第4話 百合さんと子犬さん

百合さんが私を聖女だと思っているのは『聖女の術』を彼女の前で使ってしまったからなんですよね。


あぁ そんな目で見ないでくださいよ。痛いですよね。私も反省しているのです。


あの時はこれしか思いつかなかったんです。

ちょっとしたいたずら心だったんですよ。




あの日は小雨が降る肌寒い日でした。





「雪ねえさま この子がぁ」


半分泣き顔の・・・ 

いえ 完全に泣き顔の百合さんが我が家の玄関前に立っていました。



「びしょ濡れでどうしたの」


「この子拾ったの 助けて」



胸には上着に包まれた子犬が一匹

ぐったりとして動く気配もありません。


柴犬でしょうか。よく見ると緑色の首輪をしています。

これは飼い犬ですね。迷子になったのですか。



「どこにいたの」


「世界樹広場のテーブルの下」



雨宿りをしていたのでしょう。これは助けてあげたいです。


でも百合さん あなたも風邪をひいてしまいますよ。



とりあえず私の部屋に行きましょう。

子犬さんと百合さんにバスタオル


しっかりと拭き取ったら座布団型の動物用小型ヒーターで温めます。

(どこのご家庭でも一台はありますよねっ)


わずかですが動いてくれました。このまま温めましょう。



「大丈夫ですか 死んじゃいませんよね」



泣かないでください。 美人さんが台無しですよ。



「シャワー浴びてきなさい。 服も乾かしてあげるから」


「でも でも」



百合さんをお風呂に押し込みます。

強制的に脱がせてポイです。


小学生の美少女を無理やり全裸にするなんて・・・あぶないお姉さんですね。


服は乾燥機に入れて、風呂上りにはしばらく私の服を着てもらいましょう。



部屋に戻ると子犬さんうっすらと目を開けました。

大丈夫そうですね。何とかなりそうです。



気配を感じて横目で見ると扉の隙間から百合さんが覗いています。


百合さんシャワーまだ浴びていませんね。

まだ全裸ですよね。美少女が何やっているのですか。本当に風邪ひきますよ。


心配でシャワーも浴びていられないようです。



言い聞かせても無理なようですし・・・


そうですね・・・


百合さん異世界大好きでしたよね・・・



こうしましょうか。



百合さん愛読書の聖女さま

万能の魔力を貸してくださいな。



子犬さん元気になってください。

百合さん安心してください。


私は聖女 私は聖女 私は聖女


子犬さんを手のひらで覆うようにして・・・ 



『聖なる力よ 小さき命に癒しをっ ヒール』



聖女の術を発動させました。



【聖女の術ワンポイントレッスン】

  必要なもの : 迫真の演技力

  いらないもの: 羞恥心



子犬さん ぴくっとしました。 

急に声出してごめんなさい。 びっくりしましたよね。

私もびっくりしました。ちょっと癖になりそうな自分にびっくりしましたよ。


タオルで包みなおして少しゆっくりさせましょう。



そしてもう一匹の子犬さんを捕まえてお風呂へ・・・ いませんね。


聖女の術を見て安心したのでしょうか。

それともあぶないお姉さんを目撃して逃げたのでしょうか。


後者だったらどうしましょう。



聖女の術にはMPをかなり使うようです。


私の中の何かをなくしたような気がします。


あははは・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る