54.魔都の古書籍

「アルバド、これだ。魔の因子が魔素を発生させる原理が記されている書だ」


 エルズが、魔都の図書館に大切に保存されていた古書籍の写しを見せてきた。


「……これは」

「そう。人間や天然の動物が魔の因子を吸引して、魔族化するときに表皮が弾けたり、肉体の変容が起こるのは。いわゆる細胞核のキャパシティを超えているからだ。そこをごり押しして、魔の因子を撒いてまで魔素を創り出そうとしてきた、われら魔人族の罪も重いが……。この文献も見てくれ」

「魔の、種子?」

「いわゆる、魔導樹と言われる伝説上の木の実のことだ。古代には、この木が地表上に繁茂していて、魔素を発し、魔力に満ちた時代があったとされている」

「その時代。どうして終わった?」

「流星雨が地表を襲ったと言われている。つまり、私たちが生きているこの時代も。この地表では何度目かの時代ということさ」

「……それで、何が言いたいんだ? エルズ」


 エルズは、畳んだ扇で俺の頭をちょこんと叩いた。


「よく考えろ、アルバド。この魔の種子が作り出せれば、魔導樹に育つ。魔導樹が魔素を発していれば、魔人は魔族を食わずとも、魔力を集めて魔法が使える。要するにだ。人間との諍いの根源が消える」

「あ……!! そうか!!」

「そういうことだ。動物は、植物を食らうことで生きる。我ら魔人族と人族の相違点は、歴史的に食べてきたものが違うという点だけだ。ひょっとしたらだが、この魔導樹の種子を人間に食わせれば……」

「まさか? 人間も魔法を使えるようになると?」

「あるかもしれぬ可能性だ。まあ、先走りはいかん。とにかく、この魔の種子を再現しなければならぬ。だが、これは……。我らだけではできぬぞ」

「? どういう事?」

「人間の科学力も借りねば。難しいことだ」

「そうなのか?」

「こと物理的アプローチにかけては、我ら魔人族は人族には到底及ばぬ。呪術的アプローチは、我らの得手とするところだがな……」

「なんで、今までその手を打たなかった?」

「人類とは、宿敵関係だったからだ。だが、今。こちらが敵意を持たずに、双方の益になることを持ち掛ければ。現在敗戦国であるわが魔大陸も帝国大陸と同等に扱われる未来もあるやもしれん……」


 エルズの頭の中には、なんだかすごい絵が描かれているようだ……。

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