第38話 クラスメイト②
朝になり連行されるように教室に入り席に着くと、数名のクラスメイトが机の周りを取り囲んできた。
「高級車でご登校とはいいお身分ですわね」
「な、何?」
絡んできたのは双子の姉妹である春日井姉妹の姉の方――
褐色の髪色、青い眼にまっすぐ伸びた鼻筋は北欧系の血筋が入っていることを確かに感じさせる美少女なのだが、中身は純日本人である。
妹の
「あはは、そう邪険にしなくてもいいよ。ねえ、正宗君。試験終わったらちょっと私たちに付き合ってよ」
「へっ⁉」
「もう、お姉ちゃん正宗君混乱してるじゃん。あのね、今日でテスト終わるでしょ。テスト勉強からも解放されることだし、放課後に皆で気分転換がてらダンジョンに行こうってことになってるの」
「そういうこった。正宗も参加してくれよ」
「慎介、紫琉琵亜ちゃん……行きたいのは山々だけど、僕の一存ではちょっと」
そう、僕の生活は一部始終を穂香と神楽さんに管理されていた。
僕の意思や人権? そんなものはあの二人には通用しません。
愛刀の黒刀も人質ならぬ刀質に取り上げられ、監禁され勉強三昧の日々を送る僕に自由はありませんて……。
「大丈夫よ。ちゃんと桜ノ浦さんの許可はもらってあるから」
瀬里花さんの言葉で、視線を離れた席に座る神楽さんに向けると彼女は “存じています” と言わんばかりにコクンと頷いた。
どうやら事前に根回しは済んでおり、参加しても問題はないようだ。
「そういうことなら喜んで参加させてもらうよ」
「やったー! これで私たちもダンジョン攻略者よ!」
「もう、お姉ちゃん気が早いよ~」
喜ぶクラスメイトたち―――しかし、その前にクリアしないとイケない難関が待ち換えていた………。
◇ ◇
「相変わらず死んだ魚みたいな目してるな」
地獄のような試練は終った。結果は追って知るべし。
だが、僕にとってはそれは第一章に過ぎないのだ。まだ続編である特別課題と補修授業が待っているのだ……慎介、お前も結果しだいではこちら側になるのだぞ。
「これが世間を賑わす “深淵の閃光” の姿とはね。真実は残酷なものね」
「ほっといてくれ……てか、何その “深淵の閃光”って……まさかとは思うけど」
「知らないの? 渋谷ダンジョンの動画で一躍有名になった正宗君の二つ名よ。情報統制で名前は伏せられてるけど、この学校では皆知ってることよ」
「テスト期間中は動画とか見られる環境じゃなかったから……その……マジで?」
「これですよ正宗君」
紫琉琵亜ちゃんがデバイスを操作して空中に映し出された映像を見た瞬間、僕は絶句した。それは渋谷ダンジョンの僕の戦闘シーンだった。
「もう凄いんだよ。常人ではできないような神業の抜刀術に世界中の人々が驚き熱狂してんだから。こいつは誰だって!」
「そそ、でも箝口令が敷かれているでしょう。知ってても言えないわけよ。てなわけでついた名前が “深淵の閃光” ってことよ。ぷぷぷっ」
「もう、お姉ちゃん笑っちゃ駄目でしょ。そのね、色々なまとめサイトにも記事がアップされててお祭りになってるの」
再生数もさることながらコメントも世界各国の言語が並んでいた。
いつのまにこんなことに……くっ! 皆して笑いやがって。特に慎介、腹抱えて爆笑してんじゃねえよ。チクショー!
「ふふ、ご自分の人気に驚きましたか? でも正宗君は私の彼氏なので寄ってくる雌猫には注意してくださいね」
話に割り込み右腕に抱きついてきたのは神楽さんだった。
「そうね。綺麗な年上のお姉さんには特に!」
身が凍るような寒気とともに冷たい声が響き、ムニュんと左腕に柔らかいものを押し付けてきたのは幼馴染である穂香だ。
「それはホントに悪かったって!」
普段では目にすることのない能面のような表情の穂香にクラスメイトもビビりまくる。美耶華さんとのことは当事者たちだけの秘密になっているが、当然ながら神楽さんも知っているし弁明の余地もない。
「怖いよ穂香ちゃん。誰も取らないから……ね」
「そうよ穂香ちゃん。落ち着こう。有名人になって幼馴染を取られそうになったからって喧嘩は良くないよ」
そうか、クラスメイトの女子は美耶華さんのことを知らないから変な風に誤解してんだな……だけど、それを説明できるわけもなく、どうしたものかと考えを巡らせる―――が、どれも妙案とは言い難かった。―――ならば。
「朝に瀬里花さんがダンジョン攻略者って言ってたけどどこ行くの?」
「よくぞ聞いてくれました。ちょっと遠いけど、発見されたものの未だ攻略されてないダンジョンがあるのよ。そこに行きましょう」
瀬里花さんが僕の意図を読み取ってくれたおかげで、極寒の雪女様は落ち着きをみせ始めてくれたようだ……未だ左腕に抱きついたままだが。
今回のダンジョン探索に向かうのは同じ
神楽さんの手配してくれた車に乗り向かったそのダンジョンは、山間にある企業の敷地内にあった。入り口の守衛室で入場許可の手続きをしているときに思ったのだが、この企業名―――
「ここってもしかして」
「そそ、家の関連会社だよ」
やっぱり、春日井姉妹の経営する企業だった。
まったくうちのクラス……神楽さんといいお嬢様多すぎだろ。
更衣室を借りて戦闘服に着替える。ちなみに僕のは最新式のボディスーツ、慎介と田中君は学校支給のドノーマル品……すまんな諸君ワハハハハ。
そして―――ついに我が手に戻ってきた愛刀。激闘の後なので点検を兼ねて研磨に出されていた黒刀が戻ってきたのだ。この美しく光る黒い刀身……くううぅぅぅたまんないぜ!
「穂香、正宗君がキモいんですけど」
「アハハ病気だから気にしないで」
チクショーそういうのは本人の前で言うんじゃないよ。傷つくだろが。まあ、刀剣オタクなのは事実だけどさ……。
ダンジョンの入口は倉庫の一角にあった。
一応、人が迷う込まないように三角コーンがあるだけで無防備な穴は堂々と存在していた。
内部はオーソドックスな洞窟スタイル。
デバイスの地図アプリには途中まで地図が表示されている。つまりは、以前誰かがこのダンジョンに挑んだということである。
攻略する気がなかったのか、もとより偵察だけだったのか知らないけど出現してから一か月未満の若いダンジョンは低階層と相場が決まっている。未熟な学生たちでも十分に攻略は可能なはずだ。尚且つ僕と穂香のサポートが入るなら尚更だ。
「ライト」
魔法で灯りを出現させると薄暗い洞窟内に視界が確保される。
「へえぇ正宗君こんなこともできるんだね」
「LEDのイメージだから練習すれば紫琉琵亜ちゃんもできるようになるよ」
「そう? やっぱり正宗君優しいね。あ~あ、こんなことなら穂香ちゃんに遠慮せず中学の時にアタック掛けとくべきだったな~」
えっ⁉ 紫琉琵亜ちゃんそれどういう意味?
「はいはい、それぐらいにしといてくださいね」
「やだぁ。桜ちゃん冗談、冗談だから。そんなに睨まないで」
そこには言うまでもなく怖い顔をした神楽さんと穂香がいた。
ダンジョンに入って早々、このギスギス感……大丈夫なのだろうか。
このままだと重苦しい空気に押しつぶされてしまう。とはいえ、コミュニケーションスキルのないの僕にはどうしようもなかった。
そんなとき、救いのモンスターが現れた。
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