第6話 反省と夢

「では、なぜ魔法の威力が弱かったのか、反省をしてみましょう」


 フーリアさんはそう言って、俺に考える時間を与えた。

 

 魔力の出し方が違ったのだろうか? 大体、右手に力を入れてそれを放出するなんて説明では難しすぎてよくわからない。

 あとは……自分には才能があるみたいな考えをしてしまったからか……?


「魔力の出し方が違ったのと、自分には才能があるみたいな考えをしてしまったからですか!?」


 俺は大げさにフーリアさんにそう言う。


「魔力の出し方は間違っていませんでした。後者も多分違います。ていうかそんな事考えてたんですか」


 フーリアさんは呆れながらも、俺の間違っていた点を指摘し始めた。


「問題は手の振り方ですね。ただ右手を振り回してるだけじゃあ、魔力が狙った場所に届かなくて力が分散しますよ」


 フーリアさんはそう言いながら、実演し始めた。


「あなたの場合は大きく円を描きすぎてますし、最後の座標の指定もしていません」


 座標の指定なんて教えられてないぞ!? 

 俺はそう口に出そうとしたが、流石に失礼だなと思って、口をつぐんだ。


「座標の指定ってなんですか?」


「簡単に言うと、魔法を発動させる位置をきめることです。さっきの魔法で言えば、地面に穴を開ける場所を決めることですね」


 なるほど、たしかにそこまでは考えていなかったなと、俺は自身を振り返る。


「円を描くことで魔法の発動範囲を決め、最後にもう一度右手を突き出すことで、狙いを定めた位置に初めて魔法で発動できるんです」


 要するに、狙撃銃のスコープのようなものを作るという事か。

 円を空中に描くことで、狙いを定め、最後に右手を突き出すことで、視線の先にある場所に魔法が発動できる。

 ……説明が難しいなコレ。


「私が杖を持ってあなたの手の振り方を真似すれば、あの山が消えてなくなるでしょうね」


 フーリアさんは遠くに見える山の方を指さしてそう言った。

 

 恐らく比喩表現だろう。比喩表現であって欲しい。本当だとしたら怖すぎるぞ。


 それよりも、ずっと気になることがあるのだが、フーリアさんに聞くべきだろうか。


「先生、ちょっといいですか」


 俺がそう言うと、フーリアさんは『まだ説明の途中だぞゴラ』と言ったような顔をした。


「いいですよ」


 それでも発言の許可は出るし、単純に魔法の話が好きなんだろう。


「穴が空いたところって、どうするんですか?」


「…………あっ」


 突如としてフーリアさんは焦燥感にまみれた顔に変化した。

 どうやら考えなしに魔法を発動させてしまったようだ。


「魔法を使って元の状態に戻すとかって、できないんですか?」


 俺がそう聞くと、フーリアさんが大きな穴を見つめながら静かに首を横に振った。

 口を開けて俄然としている。


「地道に穴を埋めていきしょう、先生」


 俺はそう言って、物置小屋から持ってきたシャベルをフーリアさんに手渡した。


 フーリアさんが開けた穴の大きさは、普通の車一台がすっぽりと納まりそうなぐらいに大きい。

 頑張れば一日で埋めれそうか?


 フーリアさんと俺は、魔法の勉強をすることを放棄して、地面に空いた大穴を埋める作業に没頭した。


〜〜〜〜〜


「なんとかおわりましたね」


 俺がそう言うと、フーリアさんは心底ホッとしたような声で、「ええ、本当に」と言った。

 

 父さんと母さんが買い物に行っていて、しばらく帰ってこないのが不幸中の幸いだった。


「火属性以外の魔法は、今度からは近くの森で試しましょうか」


 フーリアさんがそう言うので、俺は「はい……」と答えて地面に寝そべった。

 ギラギラと光る太陽が眩しい。空は青く、白い雲が点々と存在している。


「いい天気ですね〜」


 俺が何気なくそう言うと、フーリアさんも穏やかな声で「そうですね」と答えた。

 傍からみれば小学生の日向ぼっこだろう。


「君は……リーバルトくんは将来何になりたいんですか? 何をしたいんですか?」


 突然フーリアさんがそう言った。

 将来何になりたいか、何をしたいか……正直、この世界にやってきてからそういうのは考えたことはなかった。


「そういうのは、僕にはまだ早いんじゃないんですか?」


 俺はフーリアさんにそう答える。

 しかし、フーリアさんは俺の答えに「それは違います」と言って、否定した。


「早くもナニもありません。早めに決めておいたほうが後々になっていいのです」


 そういうもんなのだろうか。

 そういうもんなんだろう。

 そういうもんでなければ困るのだろう。

 

「魔法学校……」


 ふと、その単語が頭に浮かんできて、思わず呟いた。


「なんと?」


 その単語に興味を示したのか、フーリアさんが聞き返した。


「魔法学校です。いけるなら、魔法学校にいってみようかなって……」


 俺はフーリアさんにそう伝える。

 もちろん不可能なのはわかっている。俺の両親は農家だ、自警団の給金も決して少なくはないが、それでも魔法学校どころか、学校に行ける金もないだろう。

 現代日本のような奨学金制度は、この世界には存在しない。

 だから、ほとんどありえない話。小学生がプロのサッカー選手になりたいと願うぐらいの、無謀な言葉のつもりだった。


「言いましたね。必ず行ってもらいますよ。魔法学校に」


「えっ、でも先生、僕お金が無い……」


 俺が言い切ろうとする前に、フーリアさんはそれを遮るように言った。


「──お金がなくても、卒業者推薦という制度があるので行けますよ」

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