第3話 初心者ダンジョン③

「えっと…どちら様?」


 いつからそこにいた? そんな変ななりで僕たちの背後にいたのに全然気がつかなかった……何者なんだ? HENTAIさんなのはわかるけど。


「ヘ~ なかなかやるじゃない」


 赤髪の痴女さんが値踏みするように僕と穂香を見る。

 しかし……この痴女さん、ダンジョン内だというのに、なんつーかっこしてんだ?胸元がばっくり開き、なんともけしからん魅惑の谷間と物凄い食い込みのハイレグえちえちお姉さん……う~ん、エロい! エロすぎる!


「逃げてっ! その人たちは―――」

 

 桜ノ浦さんがそう言いかけた刹那、目の前が揺らいだ。

 ――いや、パンイチの変態さんが突然、拳を振り上げ殴り掛かってきたのだ。


「ちょっ! 危ない!」 


 何で突然殴り掛かってくる? 僕がこの変態さんに何したっていうんだよ。


 慌ててパンイチ変態男のパンチを右へ左へと避ける。

 だから危ないって! 何で襲ってくるんだよ!

 

 って、いつまで攻撃してくるんだよ。

 いい加減にしないと、こっちも怒るよ。


 突然殴り掛かられてちょっとイラっとしたこともあり、変態男の攻撃を躱し蹴りをお見舞いした。

 ミドルキックが変態男の腹に見事に決まり……そのまま派手に壁に激突した。

 

 えっと……ちょお~と軽~く蹴っただけだし、正当防衛だし……問題ないよね?

 


「フハハハハッ! まさか俺様に蹴りを入れるとはな。少年、気に入ったぞ」


 げっ! 全然効いてない。あんなに派手に吹っ飛んだのにマジか。

 変態男が何事もなかったかのように立ち上がり、ファイティングポーズを取った。


「気に入ったぞ、じゃなくて何で襲ってくるんですか! 怪我したらどうするんですか? つか怪我人いるんで早く治療しないとヤバいんですよ」


「他人の心配なんぞしている場合か?」


「それはどういう意味ですか?」


「こういうことだよ!」


 なっ! これはオーラ? 身体強化か……禍々しいオーラを纏った変態さん……この人……メチャクチャ強いんじゃなかろうか……少なくとも先生より強いのは確かだうが――――!


 くっ! こいつ予想以上に速い……っ!


 僕はその攻撃を咄嗟に持っていた刀で受けてしまった。

 激しい衝突音が響き弾け合う。

 えっ? マジ? 特殊武器である刀を素手で殴って弾けるの? 

 普通なら拳がバッサリいくよ。なのに弾くってなんてデタラメな……。


「オラァ! どうしたどうした」


 馬鹿っぽい格好のくせに速い! それに重い! 躱すので精一杯だ。

 なんとか反撃に出ないと……くそっ!


 大振りの攻撃の後にできた隙を………。


 ―――今だっ!


 繰り出された右腕が俺に迫ってくる。僕は男の拳を躱しながらその懐に潜り込む。

 そして、そのまま横をすり抜けざま刀を振るった。


 ―――だが、刀に伝わるこの感触……。


「……軽いな。そんな温い斬撃じゃあ蚊に刺されたほどにも感じねえよ」


「この化物め!」


「お前の力はその程度か? 期待ハズレだぞ。出し惜しみしてると死ぬぞ!」


「くっ!」


 どうする? このままではこっちがやられる。

 なんだ? さらに禍々しい気が…これはオーラ…いや魔力か?


 その刹那、変態男の手のひらから魔弾が放たれた。


 僕は咄嗟に障壁を張り魔弾を防いだ。


「へっ! ちったぁやる気になったか少年」


 その攻撃を見て慌てたのは穂香だった。


「正宗! 今助けるわ」


「おっと、可愛いお嬢ちゃん。邪魔しようたって、そうはいかないわよ。あんたの相手はこいつらにしてもらうわ」


 痴女さんのけしからん胸が、ぼよよんと大きく揺れる。

 なんだ? 地面に魔法陣? それも複数……これはまさか。


 青白く光る魔法陣から現れたのは……緑色の体躯に醜い醜悪な顔つきに尖った耳を持つ人型モンスター。


「ゴブリン? どうしてこんなところに?」


 この階層には居るはずのないモンスターが穂香や桜ノ浦さんたちの前に現れた。


「ギャッギャッ!」


 不味いな……穂香はともかく、弱った桜ノ浦さんたちではゴブリンに襲われたら大変なことになってしまう。


 案の定、現れたゴブリン共は女子たちの姿を見て興奮している。醜悪な顔がさらに増して下衆な笑みを浮かべていやがる。


「穂香!」


「おっと、少年。お前さんの相手は俺様だぜ!」


 僕の行く手を阻むのはパンイチ変態男。 


 くっ! このままでは女子たちがゴブリンの餌食になってしまう。 

 僕は変態男の攻撃を躱しながら考える。

 こうなったら仕方がない。人相手に使っていい力じゃないがやむを得ない。


 僕は刀を構えその刃に魔力を通す。


「ほう。魔力刀か……だがよぉ。俺様もまだ本気をだしてないぜ?」


 僕と変態男が交差する。


 ガハッ! 変態男に殴られた腹が痛い。

 だが、僕とてただでやられた訳ではない。変態男にわずかだが傷をつけてやった。



「きゃあぁぁぁぁっ!」


 うずくまっている女の子の悲鳴が聞こえる。

 ゴブリンが女の子に襲い掛かろうとした瞬間、その首が飛んだ。


 穂香だ。穂香が舞を舞うようにゴブリン共を始末していっている。

 揺れ動くおっぱいが凄いことになってるが……あっちは任せても良さそうだな。

 なら、僕も僕のやるべきことをするのみだ。


 

 ◇ ◆ ◇ ◆ 


 桜ノ浦 神楽は床に倒れながらも、徐々に落ち着きを取り戻していた。

 そして、目の前で繰り広げられている戦いに見入ってしまう。


 岩村 穂香さん。学級委員長である彼女が強いのは知っていた。

 授業の一環で練習試合をしたこともあった。

 強いのは強いが、そこまで突出した強さじゃなかったはず……だけど、今の彼女はまるで別人……女の私でも美しいと思えるほどの動き。

 なんなのアレ? 重力を無視したかのように揺れ動く巨乳…じゃなかった…流れるような動き……私たちとは動きのキレが全然違う。

 そんな彼女がゴブリンたちを次々に屠っていく。


 そして、もう一人の彼…仙道君。彼も凄い! イケメンだけど変態的な格好した男性と真正面からやり合ってる。

 化物じみた強さを誇る男性とまともにやり合うクラスメート。

 私はショックだった。

 彼らとは実力が全然違う。

 私は無力だ。

 特殊能力スキルで強くなったつもりでいたけど、彼らとは次元が違いすぎる。


 これが…真の探索者の戦いなの? 

 だとしたらモンスターを操るこの 3人はいったい何者なの?


「少年少女よ。名を聞こうか」


 そのときボンテージ水着を着た赤髪の派手な女性が声を発した。


「はあ? なんでお前みたいな危ない変態さんに名前を教えなきゃならないんだよ。馬鹿じゃないのか?」


 彼、仙道君の言うことはもっともだった。

 こんな変質者にわざわざ名前を教えることもない。


「仙道 正宗、岩村 穂香、そしてこの俺、かつ 琉宇久るうく様がお前たち悪者を倒す者の名前だぁぁぁぁぁ!」


 突然元気になったのは同じ班の男子、勝君だった。

 私たちを庇うように土人形と戦い負傷しいるはずの男子生徒。

 その勝君がいきなり名乗り始めた。

 ―――てか、なんで二人の名前を暴露しただけじゃなく自分の名前まで名乗るの? 馬鹿なの? ねえ、馬鹿だよね?


「センドウマサムネ、イワムラホノカ か。覚えておこう」


「俺は勝 琉宇久だ!」


「……ごめんなさいね。雑魚には興味がないの」


「雑魚いうな! 俺はこれでも中学の頃、剣道で県大会にも出たことのある実力者だぞ! お前たちこそこの刀の錆にしてくれ―――」


 そう言いかけた勝君が地面に沈む。

 それをやったのは太めの男性。さっきまで派手な女性の横にいたはず。

 いつの間に? 私にはその動きがまるで見えなかった。


「勝君!」


「安心しろ。殺しちゃいない…死んだらつまらなくなる」


 おぞましい声を発したのは太めの男性だった。


「ふふふふふ……今日のところはここで引くとしよう。お前たち」


「少年。センドウとか言ったな。命拾いしたな。また会おう!」


「おい! 待て!」


 突然襲い掛かってきたときもそうだが、今度は理由はわかんないけど立ち去ろうとする変態 3人組。

 そして、謎の変態たちはダンジョンの闇へと消えていった。

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