第6話 ガラスに映ったゴブリン
ウェイ! 街っ!
二千年ぶりの人里っ!
やっぱあの駆け出しくんたちを追いかけてきて正解だった!
あのタンクのやつの足跡がハッキリ残ってたから追跡は余裕だったぜ!
ところどころ隠匿されてたけど、それも二千年もの間、暗闇ダンジョンで鍛え抜いてきたオレの観察眼の前では無意味っ!
はぁ~……それにしても、やっぱ街っていいよなぁ……。
ご飯、ベッド、お風呂、お金を払えばなんでも手に入る。
二千年間ゴブリンしか食べてこなかったオレからしたら天国以外の何物でもないよ。
ほらぁ~~~、もう、すっごい美味しそうな匂いがここまで漂ってきてるよ~? 夕飯時だからかな? あ~、もうたまらん。
「ジュルっ……」
やべえやべえ、匂いだけでよだれ出てきちった。
なんてったって二千年ぶりの料理の匂いだ。
よだれがボトボト出ちゃう。
あれ? ボトボトって言い方はおかしいかな?
まぁ、でも実際、滝のようにボトボトよだれが足まで垂れてんだから仕方がない。
ああ……早く人の作った手料理が食いてぇ……。ボト……ボトボト……。
え? お前、お金持ってないだろうって?
大丈夫大丈夫! 途中で襲いかかってきた、この狼。
かる~く絞めたこいつの素材を売れば、今日の飯代くらいにはなるだろ。
しかし、オレも多少は強くはなってるみたいだなぁ。
ダンジョンではゴブリンしか相手にしてなかったからよくわからなかったけど、狼を軽く倒せるくらいだから、いっぱしの冒険者くらいにはなってるっぽい。
レベルでいうと22~28くらいってところか?
あ~、それにしても、この世界にレベルやステータスとかがないのが本当に悔やまれる。
成長を数字で見られたら、自分のちまちま稼いできた経験値を確認しながらニヤニヤ出来たのに。
しかもスキルもないっぽいからな~、この世界。
二千年間も戦ってたのに、結局なんのスキルも覚えなかったもんな。
まぁ、これくらいの規模の街だとさすがに冒険者ギルドはあるだろうし、もしかしたら、そこで確認できるかもしれない。
うん、そうだ、諦めるのはまだ早い!
これからが、オレの本当の異世界ライフの始まりなんだ!
そう、言うならば……。
『不老不死のオレ、パーティーを組んでる軟弱な異世界冒険者たちを
ってとこか!?
やべえ、ワクワクが止まらねぇ~!
よ~し、さっそく街に突入じゃ~~~!
ドドドドドド~ン!
オレが街に向かって駆け出した瞬間、突如くぐもった爆裂音が辺り一面に鳴り響いた。
「うおおおお!? なになになになに~!????」
見ると街の入り口にウィザードがずらり。
その真ん中を割って出てきた男は……あれ? なんか見覚えがあるぞ?
ああ、これさっきの駆け出しパーティーくんズのアタッカーっぽい人じゃん。
(……ん?)
……ってことは、なに?
まさか、狩り場で横殴りされたことを、ま〜だ根に持ってるってこと!?
いやいや! だからってこんな大勢で魔法撃ってくるとかやりすぎでしょ!
「グヴォ、ヴァヴォ……」
ああ、まだ喉の調子悪くて声が出ね~。
これじゃ誤解を解こうにも無理じゃん。
どうやったら許してもらえるんだよ~。
オレはただ、街で人間らしい暮らしがしたいだけなのにさぁ~。
……ん? 暮らし?
そうだ、人間の暮らしにはお金が必要。
じゃあさ、お金代わりに、この狼を向こうに渡せば、謝罪の証になるんじゃないか?
オレはお金に換金する素材がなくなっちまうけど、それでも、このまま誤解されて揉め続けるよりはマシだろ。
狼なんか、また後で狩ってくればいいだけだしな。
「ヴォー……」
ドドドド~ン!
狼を渡すために近づこうとしたら、また魔法撃たれた。
マジであいつらどんだけ横殴りに怒ってんだよ。
しょうがないから放り投げるとするか……。
「ヴオ~ボ(せ~の)……」
ポイッ。
ドサッ。
シ~ン。
あ、あれ? なんか反応がないな……?
ほら、それあげるから許してちょんまげ?
ゴブリン横殴りの謝罪くらいならそれで十分でしょ?
「「「うわああああああああ!」」」
あれ?
なんか大声上げてみんなどっか行っちゃった。
なんだよ~、なにがなんでも許さないってか?
ちょっと意固地にもほどがあるだろ、この異世界の住民……。
誰もいなくなった街の入り口まで歩いていくと、ポツンと置き捨てられたままの狼を拾いあげた。
う~ん、この狼……毛並みもいいし、色もどことなく金色っぽく見える。
素材としては悪くないと思うんだけどなぁ……そんなに気に食わなかったかぁ……。
もったいないから、下取りしてくれるとこを自分で探して引き取ってもらおう。
オレは、そのまま街の中へと入っていく。
「ヴォ~(あ~、すみま)……」
「ぎゃあああああ!」
「ヴェ~(え~っと、この辺に)……」
「ひゃあああああ!」
「ヴォヴォ~(あの~、ちょっと聞きたいんですが)……」
「びゃあああああ!」
「ヴォヴィ(すみま)……」
「むああああああ!」
オレが声をかける人、声をかける人、全員が叫びながら立ち去っていく。
なんだここ、旅人に冷たすぎるだろ。
住民全員人見知りかよ。
リアル村八分じゃん、つらっ……。
しかし、横殴りしただけでここまで嫌われるとは。
異世界、予想以上に異世界だな。
え、ちょっと待って。
そうこうしてるうちに、街から人っ子一人いなくなっちゃったんだけど?
どんだけ? どんだけ、オレ嫌われてんの?
「ヴォヴォヴァヴェ~~~(どんだけ~~~)!」
オレの声が虚しく街に響き渡る。
ガタッ!
その時、道端に置かれた木箱の中で何かが動く音がした。
「ヴォ(なんだ)?」
そ~っと蓋を開けてみると、中には小さな獣人が入っていた。
おお、獣人!
さっきの駆け出しパーティーくんズにも一人いたような気がしたけど、また遭遇とは!
ここではわりとポピュラーなのかな、獣人?
よ~しよしよし、怖くない、怖くないよぉ~?
オレはソロプレイヤー。人とのコミュニケーションは苦手だが、動物は好きだ。ちなみに子供も好き。あ、言っとくけど変な意味でではないからね! 将来保育士になりたいな~とか考えてて、でも資格にピアノが必要だったから諦めたりしたけど、断じてそういう変なあれじゃないから! オレのは、純粋なあれだから!
コホンっ。
え~、わかる、わかるよ? 必死に否定したほうが逆に怪しいっていう、あれね。うん、うん、わかるわかる。ということで、話を獣人に戻して……っと。
ふむ、とりあえず、オレが獣人を見てわかることは、まず「怯えている」ということだ。獣人くんは、ちっちゃい木箱の中で頭を抱えてブルブルと震えている。ちっちゃな手は、ぺたんと折れた三角の耳を押さえきれてない。尻尾も「きゅるん」って小さく丸まってる。体毛は赤茶色で、尻尾や手の一部分が白い。
あれ……? これって……?
あれじゃん、柴犬じゃんっ!
柴犬の獣人の子供じゃん!
え、かわいっ!
超かわいいんですけど~!
っていうか、こんな可愛い子ども柴犬獣人は、一体なにに怯えているんだろうか。怖がってる要因を取り除いてあげたい。誰か周りに怖い人とかいるのかな? 虐待とかされてるとかなら、オレが守ってあげちゃうぞ~、な~んて……って?
(……え?)
ふと見上げた軒先の窓ガラス。
(ええ?)
そこに映ったオレの姿は──。
(ええええええええっ!?)
どこからどう見ても。
(うそ、だろ……?)
──ゴブリン、だった。
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