第19話 狂った恋

 家に帰ってスマホを開くとそこには、おびただしい数の通知があった。


 未莉からの通知が120件。彩夏からの通知が19件。沙友理からの通知が10件。春夏からの通知が13件。

 小花からの通知が5件。紗枝からの通知が6件。


 一瞬、俺の目が疲れているのか?と疑ったが見間違いではないようだ。


 未莉からは「なんで出てくれないの?」「私のこと嫌いになった?」という趣旨のメッセージが数十件、不在着信が数十件。

 彩夏からは「優吾さんと築く家庭」と称して、俺との間に女の子と男の子の計2人の子供がほしいこと。子供の名前候補を幾つもメッセージで送ってきていた。


 沙友理からは俺と将来一緒にやりたいことや、一緒に行きたい場所を。春夏からは「優吾とわたしのマイホーム」という名目で二階建て家屋の設計図が送られてきた。おまけに小花からは「優吾と関西一周デートしたいな」という文面。紗枝からは「優吾との結婚生活」と題したメールが届いていた。


「まじかよ…」

 俺は思わず声を漏らしてしまった。早く返さなきゃ…と焦っていると、唐突に未莉から電話が掛かってくる。俺は迷わずに電話に出た。


「もしもし?」

「なんでずっと電話に出てくれなかったのよ!」

 電話に出た途端に未莉の怒声が飛んでくる。心做しか声が震えているようだ。

「わたし、ずっとずっと待ってたんだよ?優吾と話せるの…それなのに…それなのに…。」

 泣いているのだろうか?涙声の未莉な電話の向こうで鼻をすする。

「なんで?優吾はやっぱり私のことが嫌いになったの?」

 未莉の縋るような言葉に俺は首を振った。

「嫌いなんかじゃないよ。だから安心しろ。俺は嫌いな奴とは話さないから」

「ありがとう。やっぱり優吾は優しいね。私、優吾のこと好きだよ」

 泣き止んだ未莉が俺にそんなことを言った。正直俺はなんて答えたら良いのかが分からない。

「ありがとう…」

 そんな言葉しか言えなかった。


「だから毎日たくさんメールしようね。たくさんお話しようね?」

「時間が空いている時にな」

 俺がそう返すと未莉は再び怒声を上げて

「なんで?宿題やりながらでも食事中でもメールとか電話くらい出来るでしょ!?なんでなの?優吾は私に寂しい思いをさせる気なの!?」

 未莉の怒鳴り声に思わず耳を塞ぎたくなってしまう。

「私は優吾と話したいだけなのに…酷いよ…。私のことなんかどうでもいいんだね…」

 先程の怒声とは打って変わって涙声になってしまう未莉。

「そんな事ないよ。」

「本当に?」

「ああ、本当だ。」

 俺がそう言うと未莉は嬉しそうな声を上げる。

「じゃあ、俺は風呂に入るから」

 そう言って俺は未莉との電話をそっと切った。



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