第2話出会い

 無駄に難しい小テストが終わり、やっと下校時間になった。

 俺は電車の中でスマホを開き、春夏と沙友理に連絡をする。

「やっと学校終わった!」

 2人に送信すると10秒も数えないうちに既読が付く。

「おかえりなさい。優吾も大変だね〜」

 と春夏が労いの言葉をくれる。春夏とは幼稚園から中学校までは一緒だったけれど高校は別々になってしまった。彼女に「同じ高校に行こう」と誘われた時に断ったことを俺は今でも後悔している。

「優くんお疲れ様!自称進学校は大変だね。」

 程なくして沙友理から返信が届く。沙友理はSNSで知り合った人だ。市内の大学院に通っている。俺にとっては頼れるお姉さん的な存在だ。

 俺は気が付けば2人と話すことが日課のようになっていた。

 暫くしてからSNSの友達欄が一人増えていることに気付いた。誰なのだろうと思って覗いてみると、そこには「彩夏」という名前があった。

 恐らく、軽音楽部をやっていた頃の後輩である岸本彩夏なのだろう。


「優吾先輩お久しぶりです!」

 程なくして彩夏からメールが届いた。俺は「久しぶり〜」とだけ返す。

「返事が届いて良かったです!私、先輩とお友達になりたいな…」

 軽音楽部に居た頃の彩夏はこんなにガツガツしている子だったっけ?と思いながら俺は「いいよ」とだけ返した。


 数分後、沙友理と春夏のトーク欄を開いてみると2人からスマホの画面を埋め尽くすほどのメッセージが届いていた。少し驚いたけれど、さっきまで話していた人がいきなり音信不通になったのだから心配しているのだろう。俺はすぐに2人に返事を寄越した。


「優吾〜早く起きてよ」

 ふと聞きなれた声が俺の鼓膜を揺さぶる。どうやらいつの間にか寝てしまっていたみたいだ。

 眠い目を擦りながら前を向くとそこには幼なじみの春夏が立っていた。

「お疲れみたいだね。」

 春夏が労いの言葉を掛けてくれる。

「全くだよ。本当に高校選び間違えたわ。」

 俺は彩夏と沙友理からのメールを返しながら答えた。


「優吾、あなたさっきから誰とメールしてるの?」

 春夏が俺のスマホを覗き込んでくる。彼女の長い髪が俺の顔に触れた。微かに甘いシャンプーの香りがふわりと漂った。

「友達と後輩だよ。」

 俺がそう答えると春夏は不服そうな表情を浮かべて

「やだ…嫉妬しちゃう…」

 と言った。俺は春夏の言葉に驚いて彼女の顔を見上げた。

「だってあたしは優吾と15年も一緒だったんだよ?それなのに新しい友達と仲良さげに話すだなんて許せないな。」

 春夏の瞳から光が消えているように見えたのは気のせいだろうか?


「優吾、最近SNSで他の人とばかりやり取りしてるもんね。本当、どいつもこいつも優吾に慣れ慣れしくて殺意が湧くわ。優吾のことを1番知っているのはあたしなのに。」

「ちょっと待てよ!もちろん俺は春夏が1番の友達だと思っているよ。」

 俺は慌てて春夏を宥める。もちろん俺は春夏が1番の友達だと本気で思っている。


「なら良かった!」

 すぐに満面の笑みを浮かべる春夏。その顔は華やかでまるで向日葵のように綺麗だった。


 やはり春夏の目から光が消えていたように見えたのは俺の気のせいだったのだろうか?

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