第1話 中学入学の日

桜の木にも葉が芽生え、心も温かくなるぐらいのポカっとした陽気。今日から、私の中学生活が始まろうとしている。小学校では喋れないで友達も出来なかったけど、中学校では友達を作るんだ。そんな強い意気込みで中学校へと向かう準備を始めた。小学校は私服だったから、初めての制服。ちょっぴり嬉しかった。

「唯花、お母さんは後から中学校に行くからね。行ってらっしゃい。」

とお母さんに見送られ、家を出た。小学校は家から歩いて5分ぐらいの場所だったから近かったけど、中学校は歩いて15分ぐらいはかかる。通学路は歩いたことはある道だけど、なんだか初めて通るような道だった。

中学校に近づくにつれ、他の生徒たちの姿が見え始めた。入学する中学校は、地域の小学校3校の生徒が集まる。だから人数も小学校の時よりずいぶん多い。当然同じ小学校の生徒もいるけど、半分以上は知らない生徒。どんな人たちがいるのか楽しみだ。


頭の中でいろんなことを考えているうちに、中学校に到着した。校門の横には「入学式」と書かれて、校門をくぐると「入学生は4階の教室に向かってください」と書いてある張り紙が書いてあったので4階へと向かった。すると4枚の張り紙が貼っていた。クラス分けの案内だった。1組から4組と順番に見ていき、

「岡田唯花、岡田唯花…あった、4組だ」

4組に私の名前が書いてあった。4組の教室に入ると、すでに半分ぐらいの人たちが席についていた。私の出席番号は3番と書いてあったので、3番の席に座った。

それから数分もしないうちに席は埋まっていき、担任の先生も教室に入ってきた。

「4組の担任の、中山です。1年間よろしくお願いします。」

そう話した瞬間、少しざわざわしていた教室が静まり返った。中山先生は、ベテランの女性の先生で、教室には謎の緊張感が走った。悪い先生ではなさそうだ。私はそう感じた。

「早速ですが、入学式の時間が迫っているので講堂へと向かいましょう。」

全員が席を立ち、講堂へと向かった。さっきはよく見ていなかったけど、知らない人も多い。4組は私と同じ小学校の生徒はかなり少ないようだ。正直、同じ小学校の子に仲のいい子もいなかったし、むしろ新しい自分になれるような気がして少し中学生活が楽しみになった。

講堂にはたくさんの椅子が並べられていて、出席番号から順番に座っていった。校長先生の長い話を聞き、在校生代表のあいさつや校歌を聞いた。当然知らない校歌だった。

教室に戻ってきて、中学校で使う教科書を配られた。小学校よりも教科が多いから、教科書もとても多いし毎日家から持ってくるのは大変だろうなと思った。その後中山先生から中学校での注意事項を聞いて、何事もなく中学校最初の日が終わるだろうと思った。


すると、

「今日はまだ20分ほど時間が余っていますね。明日しようと思っていた自己紹介を、残りの時間でしてしまおうと思います。」

いきなり話す機会が来てしまった。しかも想定もしていなかった。どうしよう。出席番号は3番だから、すぐ順番が来てしまう。

すぐに出席番号1番の新井さんの自己紹介が始まった。すると

「よろしく」

それだけだった。なんだ、そんな簡単な自己紹介でいいのか。少し安心した。しかし、2番の上田さんは

「出席番号2番の上田叶です。皆さんと仲良く過ごしたいと思います、よろしくお願いします。」

と詳しい自己紹介だった。私は戸惑った。どうすればいいのだろうか。

深く考える暇もなく、

「次の人、自己紹介してください。」

と中山先生に言われた。私は慌てて立って、皆に一礼した。

何も言わずそれだけで私の自己紹介は終わったが、先生には何も注意されなかった。その後も残りの生徒の自己紹介がされ、20分ほどで自己紹介は終わった。

「今日はお疲れ様でした。緊張もしたと思いますが、今日から皆さんは立派な中学生です。悔いのない3年間を過ごしてください。ではまた明日。」


何とか1日目が終わった。私は帰ろうとした。すると後ろから

「岡田、唯花さん…だよね?」

いきなり声を掛けられた。誰かと思って振り返ったが、知らない顔の人だった。

私はどう返事していいのか分からなかった。

「やっぱりそうだ。今日からよろしくね。あ、私は田中美咲。また明日ね。」

と言って、帰ってしまった。


また喋ることが出来なかった。その悔しさと、誰なのかという不思議な気持ちになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る