第26話 超能力者たち

胸が熱い。


さっきのわかの言葉に、俺は嬉しくて涙さえ出そうになった。


『──コウくんは絶対に私を守ってくれる……そうでしょ?』


……ああ、当然だとも。何度も何度も好きだと、守るとそう言ってきた。それが、わかにもしっかりと伝わっていた。俺のことを頼り、寄りかかってくれたのだ。


「信頼されるって……こんなに嬉しいことなんだな」


「……コウくん? なに感極まってるのよ?」


「なんていうか、拾ったものの威嚇ばかりしてきていた子猫が、とうとう気を許して膝の上に乗ってきてくれたような感動……!」


「なんか、ちょっと小馬鹿にされてる気がするわね……」


ゴツゴツ、と。肘で二の腕辺りを軽く小突かれる。


……うんうん、こういうやり取りもなんかいいよね。恋人みたいだ。




「……はぁ」




俺たちがそんなことをしていると、正面で立つ方丈ほうじょうが大きなため息を吐いた。


わか、君はもしかしてこの1カ月の逃亡生活の中で少し短絡的になったのかな?」


方丈ほうじょうは幻滅したかのような目を向けてくる。


「まさか、そんな色恋なんてくだらないもののために世界を犠牲にしようとするなんてね」


「色恋がくだらない? あら、よっぽど灰色の青春を送ってきたと見えるわね、方丈ほうじょう研究員?」


「軽口にも品が無いな」


「あなたみたく品があっても花が無い人生よりかはマシよ」


「……なんだと?」


「少なくとも私はあなたがくだらないと言う色恋に救われたわ。色褪せた人生の、意味の見いだせなくなっていた袋小路に、突如として鮮やかな大輪の花が咲いたように」


わかは清々しい笑みを浮かべながら、何かを探すようにポケットへと手を突っ込んだ。


「目に見える景色が色づいた。ここで生きたいと思えた。だから私はもう、自分に嘘は吐かないわ。自己犠牲なんてしない。自分の欲に素直になる。私は生きたい。コウくんといっしょに、素晴らしき普通の人生を歩んでやるわ……!」


「親も無い、人工的に生み出されたに過ぎない君が普通の人生を……? 笑わせるな、人造人間には人造人間の運命がある。君だって分かっていたハズだ。君の命は本来、僕たちに使われるためのものだと」


「クソ喰らえね。全力で抗わせてもらう──!」


わかはポケットからUSBメモリを取り出す。


「コウくん!」


「オッケー!」


俺はわかを抱えると、方丈ほうじょうへ、その後ろのサーバー群へと向けて走り出した。


「サーバーに直接ウイルスを流し込む気かっ? だが、そうはさせないよっ!」


方丈ほうじょうが俺たちへと手を掲げると、ミシリ、空間が歪む。そして俺たちの体はまるで見えない渦にでもはまったかのように、奇妙にその場から身動きが取れなくなった。


「これは……!?」


「まさか……サイコキネシスっ!? ウソ、方丈ほうじょう、あなたは超能力者じゃなかったハズ……!?」


驚くわかの言葉に、方丈ほうじょうはニヤリとする。


「僕たちが行っていたのは何も君の永久機関の能力に関する研究ばかりじゃない。君という人工的な超能力者の製造成功例を参考に、一般人の脳細胞にゲノム編集を行った脳細胞を移植する研究も並行して行っていたのさ……!」


「まさか方丈ほうじょう、あなた……自分を人工超能力者の被験者にしたっていうのっ!?」


「ハハッ、僕だけじゃないさ」


ズラリ、と。方丈ほうじょうの後ろのサーバー群の後ろから、20人近くの男女が現れる。


「ここにいる全員が僕と同じく人工的に生み出された、あるいは天然物の超能力者たちさ。異世界の勇者よ、そしてわか、私たちを退けることはできるかな?」


「うお……!?」


他の超能力者たちもまた、俺たちに向かって手を掲げたかと思うと、俺の体にかかる圧力がさらに増した。


「フハハッ、潰されない内にわかを手放したまえよ、丸山コウくん」


……くっ、潰される前にわかを放せ、だと……!?


……。


……。




「…………いや、その必要ないな?」




……手も触れられてないのに動きを止められてちょっとビックリしたけれども。でもかかる圧力だけでいえば、異世界で水中戦をしたときに、モンスターに深海300mに引きずり込まれた時の方がよっぽど大きい。


「ハァ──ッ!!!」


「「「っ!?」」」


俺が体の内側で練り上げた魔力を外側へと解き放つと、俺を止めていた力が弾け散る。


「なっ……!?」


「いや、そんなに驚くことか……? だって、サイコキネシスだろうがなんだろうが、結局のところ力づくで俺を押し留めてただけだろ?」


……昨日やったように、俺は魔力さえ使えば地上200mまで楽々ひとっ飛びできるくらいの力があるからな?


俺はそのままサーバー群までわかを連れて行く。


わか、この【魔障壁バリア】の中からは出ないように」


「ありがとう。たぶん、データは3分もあれば引っこ抜けると思う」


「了解」


俺は球状の魔障壁バリアの中にわかを残し、俺たちの方をにらみつける超能力者どもへと向き直る。


「──というわけで、あと3分はわかには手出し無用で頼むよ」


「……なるほど、ウイルスではなかったか。研究データを抜き取って世間に公表しようという腹積もり……無駄なことを」


方丈ほうじょうは不敵な笑みを浮かべると、


「──っ!?」


俺の体が突如として浮き上がった。


「──無重力を経験するのは初めてかね?」


「無重力っ!?」


足が地面に着かない。なんとか着地しようともがくも、足が空転する。


「超能力とはあらゆる物理法則を超える能力を指すのだよ。何も、サイコキネシスのことばかりを指すわけではない」


方丈ほうじょうの横で、若い女が俺に向けて手を掲げていた。どうやら、その女の能力らしい。


「フハハッ! ジャーマノイドとの一戦で調べはついているぞっ? 丸山コウくん、君は地上にいる間は無敵とも言えるほどの力を有しているが、空中戦となれば一転してまるで無防備だとっ!」


「……!」


「撃てぇっ!! 全員、攻撃だぁッ!!!」


空中の俺めがけて様々な攻撃が繰り出される。サイコキネシスや超能力により作り出された剣や炎、あるいは小銃を向ける者も居た。全ての攻撃が俺に着弾する。


「ふはははははっ! 呆気ないものだ。あのお方は、本当にこの勇者のことを特別視していたのか? まるで手応えがない! ふはははは──」


方丈ほうじょうの高笑いが響く。


……うるさいなぁ。そういうのは大体負けフラグなんだからさ、ちゃんと俺を仕留められたかを確認してから言おうな?




「──は……?」




方丈ほうじょうの高笑いが止まる。


「……」


「えっ、はっ……え?」


「……攻撃、終わったか?」


俺が問うと、方丈ほうじょうが1歩さがった。


「な、なぜ……生きている……?」


「そりゃ、魔力でガードしたから」


「……お、おかしい! ジャーマノイドの時は空中で攻撃を受けてなすすべもなかったハズッ!!!」


「あの時は魔力でわかをガードしてて、俺自身はノーガードだったもん。仕方ないだろ?」


でも、今は違う。わか魔障壁バリアでちゃんと守られているし、俺は自分自身を魔力で覆うことができる。


「俺の対策をしっかり研究してきたのはすごいと思うけど、研究ってさ、例えば部屋の室温とか湿度とか、研究対象の状態とか、前提条件がすごく大事なんじゃないか?」


「……くっ!!!」


「ここまで言えばもう、分かるだろ?」


「ぼっ、防御だっ! 総員、僕へとサイコキネシスでバリアを──」


「遅いッ!!!」


無重力の中、俺は後ろに向けて【小爆発ミニ・エクスプロージョン】を発動する。反動で、俺の体がロケットのように前へ──方丈ほうじょうへと向かって飛翔する。


「俺が空中戦で弱いのは守るべき相手が居る場合のみ。最初から条件不足なんだよこの──三流研究員がっ!!!」


「グハァ──ッ!?!?!?」


小爆発ミニ・エクスプロージョン】の勢いそのままに繰り出した俺のラリアットが、方丈ほうじょうの首をとらえ、地面へと張り倒した。






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