第32話 百合さんと聖女の祝福


なぜか今夜は心開いて恋心を語ってしまいます。


不思議な夜でございます。




気が付けば部屋の雰囲気が徐々に変わってきたことに気が付きます。


夜会が始まる頃は明るく白色に近かった照明が柔らかな暖色へ


わずかですが蠟燭の灯のように揺らぐような演出がされております。



今更ながらにエリザベス先輩がホストであることを感じさせます。

隙のないお方でございます。


この「粋」に気が付くか試されているように感じてしまいます。

無粋でございますね。


私もまだまだ若輩者のじゅうななさいでございます。

素敵な淑女になれるよう精進致します。


――――



「甘い恋をされているエンジェルさん

 先達として恋をご教授いただけませんか。


 どのような所に心惹かれたのでしょうか」


唯一お付き合いをされているエンジェル先輩でございます。

素敵な恋を語っていただきましょう。



「あの人の好きなところですか。

 正直なところわかりませんね」


好きなところが分からずにお付き合いされたのですかっ


もしかしてコロッケに惹かれたのですか

(第21話をご参照くださいませ)



「無理のない距離で一緒に過ごして


 いつのまにか心に住んでいて


 恋をしているって感じた時に告白されたから・・・


 素直に気持ちがストンと腑に落ちて

 『あぁ この人だったんだなぁ』と自然に感じたからね」



いつのまにか恋していたなんて良いではございませんか。



「恋をしていると感じたとはどのような時でしたか」


恋を自覚する瞬間 気になります。とても気になります。



「あのね いつも何気なくしていたことが急に出来なくなるの


 いつものように挨拶しようとしたら急に緊張してしまうの

 冗談みたいに肩を叩こうと思ったら触れられなくなってしまうの


 恋って突然来るんだよ」



突然なのですね。突然恋する乙女になってしまうのですね。



「恋はね 自分で恋してるって認めた瞬間から始まるんだよ。

 百合ちゃんも水玉ちゃんもわかるでしょ


 ・・・お嬢もだよ」



っ 私ですか・・・




恋だとは気が付かなかった。


そういうことにしておいてください。





この後も恋の花が咲いておりましたが、物語として紡ぐのはここまでに致しましょう。


乙女の夜会 それはないしょのひみつでございます。



――――



「名残惜しいところではありますが

 お若い淑女がいらっしゃいますので今宵はここまでと致しましょう」



少し微笑んだエリザベス先輩



「みなさまの素敵な恋に祝福を」



両手を広げやわらかな言の葉を口にすると、部屋にふわりと薔薇の香りが漂います。


どのような仕組みで・・・ いえ 野暮な事を口にするものではございませんね。



乙女心を掴むのが上手でございます。本当に・・・


香りの薔薇の花束 受け取らせていただきました。




「花の聖女さま・・・」


夢見るようにエリザベス先輩を見つめる百合さん


水玉さんも興奮気味ですね。



私もその通りだと感じております。



幻想的な光の中 花の香りに乗せて恋を祝福する。


まるで『花の聖女さま』ですね。



聖女の力『祝福』



本物の聖女さまに祝福されたような柔らかな気持ち




薔薇の香りに包まれて夜会は心の中へ溶け込んでしまいました。


素敵な夜会でございました。






みなさん 思うところがあったのでしょう。


夜会の後 それぞれに夜を過ごしております。


私も心の整理をする時間が欲しくなりました。

窓の外 月のない高原の空は星がきれいです。


 

「雪ねえさま お話をしましょう」



百合さん まだ起きていたのですか


水玉さんはどうしたのですか



「エンジェルお姉さんといっしょに寝てしまいました」


先輩 何しているのですか・・・



「ほっとみるくをエリザベスお姉さんからもらってきました」


小さなふたつのタンブラー 

持ち歩くことを予想していたのですね。


そして私の分まで渡すなんて、本当に隙の無いお方です。


ナイトミルク 眠る前に心落ち着くようにとの配慮ですね。

そして百合さんとお話してみてはと提案して頂いているのですね。



「エリザベスお姉さんはお花の聖女さまだったんですね」


私もそう思いましたよ。本物の聖女さまですね。



「お姉さんに教えてもらいました。

 『聖なる水』を作るお花の聖女さまなんてびっくりです」


・・・教えてもらったのですか



「お花の聖女さまは『聖女の術』を使えないと聞いていたのに

 『しゅくふく』を使いましたよね。感動しました」


私も感動しましたが・・・ 術を使えない聖女さま・・・

エリザベス先輩 何をお話したのですか



「『聖女の術』を使えるのは『世界樹の聖女さま』だけだっておしえてもらいました。

 お姉さんは術をみせてもらえないって残念って言ってました。

 聖女さまの間でもないしょのひみつですか」



なんとなく話が見えて参りました。

百合さんに聖女さまの疑いをかけられて、ノリノリで『花の聖女』を名乗ったのですね。


でもウワサの『聖女の術』は恥ずかしいから使えませんと・・・

加えてわたくしも『聖女の術』見てみたいなぁと・・・



先輩っ 何しているのですかっ


設定が増えているではないですかっ 

百合さんの対応が大変なんですよっ


こうなったらお付き合いいただきますからね。




でも先輩なら本当に聖女さまになれるのではないでしょうか


先輩から頂いた『祝福』


きっと一生忘れませんよ。



――――



「雪ねえさま そろそろ寝ましょう。

 明日はハイキングですよ」


楽しみにしているのですね。天気も良さそうです。



「水玉ちゃんみたいに一緒に寝ましょう」


どうしたのですか



「雪ねえさまが寂しそうでした」


いけませんね。今夜は心が揺らいでしまいました。

小学生に恋心を心配されるじゅうななさいです。


一緒に寝ていただけますか




今夜は少しだけ甘えさせてくださいな。


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