第7話 進路と歓迎

「卒業者推薦?」


 俺は首を傾げてフーリアさんにそう言った。


「そうです。私が卒業した魔法学校特有の入学方法ですね。私のような魔法学校を卒業した卒業生が、一人だけ入学希望者を推薦できるという制度ですね」


 フーリアさんが寝そべった体勢から上半身を起こして、こちらを見つめながら続けた。


「卒業者推薦は色々できていいですよ。学費が限りなく安くなりますし、一次試験と二次試験もパスして最終試験の実技試験にいきなり挑むことができます」


 なるほど、現代日本で言う指定校推薦みたいなものか。

 しかし、実技試験というのが難しそうだ。


「先生。僕は全然魔法なんて使えませんし、魔法学校に行くのは難しいと思うんですが……」


 俺は不安げにフーリアさんにそう言うが、フーリアさんは問題ナシ! といった感じの表情をして言った。


「大丈夫です! 魔法学校には何歳からでも入学できますし、私がみっちり君に教育すれば行けます!」


 どこから湧いた自信でそう言い切れるのだろうか?

 しかし、異世界でのこれからに迷っていた俺にも、魔法学校へ行くという目標を決めるというのは、結構いいのかもしれないな。


「わかりました……僕、魔法学校に行きます……!」


 俺は希望に満ちた顔でフーリアさんにそう宣言した。


「よく言いました。それでこそ私の生徒です」


 まだ会って一日と経ってはいないが、それでもいい家庭教師ではないかと俺は思った。

 

「じゃあこれからは授業の時間を頼まれていた時間の倍は増やしますよ」


 フーリアさんは無慈悲にそう言った。

 多分、良い家庭教師なのだと思う……。


〜〜〜〜〜〜

 あの後、父さんと母さんが帰ってきて、夕飯の時間となった。

 フーリアさんが来て初日というのもあってか、食卓には肉があったりと、かなり豪勢なものだ。


「フーリアさんの歓迎を祝って、乾杯!!」


 父さんがビールの入った陶製のジョッキを持ち上げて、そう言った。


「フーリアさん……お相手とかいるのー?」


 母さんは一口だけビールを口に入れると、すぐに酔ってしまったようで、フーリアさんにグイグイと質問をぶつけていた。


「いや、私はまだ……」


 フーリアさんは縮こまってそう言う。

 母さんの様子の変化にかなり戸惑っている様子だ。

 しかし、父さんの方はかなり見慣れているせいか、平然とビールを飲んで、少ない肉を噛み締めて食べている。


「そうだ! 今度私と一緒に酒場に行ってみない? いい男の人がいるかもよ〜?」


 母さんはガハハと男勝りな声で笑いながらそう言った。

 

「いえ、私は見た目が見た目ですし……その……」


 フーリアさんは露骨に母さんに対して引いている。 その証拠に徐々に席ごと俺の方へと移動してきている。

 そして時折俺の方を見てきて(助けてください……)というような視線を送ってくる。


 しかし、俺も父さんもこの状態の母さんを止めることはできないと知っているので、罪悪感を感じながらも少量の肉をありがたくいただくとする。


「大丈夫よ〜。貴方にもきっといい相手が見つかるはずだわ! この人とだって酒場で知り合ったのよ〜」


 母さんはそう言って、父さんのほうを見る。

 父さんはすこし頬を赤らめていて、母さんはニシシと悪い笑みを浮かべている。

 なんというか、酒の席になると反応が逆になるんだよな、この夫婦。


「そういえばフーリアちゃんって、お酒飲めるの〜?」


 母さんはいつの間にかフーリアさんのことをちゃん付けで呼ぶようになっていた。

 

「えっと、一応飲めます、はい……」


 フーリアさんは目が虚ろになっていて、顔もだんだんと下に下がってきた。

 まずいな、フーリアさんがそろそろ参ってきている。


「あの母さん! 父さんが母さんに『今後の家族について話したいことがある』って言ってる!」


「は!?」


 父さんが嘘だろという目線でこちらを見てきた。

 仕方がないんだ父さん。フーリアさんを助けると思って、盾になってくれ……。


「あら本当にぃ〜? どうしたのかしら〜?」


「ちょ待ってくれ! 違う!! それはリーバが言った嘘で……」


 父さんはそんなことを喚きながら、母さんにとなりの部屋へと連れて行かれた。

 酒に酔った母さんには父さんでも敵わないのだ。


「あっあの、ありがとうございます」


 フーリアさんはすっかり怯えてしまったようで、縮こまりながら俺にそう言った。


「どうってことないですよ。『怖い時は俺に頼ってくれ、そうすれば助ける。何も言えないんじゃあ誰も助けてはくれないんだ』、父さんの言葉です」


 この言葉を発した父さんは実際にフーリアさんを助けたんだから、父さんも頼られて本望だろう。


「いい言葉ですね」


 フーリアさんはそう言った。

 

「でしょう? 父さんは凄い人なんです。あんな強面な顔なのに誰にだって優しいんだから」


 そういう所が母さんに惚れられたのだろう。

 俺は言葉にすることで初めて、母さんが父さんと結婚した理由がわかったような気がした。

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