第14話 仙道家の夜

 お屋敷から帰ってきた。

 

 はあぁぁぁ……疲れた。

 穂香め。他人事だと思ってケタケタ笑いやがってコンチクショウ!


「ご主人様どした? 元気ない」


 溜息をつく僕の顔をケモミミ少女が覗き込む。


「ああ、ちょっと疲れただけだ。問題ない」


「ふう~ん、なら一緒にお風呂入る?」


「ぶっ! ふざけてないで早く入ってこい」


「は~い」


 まったく、天真爛漫なルーちゃんにはいつも困ってしまう。

 一緒に入るって言ったらどうするつもりだったんだ?

 案外すんなり入ったりして……な、わけないか。


 すると、ドンガラガッシャーン! と凄い音が聞こえてきた。


「なんだ? お風呂場から?」


 急いでお風呂場に向かうと―――


「冷た……」


 そこには、すっ転んで全身ずぶ濡れになったルーちゃんがいた。

 お風呂を掃除しようとでも思ったのか? ドジっ子なのは知ってるけど、どうやったら頭から水被ることになるんだよ。

 ポロシャツがぴったり張り付いて身体のラインが……。


「ご主人様?」


「あっ……ごめん。そのままだと風邪ひくから、早くお風呂に入りなさい」


「ん、そうする」


 

 まったく……人騒がせな。



 


  ◇


 僕が今ハマってるのは、デバイスを使ったオンラインゲーム。

 [ヴァルキュリア戦記 ] 主人公の女の子が精霊王機と呼ばれるマシンに乗って戦うシミュレーションRPGだ。

 もう僕はこのゲームのために生きている! そう言っても過言ではない!


「あ~ ご主人様またゲームしてるぅぅ……」


「ん? ルーちゃんお風呂から上がったのか……今…いいところだから…邪魔しないで――――って、る、る、ルーちゃん!!」


「ん……? どうしたのだ変な声出して」


「ど、どうしたのじゃないっ! 服着ろ! 服!」


 リビングに現れたのは、バスタオルで頭をふきふきと拭きながら立っているケモミミ少女のルーちゃん。

 問題なのは、濡れた身体のまま一糸まとわぬ姿だったからである。

 その少女の、形よく膨らんだ胸、ふっくらとした腰つき、水に濡れて毛がしなっとした尻尾……見てはいけないとわかっていても、どうしても目がいってしまう。


「え~ だってこっちの部屋のほうがエアコンついてて気持ち良いんだもん」


「だったら、せめて下着くらい着けてきなさい」


「ん~ わかった」

 

 純真無垢なケモミミ少女は無自覚に、童貞の僕を殺しに来ている。

 

 ―――だからって下着姿のまま部屋をうろつくな。

 こんなの穂香に見つかったら怒られるの僕なんだぞ……まったく。





 まったくけしからん。

 脱いだ服や下着をその辺に脱ぎ散らかしおって。


 洗濯機にルーちゃんの服を突っ込んでいく……そこで目につく物体。

 ―――上下お揃いだと思われる濃い緑色の布。

 動きやすさを重視したであろうそのデザインは、少女感がいっぱい詰まっており、柔らかな肌触りと伸縮性で履き心地が良さそうである。


…って、なんで僕はルーちゃんの下着の解説をしてるんだ?

言っとくが僕は HENTAI じゃないぞ!


だから僕は匂いを嗅いだり、お風呂の残り湯を堪能したりなんてしないんだぞ!






「……んで、キミはいつもいつも、なにしてるのかな?」


「ん、ご主人様のシャツでゴロゴロしてる」


「おいコラっ!」


 ルーちゃんは僕が脱いだシャツに顔を埋めていた。

 ついさっき脱衣所で脱いで洗濯機に入れたシャツである。

 今日一日着て汗や臭いがしっかり染みついたシャツ。


 もうこれは諦めるしかないのか?

 ペットの飼い猫が人や物にするスリスリのと一緒なのか?

 使用済みのタオルやシャツ、僕のニオイで安心、さらに自分のニオイ付け、本能のなせる行動なのか?


 ……でもなあぁぁぁ……。

 

 チラっとルーちゃんの姿を見る。


 僕のシャツを着たルーちゃんが、僕のベットで寝ころび、僕の脱いだシャツでゴロゴロしている。

 男物の大き目のシャツ、小柄なルーちゃんにはぶかぶかである。

 そして、彼女は今ズボンを履いていない。

 ――――つまり、長い裾から健康そうな太ももちゃんが伸びているのだ。


 ……もうね。

 目の毒である。

 よく僕は理性を保っていると思うよ。


 でもね。間違いが起こることはたぶんない。

 それはね……。



 彼女が僕より遥かに強いから。


 僕の理性が崩壊したとして、彼女にボコられて終了。

 今のところ僕は死にたくないから、理性を保っていられる。

 至って単純な理屈である。

 

 だから一緒のベットで寝ていても間違いは起こらない。

 

 最初の頃は、僕はソファーで寝て、ルーちゃんが僕のベットで寝ていました。

 でも―――朝起きると、なぜかルーちゃんが僕にくっついて寝ている。

 

 女神像のある空間をルーちゃんの部屋(仮)にして、新たに購入したベットも用意したのだが……いつの間にか僕のベットに忍び込んでいる。


 安心しているのか微笑むような安らかな寝顔。

 最初こそ睡眠不足に陥ったが、もう慣れたもんである。

 もうね。ベットで丸くなる大きな猫、だらしなく仰向けになって寝る猫。もしくは巨大な文鎮。まあ、そんな感じである。


 ……でもね。

 それとこれとは別問題である。

 ちゃんとした格好しなさい。




 無防備なケモミミ少女。

 ツナ缶が大好きな純真無垢な15歳の獣人族。

 頭を撫でてあげると喜び、ぴょこぴょこ耳が動く。

 長い尻尾はモフモフで触らしてもらうと超気持ちいい。


 強くても一人の少女であるルー・ラウリア。

 彼女が元の世界へと帰れるかわからないけど、それまでは元気に楽しく過ごせるように見守ってあげないといけない。

 そう思う僕であった。



 ……でも、寝てるとき変なとこ触っちゃったらごめんなさい。

 そっちからくっつくのはノーカンだからね。


 

 ―――ピコン。

 おっと、メッセージが届いた。

 神楽さんからだ。


 『本日はありがとうございました。――――――』


 真面目な神楽さんらしい文面。絵文字もスタンプもない。

 なので僕もちょっと真面目に返信っと。

 

 送信するとすぐさま返信があった。

 早っ! その辺は今どきの若者と一緒なんだね。

 僕もそれに返信。

 するとまた返信がある。


 穂香以外の女の子とこんなやり取りしたのは、これが初めてだった。

 気付くとかなりの時間が過ぎていた。

 さすがにこれ以上はよろしくない。


 そう思っていた時だった。

 デバイスに表示されたのは一枚の画像。


 自撮りした神楽さんのネグリジェ姿。

 そして、追加で『お休みなさい』とメッセージが。


 お姫様が着るようなレースのネグリジェ姿。

 神楽さんによく似合う清楚で可愛いネグリジェ。

 肌の露出が少ないないそれは、本来ならそこにエロさはない。


 だがこの画像……胸元をわざと開き、胸の谷間をアピールした角度で自撮りしたサービスショットだった。

 

 ………なにこれ? 神楽さんってこんなことするタイプだっけ?

 恥じらいの表情、これはあざとい……可愛いけど。


 これどう対応すればいいの? 

 僕は散々迷った挙句『お休み』と一言返信した。


 男子生徒の憧れの的である桜ノ浦神楽さんのお宝ショット。

 おそらく誰も見たことがない清楚なお嬢様の姿。僕だけが知る神楽さん。

 ルーちゃんや穂香とは違ったベクトルの可愛さが溢れている。


 これは……寝る前にトイレに行こう。

 いや、深い意味はないよ。

 ただスッキリして寝るだけ。

 そこに意味はないったらないのだ。

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