第24話 恋する街角【演奏会】



私の母校である中学校の恩師よりお願いをされました。


あれをお願いと表現するのでしょうか・・・



「発表会を手伝ってくれないかしら」



人手が足りないのですか。あの発表会は生徒の自主運営のはずですよね。

なぜ先生が動くのでしょうか。



「実行委員会の生徒からお願いされてね。 あなたのファンだって言ってたわよ。

 だから演奏者として音無が出演して欲しいのよ。 爆乳姫子も一緒にお願いね」



なぜですかっ 上手い人なんて他にも沢山いらっしゃいますよねっ

私のファンって何ですかっ CDデビューなんてした覚えありませんよ。


わざわざ恥をさらしに行くなんて嫌ですよ。

しかも母校までそれなりに距離ありますよ。


スケジュール調整も大変なんですよ。じゅうななさいは忙しいのです。




「来てくれなかったら、あの文集のこと全生徒に紹介・・・」


「はい お姉さま どのような演奏をすればよろしいのでしょうか」



後輩の為です。快く引き受けさせていただきました。





ある理由がございまして爆乳姫子さんと一緒に演奏をする機会がございます。



奏でている楽曲は・・・アニソンなる分野を主として


具体的にはアンパンな方や告白されたいかぐや姫さんなどの楽曲でございます。



ある日の演奏会


観客に母校の生徒さんがいらっしゃったようです。

母校からは距離が離れているのに縁とは不思議なものです。

演奏会の様子がご学友さんの間で話題となり、我が恩師にまで伝わりました。



本来演奏向きではない場所でアニソンを奏でる二人組

ピアノはお胸の大きな女性で、髪の長い女性がバイオリン


遠く離れた場所ですが、一瞬で特定されましたよ。


覚えていてもらえたことは嬉しく感じましたが・・・




そして冒頭の『お願い』となりました。



学業としての音楽でもなく、コンクールで頂点を目指すのでもない、

楽しむ為の演奏、楽しませる演奏

そして音楽の力を使うべき場所 


それを生徒に広く知ってもらいたいとのご要望でした。


なんとなく理由が後付けのような気もしますが、気にしたら負けです。





久しぶりの母校


もちろん爆乳姫子さんも道連れです。


「なつかしいね」


何年振り・・・ いえ ほんの少し前ですね。 


昨日のことのようでございます。


私はじゅうななさいですからね。



――――



出迎えてくれたのは実行委員の生徒さん 


丁寧なお出迎え 可愛らしい女の子が案内してくれます。

おそらく聞いていてくれた生徒さんなのでしょう。なんとなく見覚えがございます。



「お姉さま方 しばらくはこちらで発表をご覧ください」



うん お姉さんやる気が出てきました。

さすが我が恩師は私たちの扱いをよくご存じです。可愛いは正義です。



今日は文科系クラブの発表の場 ミニ文化祭のような行事です。

そこに客員出演することになりました。


こちらからの「強い要望」にて匿名出演です。卒業生とだけ伝えていただきます。



爆乳姫子さんからは


「生徒さんに紛れ込む為に制服を・・・」


と申し出ましたが却下されました。


さすがに痛いですか・・・



――――


 

本来の発表の合間 プログラムにも載っていない演奏


これも「強い要望」です。


ここまできたら驚かせたいのですよ。さぷらいずです。


実行委員さんもノリノリなのです。



――――



予定の吹奏楽さんたちの発表が終わりました。


暗転した舞台で撤収の中 姫子さんがピアノに付きます。


私はバイオリンを持って観客側の中央へ


まだ生徒さんには気が付かれていませんね。




さて行きましょうか




ピアノと姫子さんを照らすスポットライト


始まる演奏は映画にもなった大ヒットアニメソング



寄り添うように入るバイオリン


観客席の真ん中で始まった演奏に驚いてもらえました。



ざわめく空気と驚く視線が快感です。




バイオリンコンクールでの演奏者さん どうして難しい顔をするのでしょう。


真剣さも評価されるのかも知れません。



でも私たちは笑顔で演奏しますよ。楽しいではないですか。


笑いながらバイオリンを演奏する長い髪の女・・・ 近寄ってはいけない人ですね。



――――



メドレーのように続けて弾き終わるとたくさんの拍手を頂きました。


同時に恩師より苦笑いも頂きました。



アニソンのみでクラッシック曲を全く入れませんでしたからね。そこはブレません。



実行委員さんのアナウンス 演奏に至るまでの経緯や趣旨説明をして頂けました。


なぜ私たちが演奏をしているのか知って頂けたのであれば嬉しく思います。



説明の後、暖かな拍手とアンコールまで頂きました。


嬉しいですね。もちろんお応え致します。アニソンでっ



出番が終わり生徒さんの発表へ舞台をお返し致します。


楽しんで頂けたようで何よりです。



そしていつの日か志を同じくしてくれる後輩が生まれるのであればここに立った意味があるというものでしょう。



恩師からの「またお願いするから」の言の葉を受けつつ逃げるように帰ってまいりました。


終わってみますと結構恥ずかしゅうございました。



覚えていやがれでございますですわ




◇◇◇



プロの演奏家でもなく、特別上手なわけでもない私が舞台に立つ小さな演奏会


最初は友人からの依頼でした。



舞台は緩和病棟の玄関ホール


ロビーコンサート



コンクールに出るような方が聞けば苦笑いするようなつたない演奏


それでも拍手を頂きました。


沢山の笑顔を頂きました。



あの時の笑顔が忘れられずに今も細々と続けております。


特に大きな告知もせず、演奏者の紹介すらしない演奏会




ふと気が付くと最近見かける殿方がひとり


今回も聴いて頂けました。



「次の予定は決まっていますか」



ほんの短い会話ですが柔らかな声が印象的でした。





大型ショッピングモール内に設置されたストリートピアノ


期間限定のようです。



時折ですが演奏を披露する方がみえます。



なんとなく浮かれた気分だった私は鍵盤に触れていました。




ただなんとなく 理由もなく



心の中に湧き出てきた楽曲




『月がきれい』



夢を見ているような ふわふわとした気持ちのまま


最後の音を置きに行く




優しい方々から頂いた拍手に一礼


視線を上げた時 あの人がいました。



お互いに驚きながらもちょっと照れくさくて・・・




「今度はいつ会えますか」



「きっと またあの場所で」


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