第9話 リレーのアンカー

秋といえば、食欲の秋、芸術の秋、そしてスポーツの秋。私の中学校でも体育祭が開催される。私は運動に自信があるわけではない。でも走るのだけは少し自信があって、小学5年生の時に6年生との対決リレーがあった。私は、1つ年上の6年生に勝てるなんて思わなかった。でもそのリレーで6年生の男子を1人抜かしたことがある。あの時は自分でもビックリしたな。結局リレー自体は6年生に負けちゃったけどいい思い出で、それからリレーみたいな短距離走は好きだ。

そして今回の体育祭リレーも、ちょっと自信をもって挑もうと思っている。体育の授業でまずは、リレーの順番を決めることになった。私は1番目は目立つから嫌だけど、それ以外の順番なら正直何番目でもいい。そう思っていた。すると

「アンカーは絶対岡田さんだよね!岡田さんは足早いもん」

そう言ったのは、またしても水島さんだった。また、何てことをしてくれたんだと思った。でも水島さんは合唱コンクールで私がピアノを弾けると言い、コンクールで活躍することができた。もしかしたら、今回もリレーで活躍できるかもしれない。私は首を振ることなく、リレーのアンカーに決まった。それから、リレーを含む体育祭の練習が始まった。練習では、走るだけではなくバトンの受け渡しや、走り始めるタイミングなどが難しかった。でも練習を重ねるたびに、だんだん上手いなっていった。


そして迎えた体育祭。リレーは最終種目だから、余裕がある。ほかの競技を見て楽しむことにしよう。私が出るのはリレーと、学年でする台風の目だけ。台風の目も午後の終わりのほうだから、午前は入場式以外何もすることがない。体育祭が始まってしばらくたったころ、ずっと座っているのもしんどくなってきた。私は、体育祭の用具などが置いてあるスペースに行ってみることにした。特に面白いものは無かったが、ここは陰で涼しいから、もう少しここにいよう。すると

「あ、唯花ちゃん、久しぶり。元気だった?」

と声をかけられた。振り返ると、見たことのある人だった。私は思い出すのに少し時間がかかったが、スクールソーシャルワーカーの小林さんと一緒にSCルームでクイズをして遊んだ、渡辺さんだと思い出した。渡辺さんも休憩しているのだろうか。でも、体育祭なのに体操服も着ないで、制服のままだ。体調が悪いか、怪我でもしているだろうか。

「あぁ、何で制服着てないって思うよね…私、体育祭に出ないんだ。」

と渡辺さんは言う。でも、体調が悪いなら学校を休むと思うし、怪我をしているようには見た感じ見えなかった。すると

「実は私、不登校なんだ。だから、体育祭にも参加しないし、できる限りクラスの子とも目を合わせたくないから、こうやって人の少ない場所で見学してるんだ。」

そうだったのか。渡辺さんは、不登校だから小林さんの元を訪れていたのか。

「小学校は行ってたんだけど、中学校には馴染めなくて。」

小学校には行っていたらしい。小学校で不登校の子って少ないけど、中学生になると一気に増えると聞いたことがある。実際、私のクラスにも中学校になってから来なくなった子がいる。私も場面緘黙症で話せないが、学校に来れないとなるともっと大変そうだ。

「唯花ちゃん、小学校での対抗リレーではすごかったよね。あんな児島なんてやつを抜かすなんて。ありがとう。」

渡辺さん、どうやらあの対抗リレーのことを知っているようだ。確か渡辺さんは今2年生だから、同じ小学校で私が5年生の時渡辺さんが6年生。そういうことだろうか。小学校には行っていたというから、私の走りを見ていたんだ。でも、児島なんてやつって、何か言い方悪いな…

「児島は、いじめってほどではないけど私にちょっかいばかりかけてくる子で。だから、唯花ちゃんが抜かしてくれたのはなんだかうれしかった。だからお礼を言ったんだ。」

そういうことだったのか、渡辺さんもいろいろと大変そうだ。そんなことを話しているうちに昼休憩が始まった。


台風の目は団体競技だから、私は普通にこなした。そしてついにリレーが始まった。リレーって初めの人はあまり緊張しなくて済むけど、最後のほうの人はどんどん緊張が高まっていく。リレーの順位は…4組がトップだ。いいぞ、いい調子だ。ついに、私の1人前の走者が走り始めた。私はスタート位置についた。前の子も順調な走りを見せて、トップで私にバトンが回ってきた。

なんとしても、トップのまま走りきるんだ。バトンは私に託されているんだ。その時だった。私は転んでしまった。

「いたたた…、いけない、早く立たないと抜かされる」

そう思った時には、すでに2人に抜かされていた。結局私は4クラス中3番目でゴールした。私が転んでなければ1位だったかもしれないのに。クラスのみんなに何て言われるか。私は怖くなった。しかし

「唯花ちゃんは悪くないよ。」

「岡田さん、元気出して!」

と、みんなは私を励ましてくれた。自然と涙が出てきたが、総合優勝の発表が始まった。

「総合優勝、1年生は、4組です。」

なんと、4組が優勝した。リレーでは勝てなかったけど、ほかの競技でみんなが頑張ってくれたんだ。4組はみんなが喜んだ。合唱コンクールに続いての優勝だ。

「岡田さんは、ピアノで頑張ったんだから今度は私たち頑張ったよ。」

そう言ってくれたのは、水島さんだった。

水島さんは、女子長距離走で1位になっていた。水島さんも頑張ってくれたんだ。

今回も恒例の記念撮影。私は今日は隅っこで写真を撮った。


「4組は…ナンバー1!」

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