第4話 神殿 そして…①

「穂香さん、仙道君……その力はいったい……」


 僕たちは負傷した勝君を治療して帰路についていた。



 変態さんたちが立ち去り、急いで負傷者の治療にあたった。

 幸いなことに皆、打撲や捻挫程度で済んでいた。これなら問題なく治療できる。

 支給されたポーションは既に使い果たし、残りは僕の特殊能力スキルで治療した。

 

 アクアヒール。水の再生力を利用した回復魔法と呼ばれる神秘の魔法である。

 学校では先生生徒を含めても、この特殊能力を使えるのは僕だけだろう。

 そもそもが魔法を使える者がいない。

 

 特殊能力を使える者を集めた探索者養成学校。

 将来を約束された少年少女らだが、その力は多岐に及ぶものの魔法を使えるのはごくまれであり、それこそ英雄と呼ばれる者たちや高ランク探索者が辛うじて使えるくらいである。逆に言えば魔法が使える者こそが強者になり得るのだ。

 

 僕と穂香はその魔法が使える。別に秘密していた訳ではないのでこの際、話すのもいいと思った。



 僕は語りだす。

 あの日の出来事を………。



 

 それは、探索者養成学校に入学し、しばらくたった金曜日の夜。

 僕は中学時代の元クラスメートと通話していた。


「はあ!? 彼女ができた…? しかも童貞を卒業しただとぉぉ!」


「いやあ。彼女が積極的でさあ。自慢する訳じゃないけどやっちまったわ」


 ……彼は特殊能力を持たない一般人だった。今は別の高校に入学していたはずの級友からの突然の連絡。

 彼女ができない=童貞という共通点を持った仲間だと思ってたのに……。

 一人だけ抜け駆けしやがって! しかも、わざわざ自慢するように報告しやがってコンチクショー‼


「あ~~っ! 彼女欲しい! そして、セックスしてぇぇぇぇぇ!」


 僕は驚愕の報告を受けて悔しさと羨ましさで、思わず声を荒げてしまった。

 

「正宗うるさいわよ。何時だと思ってるのよ!」


 僕の部屋に乱入してきたのは隣に住む幼なじみの穂香だった。

 穂香は幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、両親が仕事で忙しく留守にしがちなこの家は半ば穂香の家みたいな感じだ。

 そして今日もなにかと世話を焼いてくる穂香がいた。


「あっ、穂香聞いてくれよ。なんと中学のとき一緒だった泰阜に彼女ができたんだってさ。驚きだよな」


「へ~ 泰阜君に彼女がねえ。―――って、なにこれ空間の歪み? まさかダンジョンの入口がこの部屋に出現するの?」


 驚く穂香の示す方向。それは突然出現した。

 六畳一間の僕の部屋には似つかわしくない神秘的な扉。


「扉?」


「扉だねぇ……」


 ダンジョンが世界中に出現して十数年。このような扉が報告された例はない。

 大概は屋外、稀に屋内もあるがこのようにハッキリとした扉は初めて見る。

 ダンジョンの発見報告は国民の義務であり、直ちにその場の封鎖が必要になってくる。そうしないと何も知らない一般人が迷い込んだりして危険なのだ。

 だけど……ここは僕の部屋だよ? 


「穂香…どうする?」


「どうするって言われても……とりあえず中を見てみる?」


「そうだね。できたてのダンジョンなら広くないだろうし、上手くいけば攻略できるかもしれない」


「決まりね。私着替えてくるからちょっと待ってて」


 穂香が慌てて部屋を出ていく。

 着がえるって……やっぱり、あのエロい格好ってことだよな?


 身体にピッタリフィットしたボディスーツ。身体の線がもろに出るんだよな……そして穂香はスタイルはいい。

 水着とはまた違ったエロさがあり、一部の界隈の人たちから絶賛される探索者の正装であるボディスーツ。

 入学したばかりの僕たちは、支給されたそのスーツを着たことはわずか数回しかなく、もちろん実践の経験もない。


 ――てことは……またあの穂香のやらしい格好が拝めるということになる。

 これはダンジョン様々かもしれない。


 おっと、そんなことを考える前に僕も着がえないとな……

 これ伸縮性あるけど、着づらいの問題だよな。


 僕が半裸になりボディスーツに着替えようとしたとき、その扉が開かれた。


「…………え!?」


 そこにはボディスーツを身に着けた穂香の姿が。

 そして僕は半ケツ状態。


 二人の目線が交差する。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 慌てて部屋を出ていく穂香。

 くっ! 穂香に僕の恥ずかしいところ見られた。

 つか、ノックくらいしろってんだよ。

 幼なじみとはいえ、僕だって年頃の男だぞ! 着がえるって分かっててわざと部屋に入ってきたのか? 


「正宗……もう着がえた?」


「ああ、ちょっと待ってて。オッケーもういいよ」


 着がえ終わると穂香が部屋に入ってきた。

 その穂香の顔が赤い。

 いや、そんな顔されると余計に恥ずかしいんですけど。


「……その、準備いい? 扉開けるよ」


「う、うん」


 き、気まずい……こんなときどうすればいいんだ?

 とりあえずダンジョンだな。


 精巧なレリーフが施された両開きの扉を開けると、そこは神秘的な神殿のような場所だった。高い天井、そして美しい女神像。

 その女神像は水瓶を持っており、そこからは透き通った水が流れていた。

 

「綺麗……ここがダンジョンなの? 想像してたのと違うんだけど」


 穂香のつぶやきはもっともだった。

 僕だってこの部屋と女神像の噴水を見ればそう思うよ。


 僕たちはギリシャ神話に出てきそうな女神像の前に来た。

 改めて見ると本当に綺麗だな。3m程の神秘的な美しさの彫刻。


 刹那、女神像が輝きだした。


「なに? でも不思議と安心する光ね……」


〔あなたたちを待っていました〕


「えっ!? この声は?」


〔驚くのも無理はありませんね。私は○を司る神○○○○○です〕


「神様? でも肝心の名前が聞き取れないんですけど?」


〔ごめんなさいね。あなたたち人間には理解できない発音なの。これはどうしても理解できない種族としての壁だから気を悪くしないでね〕


「はあ……」


〔あなたたちを呼んだのは力を授けるためです。さあ、祈りなさい。さすれば道が開かれるでしょう〕


 僕はお告げの声に導かれるまま目を瞑り、神様に祈りを捧げた。

 不思議なことに恐怖心は感じられず、むしろ温かい何かに包まれているような安心感がする。身体の奥底に感じるこの不思議な感覚はいったいなんだ?


〔上手くいったみたいですね。次はあなたたちのサポートをしてくれる者を呼びましょう。少女よ。次にいう物を用意しなさい。それは―――――」


「それなら台所にあるわ。取ってくるからちょっと待ってて」


 穂香がお告げの声に導かれるまま神殿を出ていく。

 そしてすぐに戻ってきた。手にはお告げにあったが握られている。


〔少女よ。その蓋を開け床に置き、二人で祈りを捧げない〕


「はい。これでいいのかしら? 後はお祈りね。正宗もいい?」


「う、うん…‥‥」


 穂香が台所から持ってきたのは……ツナの缶詰と銀のスプーン。穂香はなぜか僕以上にこの家の台所を熟知している。

 なんでツナ缶? 僕の疑問はさておき、穂香がそのツナ缶を床に置き、二人は再び神様に祈りを捧げる。


 すると女神像が眩いほど輝き出し、同時にツナ缶を中心に魔法陣が展開された。

 虹色に輝く魔法陣、そしてその魔法陣の上に白い光が伸びる。

 その白色光は次第に人の形へと変化していき、ふわりと羽毛のように浮かび上がったと思うと、そのまま地面へと着地した。


「へっ!?」

「「えええっ!?」」


 目の前に現れたのは謎の美少女。

 見た目は普通に可愛い。美しい銀髪にエメラルドグリーンの瞳。スラッとして手足も長くモデルさんのようだ。

 歳は僕たちと同い年か少し若いくらいかな……だが、問題はそこではない。


 

 謎の美少女には僕……穂香、いや人間の女性とは違うがついていた。

 


 それは……頭頂部にちょこんと乗った三角形の耳。そして、ぴょこぴょこと動く謎のしっぽ。

 まごうことなきケモミミ美少女がそこに出現していたのである。


 

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