《石神若の記録》5/1(日) 昼

『……うなら、丸山くん。最後にこの世界で君の活躍を見れて嬉しかったですよ』


……~~~!


(荒々しくもみ合う音)


……~~~ッ!


……ぷはっ、コウくんッ!!!


『ああ、丸山くんはもう居ませんよ。私たちは移動してきちゃいましたから』


くっ……!


……。


あなた……あなたが、浜百合ツバメっ!? JAS.Labジャス・ラボの所長のっ!?


『はい。素顔は公表してませんでしたから……若くて驚きましたか? よく名前が古めかしいって言われるんですよねぇ』


……。


……ここは、まさかJAS.Labジャス・ラボ? 本拠地の? たったの一瞬で、いったいどうやって移動してきたというの……?


『瞬間移動の超能力者が居るので。地球上ならどこでもひとっ飛び。とても便利ですよねぇ』


……。


……。


……私を、どうしようっていうの?


『さきほどから質問ばかり。でも答えちゃいますよ? なんていったって、今は私、教職の身でもありますから』


……。


わかさんにはこれからですね、先代が開発を続けていたエネルギー発生装置になってもらいます。まあつまるところ、核分裂炉のコアですね』


……っ!


『まずはその装置にコアとなるわかさんを繋ぎ、電気信号によってその意識を強制シャットダウンします。超能力行使において必要な前頭前野以外は使わないので、わかさんの意識は不要なんですよ』


……。


わかさんにはウランの核分裂と、使用済み核燃料からのウラン燃料再生成をひたすらに最大速度でサイクルし続けてもらいます──って、わかさん、ちゃんと聞いてくれていますかぁ? 先ほどから反応が薄いような気がするのですが……』


……聞いてるわよ。まったく、どいつもこいつも欲しいのは永久機関が生み出す無限のエネルギーばかりってことね。超能力研究所が聞いて呆れるわ。次世代エネルギー独占室とかに名称変更したらどう?


『ああ、いいえ? 私は別に永久機関ソレ自体が欲しいわけではないのですよ?』


……は? 今さら何を──


『私の目的はただひとつ……永久機関が生み出す無限のエネルギーによって、この世界に【あな】を空けたいのです』


……穴?


『ええ。それは、私がこの世界から本来私が生まれるべきだったはずの夢の世界……【異世界】へと旅立つための【再出発孔ワンダー・ゲート】』


……異世界……? って、まさか、莫大なエネルギーを圧縮してこの地球上に【ワームホール】を空けるつもりッ!?


『さすがはわかさん、その通りです』


……バカな。ワームホールなんてどこに出口ができるか分からないじゃないっ! もしも宇宙空間内に無限に存在するブラックホールにでも繋がったらこの施設が……いえ、最悪地球が丸ごと吹っ飛びかねないのよ……!?


『あはは、安心してください。ワームホールが開く先はもう確定していますから。私の超能力がワームホールの入口と出口を繋ぐ【宇宙ひも】の役割を果たすのです』


ワームホールの出口は、もしかして……!


『察しが早くて助かります。そう、出口は異世界にすでに開かれています──1年前の丸山くんの異世界転移によって、ね』


……!


……あなたの目的は……【異世界へと行くこと】それ自体なの?


『……ええ、そうです。私は便宜上で超能力者を名乗っていますが、本来はそうではない。異世界の異能力者なのですよ。丸山くんと同じ、ね』


……。


なら、勝手に異世界へと渡ればいい。その後、私のことは解放しなさい。異世界にさへ渡れれば、もう私のことなんてどうでもいいはずでしょ。


『まあ、私はそうですね。他の研究員たちがどうかは知りませんが』


約束してッ! 私はただ……コウくんと普通に暮らしたいだけなのよッ!!!


『う~ん、それはちょっと無理かもですねぇ……』


は……?


『だって、ワームホールを開くためにウランの核分裂と再生成を最大速度で行ってもらうので……それだけわかさんは超能力を酷使することになる』


……。


『私が異世界に渡るころには、脳回路が擦り切れて甚大な障害が出ているはずですから』


……っ!!!


『残念なことに、丸山くんには【回復魔法】が使えない。ですから、解放されるにせよ解放されないにせよ、わかさんが丸山くんと普通に過ごす日々はもうやっては来ないと思いますよ』


……。


……。


……いいえ、そんなこと……無い。


『それならみんな幸せなのですが……何か根拠があるのですか?』


……。


だって、コウくんは絶対に助けに来てくれるから。


『……』


私も絶対に、耐えて、抗ってやる……!


『……そうですか。私はそれを精神論だと笑う気はありません。気概は大事だと思います。どうか頑張ってください。私の居なくなったこの世界で』


……!


(ツバメがわかのポケットを探る音)


『ああ、やっぱりボイスレコーダー。わかさんは好きですもんね、こういう記録の残し方が』


かっ、返してっ!!!


『ええ。返しますよ。きっとあなたの最後の記録になるでしょうから──』




──プツンっ。

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