心の声が響くとき

ゆを

第0話 孤独な少女の声

楽しかった家族で行ったお祭りや花火大会、海水浴。そんな小学校最後の夏休みも終わり、新学期が始まったばかりだ。

「はい、次は海老名さん。感想文の発表をお願いします。」

と、担任の三井先生が言った。ついに私の前の人の読書感想文の発表が始まった。夏休みの宿題に出ていた読書感想文の発表だ。読書感想文は書いてきた。面白かった本だったし、感想文も上手に書けたと思う。でも感想文を発表したくない、読みたくない、いや話したくない。

そんなことを考えているうちに、海老名さんは自信に満ち溢れた顔で発表を終え、席に帰ってきた。

「次は、岡田さん。感想文を発表してください。」

ついに順番が回ってきた。書いてきた原稿用紙3枚を持って発表するため黒板の前に行こうとした。しかし、体が動かない。早く席を立たないと。発表をしないと。

時計の秒針がどんどん進んでいく。私はまず席を立たないとという気持ちと、席を立たずこのまま授業が終わってほしいという、両方の気持ちに襲われた。

「岡田さん、どうしたのですか?あなたの番ですよ。発表お願いします。」

心臓がキュってなる。締め付けられてるようだ。早く発表しないと。先生に怒られてしまう。みんなに変な目で見られてしまう。

そんなことを考えているうちに、さらに時間が経ってしまった。

「次は、柿沼さんですね。先に柿沼さん発表してください。」

結局、私は発表どころか席を立つことすら出来ず、次の柿沼さんが先に読むことになってしまった。私は少し安心した。とりあえず今は感想文をみんなの前で読まなくていいんだ。でも、先生やみんなに不思議に思われただろうし、別の日に読んでくださいって言われたらどうしようという恐怖があった。

その後4人ほど感想文を発表したところで授業が終わり、終礼をした。すると

「岡田さん、放課後に職員室に来てください。」

と言われてしまった。きっと怒られるんだ。私が感想文を発表しなかったから。でも、勝手に帰ったって明日先生に怒られる。もう私は怒られるしかないんだ。


そう思いながら、放課後職員室に行った。すると、三井先生が職員室の前で立っていた。

「岡田さん、職員室の隣の面談室に行こうか。」

私はさらに怖くなった。職員室ではなく、先生と2人きりの面談室。これはもう散々怒られるんだろうな。そう覚悟した。面談室に入り、奥の席へと案内された。

「岡田さん、感想文の授業ではどうしたのですか?」

私は何も答えることが出来なかった。でもこのままだと、読書感想文自体を書いてきていないと思われると思って、読書感想文の原稿用紙3枚を先生に渡した。

「きちんと書いてるじゃないですか。岡田さんは成績がいいのに、なぜ発表はしないのですか?」

そんなこと言われたって、分からない。

「みんなの前で発表するのが緊張するんでしょうね。これからは、発表できそうだったら発表してください。発表できなければしなくていいですよ。」

と言われた。三井先生は優しい口調で話してくれたが、どこか怖く感じた。

これから、発表しなければどうなるのだろう。みんなにからかわれないだろうか。

読書感想文は、発表することは無かった。それから、感想文や音読など発表するのは、発表したい人だけ発表することになった。


私は、みんなと話すことが出来ない。発表も出来ない。でも家族とだけは普通にしゃべることが出来る。だからお母さんは私が学校でひと言も喋らないことを知らないし、私からお母さんに喋れないと言ったこともない。お母さんを心配させてしまうからだ。


それから小学校を卒業するまでの間、私は家族以外と喋ることは無かった。だから友達もいなかった。からかわれると思ったけど、意外と私をからかったり責める人はいなかった。きっと私なんかに興味無いんだ。孤独なまま小学校生活が終わってしまった。

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