18.飛行空母アイン=カーン

「ルールメーカー分隊、救難信号源にて要救助者を救出。帰還いたしました」


 隊長さんとその部下の二人が、飛行空母の艦長の前で報告と敬礼をする。


「ご苦労、ローニ大尉。それに、アンシェル、エルアン両少尉。全員民間人だったのかね? 要救助者は」


 隊長さんは、ローニいう名前らしい。艦長の問いに答える。


「いえ。一人は軍属施設で創られたアーティファクトヒューマンです。残りの三人の民間人は、まだ子供ですが」

「アーティファクトヒューマン? あの、三十歳にもなれば死んでしまう人造人間のことかね?」

「本人の申告によればそうです。それに、彼らが乗っていた装甲車のナンバー照会でも、軍属施設の備品であることが明らかになっています」

「ふむ。要救助者は魔族に囲まれていたのだな? 負傷者はいるか?」

「一名。右腕を損傷しています」

「再生技術で再生できるレベルの損傷かね?」

「いえ。腕の肘部から下が、完全にロストしています。機械義手が必要になるかと」

「まあ、そこらへんは軍医と相談してくれ。とにかくお疲れだった。その人造人間と三人の民間人には、空き部屋を使わせてやってくれ。この前の魔神との戦闘で相当にやられたからな、こちらも。欠員が出ていて、部屋は余っている」

「……そうですね。了解いたしました」


 ローニ隊長は、カッ、と白いパイロットスーツの踵を合わせて。敬礼をした。


   * * *


「ローニさん、メガネ? かけてらっしゃるのですか?」


 部屋に連れて行ってあげる、といったローニさんが眼鏡をかけている様子を見て。

 リーナが、さっきはかけていなかったのでは、と。聞いた。


「ああ、これ? 戦闘時はフライングアームドアーマーのレーダーとかモニターとかばっかり見てるから、目が悪くなっちゃって。普段は眼鏡かけていないといけないのよ。あたし、コンタクトレンズ苦手で」

「隊長、目が元々あんまり強くないから」


 アンシェルさんっていうローニさんの部下が言う。


「酷な仕事よねぇ、アームドアーマー乗りって。私も、あんまり激しい戦闘の後は、体中がギシギシ言ったりしますし」


 同じくローニさんの部下のエルアンさんも、ため息をついた。


「さてと。アーティファクトヒューマンのアシュメル君に、ノーマルヒューマンのステッド君、アルバド君。このお部屋使っていいわよ。カードキーはこれ。あと、ステッド君。右腕に義手を付けることになると思うわ。あとで呼びに来るから、心づもりはつけておいて」


 ローニさんは、俺たちにストラップにつながったカードキーを渡してくれた。


「リーナさんは女の子だから、隣室ね。カードキーはこれ」

「……助かります。男の子と同じ部屋だったらどうしようかと思っていたので……」

「そこら辺の気は使うわよ」


 ローニさんはそう言うと、リーナの手にカードキーを渡した。


「それじゃ、私たち寝るから。仮眠だけどね。アームドアーマーの操縦って、すっごい集中力使うから疲れるのよねー、まったく」

「隊長、愚痴出てますよ?」

「愚痴くらい言うわよ。あたしの隊も、この前の魔神戦で半数以上やられちゃったし。堪らないわホントに」

「まあ、私たちも部屋に戻って、ベルガモットティーでも飲みましょう」

「お茶請けは、チョコプティングがいいなー」

「レーションのチョコプティング。残っていたらあげますよ隊長」

「あらー。ありがとエルアン。アンシェル、行こう」


 三人は雑談を開始して、飛行空母内の通路を歩いて行った。


   * * *


「……」

「……あの、ステッド」

「うるせぇっ!! 話しかけんじゃねえよ、このクズ野郎!!」


 俺がステッドに声をかけると。ステッドは、汚い物を見るような視線と口調でそれを拒絶した。


「ステッドさんは、右腕を無くしたんだ。それが、君のせいだとまでは言わないけど、もし、君が。あの時銃を撃てていたら。こうはなっていなかったかもしれない。しばらくは許してもらおうなんて思わないことだよ、アルバド君」


 アシュメルも、心なしか口調がきつい。

 そりゃそうだろう。そんなことは分かっている。

 でも。

 言い訳になるかもしれないけど。

 あの時はどうしても、魔族を殺せなかった。

 俺は、ステッドとアシュメルに怒られたような形で。

 なんであの時、体が動かなかったのか。次に魔族に会った時も、そうなるんじゃないか、とか。

 ベッドの中でグダグダと考え続けていた。

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