第8話 新たな出会い

 沙友理も彩夏も春夏も一体どうしてしまったのかな…。俺は湯船に浸かりながらそんなことを考えていた。

 もちろん、3人のことは友達として好きだ。けれど、まさかこうなるだなんて思ってもいなかった。


「ヤンデレに好かれたら逃げようがないぞ。」

 京平の言葉がふと脳裏を過ぎる。沙友理達がヤンデレだなんて有り得ない、どうせ一時的なものだろう。俺は自分にそう言い聞かせるしかなかった。


 次の日、学校に着くと京平がいつもと違う席から手を振ってくる。

「おーい。昨日先生が勝手に席替えしたらしいぜ。」

 さぞや大変だっただろうなと心の中で先生に労いの言葉を送った。

「お前の席は俺の後ろだぞ〜」

「げっ…またお前かよ!」

「またよろしくな〜」

 正直に言うと嬉しい気持ちでいっぱいだった。クラス1の仲良しとまた一緒なのだから。

「優吾くん、これからよろしくね。」

 隣の右席で本を読んでいた少女が俺に声を掛けてくる。確か彼女は雫石小花。長く伸ばした黒髪がトレードマークの女の子だ。

「ああ、よろしく。」

 淡白な返事を返すと小花が静かに微笑んで

「ねえ優吾くん、SNSとかってやってたりするかしら?」

 と聞いてくる。俺は静かに頷くと小花は明るい表情を浮かべて

「じゃあ、お互いフォローしない?」

 特に隠す気もなかったからスマホを開いてSNSのアカウントを小花に見せる。すると程なくして小花のアカウントからフォローリクエストが来た。俺は、小花のアカウントをそのままフォローする。

「これでいっぱい色んなお話が出来るね。」

 そう言って小花は可愛らしい笑みを浮かべた。


 そして1限目のグループ学習。この時間は好きな人とグループを組んでいいらしい。俺は京平と小花の3人でグループを組んだ。

 俺はふと気になって左隣の席をチラッと見た。そこには無造作に伸ばされたセミロングの髪の少女が席に座って1人で俯いている。

 彼女は…峰石紗枝。どこか影のある雰囲気でいつも人と関わるのを避けているかのようだった。

「なあ、俺たちのグループに入らないか?」

 俺は紗枝に迷わず声を掛ける。紗枝はキョトンとした表情で俺の顔を見上げた。初めて見る紗枝の目は平行二重で大きく、思わず見とれてしまう。初めて見た彼女の顔は意外にも整っていた。


「本当に…いいの…?」

 紗枝が自分自身のことを指で指しながら言う。俺は静かに頷いた。


 特に議論するべきことも無いため、俺たちはお互いの趣味について語り合っていた。

 そして、意外なことに小花と紗枝と趣味が合っていることを知って驚いてしまう。

「優吾くんといっぱい話せて良かった。今日は本当にありがとう。」

 授業が終わる前、紗枝が清々しい表情を浮かべながら俺に礼を述べる。

「俺もだよ。何より紗枝と小花と気が合うだなんて思わなかった。」

「そうだ。紗枝はSNSとかやってるか?」

 俺が彼女に尋ねると

「もちろんやっているよ。」

 と答えてSNSのアカウントを俺にこっそり見せてくる。学校内だと朝の読書が始まる8時半以降スマホは禁止だから先生にバレないようにしているのだろう。全く、休み時間くらい別にいいじゃないかと思ってしまう。

 俺と紗枝は先生に見つからないようにお互いのSNSをフォローした。


「優吾くん、これからも仲良くしようね。」

 突如小花が俺の耳元で囁く。驚きのあまり俺は暫く固まってしまった。

 この時はまだ知らなかったのだ。俺は、既にヤンデレ地獄に落ちていたのだということを。

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