幕間 王子クリスティアン(視点)


 それは悪夢の世界だった、夢に見た悪夢が襲い掛かって来る。

 自分の思いを無視する身体、次第にそれが自分の意志まで捻じ曲げる。段々虚ろになって、女の操り人形になって行く。

 歯がみするほど悔しいのに、もうどうにでもなれと諦めようとする自分がいる。

 楽になりたいと願う自分がいる。


 その時、いきなり後ろから引っ叩かれた。

 ベシッ!

「きゃああぁぁーーー!!」

 周りから悲鳴が上がった。

 後ろを振り向くと見慣れたピンクの髪の女がいる。手に持った扇で殴ったのか。こんな事をする令嬢がいるとは。

 彼女は顔を顰め頭を抱えて蹲った。

「どうしたんだ、マリア」

 用意されたセリフではなく、自分自身の言葉が口から飛び出て驚いた。

 ピンクの髪の女性を抱えて、ひとまず休憩室に行く。

 まだ混乱している頭の中を整理する時間が欲しい。


 おかしい。自分で自分が動かせる。

「殿下!」

 取り巻き達が追いかけてきた。彼らも混乱しているようだ。

「人払いを、誰も部屋に入れるな。お前たちもそこで待機を──」

 王子は思考を取り戻そうとしたが、頭が痛んで考えさせまいとする。


「早くファスナーを下ろして!」

 ピンクの髪の令嬢がおかしなことを叫んでいる。ふぁすなーとは何だ。

 髪の中の四角い金具を見せたので、思いっきり引き下ろした。



 ──そしたら、女神が現れたのだ。


 大理石の像とか、絵画で見た少女の裸体、

 滑らかで、それでいてもっちりと柔らかそうな生きた白い肌、栗色の髪をフルフルと横に振るとしなやかな髪が白い背中でサラサラと揺れる。

 少女は息を吐いて王子の方を向く。形のよい胸、その先のピンクの乳首。腰と太股とか脚とか、その辺りとか、均整がとれて美しくて生まれたばかりの女神そのものだ。

 目が吸い付いて離れない。

 もしこんな状況ではなかったら、今すぐにでも押し倒して自分のものにしたい。


 そんな王子を怪訝そうに見て自分を見て、彼女は悲鳴を上げて蹲る。

 何か罵り言葉を叫んだが何と言っているかは分からない、罵っているのは分かるが。



 そして仕切り直したクリスティアン王子に彼女は言ったのだ。

「私はリナ。異世界から来たの」

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