第32話 スーハー

「うおおおおお!」


 セレストリア王国の兵士たちが鎧をガチャガチャ言わせながらオレめがけて突っ込んでくる。


 ドシーン。


 その兵士たちをビッグフットゴブリンの巨大な足がまとめて踏み潰す。


 え、なにこれ。

 なんかオレとゴブリンが協力して人類と戦うみたいな構図になってね?


「ナイソウ。ガイソウがどこにいるかわかるか?」


 まずは鎧ゴブリンの確保が第一だ。

 他のことは、その後に考えよう。


「さっきから探してるんだが、いるとしたら……あそこだな」


 ナイソウが指差したのは、人気のないガランとした岩場だった。


「ん? どこ?」


「ほら、あそこ。あの竹のくだが出てるとこ」


 言われてみてば、岩の塊の中から一本のくだがヒョロっと飛び出てる。

 オレはナイソウを抱えてそこまで跳ぶと、管の先に指を当てて塞いでみる。

 くだがぷるぷると震える。


 パッ。


 手を離すと、管の中からプシュープシューと空気が激しく出入りする。


 ピッ。指で押さえる。

 ぷるぷる。

 パッ。

 スーハースーハー。

 ピッ。指で押さえる。

 ぷるぷる。

 パッ。

 スーハースーハー。

 ピッ。指で……。


「あああ! なんだんだよ、お前ら!」


 積み重なった岩をガラガラガラと崩して中から出てきたのは、きのこカットヘアーの鎧ゴブリンだった。


「ああっ! てめぇ、ナイソウ! せっかく隠れてたのに、なにしてくれてんだ、このボケカス七三野郎!」


「誰が七三だ、このキノコ野郎」


 いきなり口喧嘩。

 思ってた以上に仲悪いやん、この二人。


「はい、ストップ! 一旦ストップ! ほら、オレ、魔王の器持ってる! ね? わかる? 器。で、ビッグフットゴブリンはオレを倒しに来た! オッケー? で、今オレたちは王都軍に襲われてる。アンダースタン? だから、ここは喧嘩をやめて王都軍をどうにかしよう。いい?」


「器だ? たしかに、さっきちょこちょこ魔王の魔力は感じてたが……」


 あ、はいはい。

 これ、あれね。

 またオレのスキルを見せて器を証明する流れね。


「よし、じゃあ今からオレが……」


 空中ジャンプして魔力を感知させようとした時。


「ぐわあああああああ!」


「うおおおおおおおお!」


 ビッグフットゴブリンと王都軍が一斉に襲いかかってきた。

 咄嗟に体が反応する。


 円舞ロンド

 前転旋回フロントスピン 


 横軸の攻撃と縦軸の攻撃。

 立て続けに繰り出されたオレのスキルは。


 ビッグフットゴブリンを細切れにすると、続けて王都軍を切り刻もうとしたところで。


 ガキーン!


 ユージとシロがオレの剣を受け止めた。


 うおっ、あぶねっ!

 危うく人殺しちゃうとこだったじゃん!

 二千年間ゴブリンを殺し続けてきたオレだけど、さすがに人を殺す気はない。

 よっぽどの悪人相手ならともかくだ。


 っていうか、スキルに関してはマジで注意しないとヤバいな。

 今まではたまたまよかったけど、無意識でスキル出しちゃうとか危険度高すぎる。


 ……ん?

 え? あれ……?

 もしかして「誰かに攻撃を受け止められた」のって初めてじゃね?

 これってオレの攻撃が実はあんまり強くないのか……それとも。


 ──この二人が強いのか。


「にゃにゃにゃ~! ガルム! 王都兵を殺したら後がめんどうにゃ! 殺さずにどうかするにゃ!」


「とうとう正体を現したか、邪悪なゴブリンめっ! 人々はオレが守るっ!」


 え、っと。

 たしかこの二人、元々パーティー組んでたんだよな?

 え、なんか息ぴったりですごいじゃん。

 オレとシロは、昨日から一日一緒に行動してただけだ。

 だけど、この二人の息の合いっぷりには、思わずちょっと嫉妬してしまう。


 考えてみれば、ユージとちゃんと剣を交えるのってこれが初めてだ。

 それに、シロもオレと同じくらいの身体能力はあるんだよな。

 その二人が力を合わせたんだから、オレが止められるのも当然なのかもしれない。


 これが……パーティーというものか。


 個の力ならオレの圧勝だろう。

 そもそもオレは不老不死だし、タイマンを張って「負ける」ということは万に一つもない。

 だが、個ではオレよりも劣る者たちがパーティーを組んだだけでこうなるとは。


 オレは、パーティーというものをもっとよく知ったほうがいいのかもしれない。


「シロ! 撤退するぞ! ガイソウを捕まえろ!」


「はいにゃ!」


 シロは目を輝かせると、まだ口喧嘩してる鎧ゴブリンの片割れを押さえつけた。


「シロ、ナイソウ! 捕まれ!」


 オレは二人を抱えると、宙を蹴ってその場から離脱した。


「クソっ! 逃げるか、卑怯者めっ!」


 ユージの声が闇夜に響く。

 シロに掴まれているガイソウが、宙ぶらりんで手足をバタつかせている。


 人の足なら五日。馬なら二日。

 それだけの時間がかかる人探しを、オレたちは一日足らずで終わらせ、ケムラタウンへと戻ってきた。

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