第6話 図書室の精霊

 中庭にて、彼が問いかける。


 彼は、図書室の司書だ。

 珍しいことに、この世界は、わたしがいた世界と違って、男の司書が多い。


「本を持ち運ぶには体力が必要だから」と言う理由で。


「君は自分の顔、鏡で見たことあるかい」


「ある。

 おおよそ、誰にも好かれない、

 影の薄い顔だ。

 サボタージュしても騒がれない」


 彼がため息をつく。


 わたしは、彼を密かに「図書室の精霊」と呼んでいる。女性に嫌われない、なおかつ、いるかどうかわからない、精霊みたいな存在。


 動きがひとつひとつ優雅で、紳士的だ。嫌われないよう振る舞うのではなく、最初から紳士として生まれてきたのではないか、と思う。


「サボタージュは、よくないな。

 中庭で、僕から学べることは

 大人になってからも学べるけれど、

 学校で、同世代の人間とまみれて

 生活することは、人生の糧となる」


 そっと、ポテトを渡す。


「くれるのかい。僕に」


「眼鏡をかけている紳士に弱いもんで」


 食べかけのハンバーガーは、ふところに入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る