第38話 恋する街角【お茶と愛情】


日本茶に凝っておりまして


お茶を通じた友人もずいぶん増えました。


もとは習い事のひとつとして始めた茶道ですが、やってみると面白い物です。


お抹茶ですが、飲むだけであれば粉を入れてお湯入れてかき混ぜたら完成でございます。

インスタントコーヒーと同じ感覚なはずなのですよ。

(お師匠様 暴言をお許しくださいませ)


それをあえて茶室という狭い空間で作法を楽しむあの緊張感

慣れると快感となって参ります。



お抹茶が身近にある生活を送っておりますと、他のお茶にも興味が湧いてくる物です。


そしてはまり込んだのが煎茶でした。

俗に言われる緑茶 The日本茶と言ったところでしょうか。


茶葉の産地や時期などによる味の変化を追い求めておりますと、お気に入りの茶匠さんも出来て参ります。


各産地のお茶を厳選し、最高の状態で提供して頂けるのが茶匠さん

お茶を見極めるセンスが問われる職業です。

セレクトショップの仕入担当さんと言ったところでしょうか


そんなお気に入りの茶匠さんの物語



茶葉を買い求めて独り旅


ネット通販を利用すれば良いのですが、直接顔を合わせて購入したい茶匠さんが居るのです。


お茶の聖地と言われる所を巡ります。


愛読しているお茶を主軸とした物語

日本茶と共に日本各地を巡った主人公 

同じ場所に立つと憧れの主人公と心重なったように感じます。


――――


「雪さん 遠いところをわざわざありがとうございます」


奥さまに対応して頂けました。


おしゃれで明るい店内

窓際はカフェになっておりまして茶畑を眺めながらお茶を楽しむことも出来ます。


定期的にお茶講座なども行われておりまして私も受講したことがございました。


お茶の煎れ方 茶器の選び方 

お茶を使った料理

お茶の香りを利用したサシェ作り


すべて奥さまの知識と工夫で運営されております。


このお店は茶匠さんの旦那様を中心に奥さまが切り盛りしております。

アルバイトの女性が数名 みなさん穏やかで気持ちの良い空気が流れております。


奥さまのそばにはもうすぐ二歳になる女の子

可愛いですね。

お姉さんのこと覚えていますか


ちょっと恥ずかしいようですね。


仕事熱心ながらも子煩悩で優しい旦那様

夫を「旦那様」と呼ぶ奥さま


素敵な家族でございます。


――――


私の父がビジネスとして関わるようになったのが最初の繋がりでした。


奥さまと知り合ったのは地域産業の振興を目的とした展示会

ちょうど煎茶に興味を持ち始めた私は父を放置して奥さまと話し込んでしまった想い出があります。


ひとりの客としてお店にも脚を運ぶことも多く、歳の離れた友人として深いお付き合いとなりました。


そうなると恋に恋する乙女としては旦那様との馴れ初めが気になります。

どのように射止めたのでしょうか。


この恋バナ 奥さまは話すことを躊躇されておりました。

恥ずかしがるのではなく、ためらいを感じました。


無理に話さなくても良いですよと引いたのですが、

奥様が決意をして口にした言の葉




「私はかつて男でした」




 『性同一性障害』


知識では知っておりました。

しかし自分の目の前で告白されるとは思っても居ませんでした。

心だけでなく身体も障害があり男性としても不完全だったとお聞きしました。


奥さまは苦しみましたが幸いにもご家族は味方でした。

手術も行い性別は女性へと変わりました。


私と出会ってから違和感を感じなかったほどです。

むしろ美しさに感心しておりました。


その上、すべてを理解してくれる男性と巡り会い結婚致しました。


旦那様はお茶のお店を経営する家の次男です。

長男ご夫婦と一緒に家業のお茶のお店を経営されておりました。


困難を乗り越え、温かな人に囲まれた良縁

素晴らしいことだと感じました。

私も心より祝福致しました。


これも愛の形


友人としてお話しして頂いたこと

非常に嬉しく感じました。


こんなに温かな家族


しかし一年半前 悲劇が襲いました。



――――



長男ご夫婦が交通事故により死亡


この一報を心が理解するまでに時間がかかりました。

記するだけであれば一行で足りてしまう悲しい事実


そしてご長男夫婦には生まれたばかりのお子さまがいらっしゃいました。

奇跡的にお子さまだけは生き残ることが出来ました。



どん底とも言える悲劇の中

この子供だけは幸せにしなければいけないと

ご長男夫婦の残した命を守らなければいけない


次男夫婦は養子として、長女として子供を迎えました。


子供を産むことは敵わぬ身

だからこそ誰よりも愛を注ごう

だからこそ母となろう


その決意 

誰も反対する者は居ませんでした。


私の父も全面的な支援を約束しました。

もちろん私もできる限りの応援を約束致しました。


経営の見直し 

販売経路の開拓


各種資格の取得

店舗の改装


すべては愛すべき子供のために

愛されるべき子供のために





恥ずかしがりながらも私の膝に乗ってくれました。

その笑顔は宝物ですね。


一緒に写真を撮ってもらえますか



無償の愛情を注がれて笑っていますよ。



私が来る日に合わせて仕入れてくれたお茶


『音無茶』


旦那様は相変わらず粋な方ですね。

大切に飲ませて頂きますね。




恋する街角

困難を乗り越える強い強い愛がある


そんな世界に私は生きています。


――――


執筆にあたり奥さまに承諾を得ています。

このような愛の形もあるのだとひとりでも多くの人に知って頂けるのであればと快諾頂きました。私に出来る精一杯の表現で紡ぎました。

特定を避けるためぼかした部分が多くなっております。

ご了承くださいませ


どうかこの家族に幸有らんことを

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