第22話 ウワキじゃないわよねぇ? ──ゴゴゴ…

コンコンコン、と。俺たちはホテルの隣の部屋──ジャーマノイドの部屋を訪ねていた。昨日まではずっと意識を失っていたようだが……


「反応がないわ。やっぱり、まだ寝ているのかしら」


わかがドアのカギを開け、俺を先頭に部屋へと入った。


「……うん。寝てるみたいだ」


部屋に入ってすぐのダブルベッドには、死んだように眠るジャーマノイドが横たわっていた。その顔には俺の拳の痕がくっきりとした青あざとなって刻まれており、苦しそうに呼吸をしていた。


……正直、医者に見せるべきではあるけど……残念ながらそこまでの面倒は見切れない。


「……よし。行こうか」


「ええ。この人の意識の回復を待つ意味もないし、私も賛成。EUにも狙われているってことが分かっただけで充分よ──ただ」


わかはポケットから何か紙を取り出すと、それをジャーマノイドの手に握らせた。


「なにそれ?」


「……この人へのちょっとした餞別せんべつ──というのは建前で、保険かしらね」


わかはいたずらっぽく微笑むと、「行きましょ」と俺を部屋の出口へと促した。ホテルの代金はやはりわか持ちで、俺たち分の1泊料金と、ジャーマノイド用に2泊分の料金を払った。




* * *




5月1日(日)、午前8時。


「高速に乗れば1時間ちょっとみたいね……」


軽トラックをそのまま拝借し続けて、俺たちは東北自動車道へと入った。このまま仙台市内まで行くらしい。


……にしても、だ。


わか、めちゃくちゃ運転慣れしてるね……?」


「そう?」


わかは何でもないことのように首を傾げた。


「だって、まだ18歳でしょ? 免許取り立てなんじゃ……」


「ああ、免許ね。確かに発行されたのは18になってからだったわね」


「……え?」


それはまさか……17歳までの間も運転はしていて、つまり無免許運転常習者だったとか、そういうことなのか……?


「ちょっと、変な勘違いはよしてくれる?」


わかが呆れ顔を向けてくる。


JAS.Labジャス・ラボの敷地内で運転していただけよ。研究棟と生活棟も離れていたし、山を下りるための公道まで降りていくのにも車が必要だったし……」


「敷地内って……それはいいの?」


「免許って公道を走るために必要なものでしょ。私有地内を走るのに免許の有り無しなんて関係無い……って言いたいところではあるけど、まあ、半分黙認みたいなものだったかしらね。私、これでも結構な上級研究員だったし」


「えぇ……」


「だからコウくんはマネしちゃダメ」


クスクスと笑いながら、わかがアクセルを徐々に踏み込んでいく。60、70、80kmと速度計の矢印が右に傾いていく。


「いいわね、高速は。山奥じゃこんなに飛ばせないもの」


「……安全運転でお願いします」


「分かってるわよ。私を何だと思ってるの」


わかが『むぅ』っとした表情を向けてくる。


「私の運転適性はAよ。しっかりと目的地まで運んであげるから、それまでゆっくりとしていなさ──」


言いかけて、わかの言葉が止まる。


「──なに、後ろのアレ……!」


「後ろ……?」


普通に後続車があるだけでは? と思い振り返ると……そこにあったのは大型の軍用と思しきトラックとジープの数々。それらが横に2列になって俺たちの後ろへと迫って来ていた。


「……コウくん! ネット見てくれるっ!? 東北自動車道の交通情報!」


「え、でも……! スマホ起動したら位置情報が!」


「後ろの4t車、陸上自衛隊の車両よ! もう位置はバレてる! 今さら気にしても無駄ってこと!」


「わ、分かった……!」


俺は約2日ぶりにスマホを起動させる。バッテリーは68%。通信良好。俺はさっそくブラウザを起動させようとして、


「げっ……」


着信履歴、54件。それが目に入る。昨日の朝から今日の朝にかけてのその着信は、すべて俺の通う高校からのものだった。


……やっべ。そういえば昨日も今日も俺、授業の補講を何も連絡せずにブッチしちゃったんだった……!


「コウくんっ? どうかしたっ?」


「あ、いや……なんでもないよ! いま調べる!」


俺はすぐにブラウザで東北自動車道の交通情報について調べた。


「……東北自動車道で広範囲の道路破損。福島西~仙台宮城IC間を封鎖。一般車両の進入禁止……って。すでに入っていた車両も次々に一般道に降ろされてるって! これ2分前のニュース!」


「……なるほど、人海戦術。おそらく福島より先のICすべてを張られてたのね」


わかが悔しげに下唇を噛み締める。


「私たちが高速に入るタイミングで一般車両の進入を切って、私たちだけを東北自動車に閉じ込めよう……ってわけね」


「……どうする?」


「決まってるじゃない」


わかは不敵な笑みでアクセルを勢いよく踏みしめる。


「バレてるならこれ以上隠れていても仕方ないもの。JAS.Labジャス・ラボの前の本拠地……【泉ヶ丘】までかっ飛ばすわ……!」


「了解!」


それじゃあ俺の役割はその安全運転のサポートだ。軽トラの荷台にでも移って、追手車両をちぎっては投げをしてやろう……と思っていたところ、




──ピリリッ、ピリリッ。




俺のスマホに着信があった。


「うぇっ?」


びっくりしてスマホを取り落としてしまうと、




『あーーーっ! やぁっと繋がりました! もしもしっ、丸山くんですかっ!?』




どうやら通話とスピーカー切り替えが同時にタップされてしまったらしい。まろやかな声がスマホから飛び出した。その声の主を聞き間違えるわけもない、ツバメ先生だ。


『もしも~し! 丸山くんっ? おーい!』


「やっべ……どうしよ……」


……こんな状況を、ツバメ先生になんと説明できるだろうか。いや、できまいよ。


「……コウくん?」


「あ、ゴメン。すぐに切るから」


「そうじゃないわよ……っ」


わかは、これまで見たこともないくらいに顔をしかめる。


「誰よその女……! まさか、ウワキじゃないでしょうねぇ……!?」


「えぇッ!? いやいや! 違う違う!」


唐突に、俺へと別の危機が迫ってしまった。





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