑んだような気がします。


植物でも命はあるのです。

自分に手を合わせ真剣な願いをする少女

悪い気分にはならないでしょう。



世界樹さん 見ていてあげてくださいね。




――――




私も次の恋がしたいな


もう踏み出せるかな


脚はまだ震えています。


情けない私です。






チョコレートを作った日


実は渡し方も決めていました。


水玉さんは図書室に呼び出して手渡しをするそうです。


図書室の奥 図鑑のある書棚前を決戦の地に選びました。



呼び出す姿を恋敵に見てもらうと言っていました。

明確な恋敵な訳ではありませんが、水玉さんが感じ取っている脅威です。


牽制、もしくは宣戦布告 どちらにしても決意ある意思表示となるでしょう。


現在の雰囲気では受け取ってはもらえると感じているようです。



§



百合さんは今年も自宅まで届けに行きたいと決めました。


百合さんにとっての正装 聖女見習いの姿で届けに行くそうです。


今回は水玉さんの付き添いはなくひとりで


そして渡すとき『ぎりちょこ』とは言わないと決意しています。




それぞれの決意 立派ですね。戦う恋する乙女です。





当日


夕刻にと打合せしたはずなのに昼過ぎには全員そろっている私たち


暇ですか 暇なのですかっ


どうして月曜日のお昼に集まれるのですかっ(自爆)


本当にみなさん スケジュール大丈夫なのですか



「何も手に付かなくなって切り上げてしまいました」


「わたくしも浮足立って、母に送り出されてしまいました」


みんな同じようです。


仕方ない人たちですね。私も含めて・・・



――――



司書さんより連絡


水玉さん 無事に渡せたようです。

詳細については後日とのこと・・・ 業務中ですからね。



全員から安堵のため息がもれます。

受け取ってもらえないという最悪の事態は避けられました。



あとは本人がどう感じているかですね。



――――



「ただいまぁ」


先に百合さんがやってきました。


聖女見習いの服装のまま来たのですね。


ちょっと強張った笑顔 



「百合ちゃん 大丈夫なの」


「まずはこちらにおかけください」


「シュークリーム食べますか 食べましょう」



百合さん お話しできますか



「がんばりました。ちゃんと顔を見てわたしてきました」


緊張がずっと続いて強張ってしまったのですか。


お姉さんたちがいますからね。ゆっくりと落ち着きましょう。



「でも水玉ちゃんがまだです」


だからまだ緊張しているのですね。優しい子です。



――――



「おじゃまします」





泣いてる・・・







駆け寄る百合さん 


何も言わずに抱きしめる姫子さん


水玉さん 震えています。様子がおかしいです。



――――



「あのね 図書室でわたしてきたの 笑ってうけとってもらったの」


嬉しいですね。頑張りましたね。



「副委員長ちゃんも何か持っていたから先に渡さないと負けちゃうと思って

 すぐに図書室でわたしたの」


「うれしくて落ち着くまで図書室にいて それから帰ってきたの」


「そうしたらね・・・」



「副委員長ちゃんが泣いていたの 帰りみちでひとりで泣いて歩いてたの」


「だからね だからね」



「私ひどいことしちゃった ないしょでわたせばよかった」



独白 嗚咽することなく 絞り出すような独白


そして止まらずに流れ続ける涙



あなたは恋敵のために泣いていたのですね。



§



副委員長さんは渡せたのでしょうか

水玉さんの気持ちを感じて負けたと思ったのでしょうか


告白をして断られたのでしょうか


憶測のみで真実はなにもわかりません。



――――



「お姉さんがね 今からとっても厳しいことを言うよ」


エンジェル先輩が前置き



「副委員長ちゃんが負けたから泣いているって思っているよね。

 

 水玉ちゃんがチョコ渡したことを知って負けたくないって

 勇気を出して告白したらどうなるかな。


 水玉ちゃんはチョコを渡せただけだよ。

 副委員長ちゃんが告白して両想いだったらどうなるかな。

 嬉しくて泣いていたとしたらどうかな」


青くなる水玉さん



「それにね。もし今日は副委員長ちゃんが負けたと思っても逆転があるんだよ。

 女は泣くと強くなるの 

 泣けば泣くほど強くなるの

 副委員長ちゃんはきっと強くなる。

 

 勝負は終わってないよ。


 今は学級委員長くんのことだけ考えていなさい。

 大好きって気持ちで負けちゃだめだよ」



まだ終わったわけではありませんからね。


恋する気持ちが育って行く小学生

今から激動の青春時代が待っています。



「喜ばないとライバルに失礼だよ。『やったー』って言ってみて」


そうですね。せっかくチョコを渡すって目的を達成したのです。

喜びましょう。



「せーの やったー・・・ 私だけじゃないですかっ」


アリスさん空振りしました。


「全員で喜びますよ。百合ちゃんもですよ。 みんな右手を突き上げて『やったー』ですよっ」



せーの「「「やったー」」」



アリスさんは一瞬で空気を変える名人ですね。

本当に不思議な子です。



「これでシュークリーム食べられますっ」


本当に不思議な子です。



――――



「一生懸命つくりました。たべてください」って・・・


恥ずかしそうに話す百合さん

水玉さんが落ち着いたら緊張が解けたようです。

きちんと渡してきたのですね。



「ありがとうって 言ってもらった の」


ひーくんも素直に受け取ったのですね。

良い関係だと思いますよ。



§



「私の気持ちです。受け取ってください」って・・・


うわぁ 告白ですよ。水玉さん攻めましたね。

それで何と言われたの


「ありがとう うれしいよ」って・・・


嬉しいって 嬉しいですってよ 奥様っ

恋心確定ではありませんことっ        ←あなた誰



「私 うれしいって言われてない・・・」


百合さん そこで嫉妬してどうするのですか。

ひーくん 一言足りなかったようですよ。



§



「でも明日恥ずかしい。 お休みなら良いのに」


まだ月曜日ですからね。


「私も恥ずかしい。 どうしよう」


ふたりとも大胆に攻めた反動が来たようです。



正直に申しましょう。



その戸惑う表情 すっごく可愛いですっ 恋する乙女です。



――――



「お姉さんたちにチョコレートつくりました。ありがとうございました。」


ふたりが差し出すチョコレート


あの日に作ったふたり合作のマーブル模様のチョコレート

このために作っていたのですね。


幸せのお裾分け ありがたくいただきます。



エンジェル先輩 泣かないでくださいよ。喜びすぎです。


みんなで分けましょうね。





みなさん笑顔で帰ることが出来ました。


一時はどうなるかと思いましたがこれで良かったのですよね。




姫子さんに私の手作りチョコ差し上げますよ。



「お雪にもチョコあるよ。愛情いっぱい込めたからね」


他の子にも配ったんでしょ 殿方だけでなく女の子にもね。



「嫉妬かな」


嫉妬ですよ。揉みますよっ



今年も面倒なふたり 拗らせております。


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