第4話 駆け出し冒険者
「うおっ!」
オレは咄嗟に剣を振るって矢を払い落とす。
(なんだ……!?)
矢の飛んできた方向を見ると、見るからに「狩人でござい」みたいな緑の服を着た、緑の帽子の、緑ずくめの男が次の矢をつがえようとしてた。
(? なんでいきなり矢を?)
そう思った時、視界の端に一匹のゴブリンが映った。
(ああ、なるほど)
途端に合点がいった。
きっとあれは駆け出し冒険者なんだ。
で、このゴブリンしか出ないゴブリンダンジョンに腕試しに来た、と。
そして、そこのゴブリンを見つけて、動揺して撃った矢がこっちまで飛んできちゃったと。
うん、なるほどね。
それなら、オレが助けてあげちゃおう。
ズザンッ──!
オレはゴブリンの死角に回り込むと剣を跳ね上げ、一刀のもとに斬り伏せた。
よおおおおおし!
今のオレ、イケてる!
駆け出し冒険者パーティーがビビって混乱してるところに、
そして一撃でゴブリン撃破!
そしてそして! その美技に見惚れる駆け出し冒険者っ!
『あぁ……一体誰なんだ、あのイカしたソロプレイヤーは!?』
間違いなくこうなってるはず!
くぅ~! これぞソロプレイヤーの醍醐味!
ヤバい! かっこよすぎる! オレ!
あっ、なんか感無量すぎて泣けてきたわ……。
オレは駆け出し冒険者たちの方を向き。
パチッ──☆
と、「もう大丈夫だよ☆」の意味を込めてウインクを飛ばす。
ビュンビュンビュンっ!
すかさず飛んでくる矢。
オレは間一髪で身をかわす。
おいおいおいおい〜っ!
助けてやったのに、そりゃねーだろ!
あ、もしかしてあれか?
狩り場で横殴りされたと思ってる?
あ~、その可能性はあるな……。
ってことは、あれだな。
声をかけて誤解を解いたほうがいいな。
「ウ……ウヴヴオァ……」
やべえ! 二千年喋ってないから声の出し方がわからねぇ!
ほら~、みんな怯えてるじゃ~ん!
女の子たちも、またキャーキャー言ってるし。
え~っと、どれどれ?
二千年ぶりに見るパーティーだ。
せっかくだから観察してみようかな。
狩人の他は……ヒーラー、タンク、マジシャン、アタッカー、シーフってとこか。
う~ん、なかなかバランスよさそうなパーティーだな。
しかも装備も高そうなのを身につけてる。
結構、お金持ちの駆け出しパーティーだったりするんだろうか。
そして、男女比が半々。
ハ、ハハ……。
ヤバい。
なんか野良パーティーに入ったら女性プレイヤーにめちゃくちゃ媚びてた男たちのことを思い出して鬱になってきたわ……。
そして、後日そのパーティーと狩り場でバッティングした時に、すごい気まずい雰囲気が漂った後、すごい冷たい視線で見られたことを思い出したわ……。
あ~……この駆け出しピチピチパーティーも、あの時のあいつらみたいに人生エンジョイして青春しちゃったりしてんのかな……。
ギロリ。
おっと、いけねーいけねー、思わず睨んじゃった。
今のオレは、ただの通りすがりのしがないイケメンソロプレイヤーなんだ。
そんな嫉妬の心は、前世に置いておこう。
よし、先輩らしくもう一回声をかけて安心させてあげるとするか。
オレは右手を上げて彼らの方に近づいていく。
「ヴォ、ヴォヴォ……ダビヴォ……ウヴォヴァッ、ガハッ!」
やべ、ムセたっ!
そりゃ、ずっと喋ってないのに急に喋ろうとしたら、そうなっちゃうよ!
「ひっ──!」
「ば、バケモノ……」
「う、うわああああ! この国は、もう終わりだああああああ!」
めちゃくちゃ失礼なことを言いながら走り去っていく駆け出しくんズ。
いやいや、言いすぎでしょ、さすがに。
バケモノって。
いくらオレでも 傷つくわ。
まぁ、でも、今のは狩り場で横殴りしたオレにも否はあるし仕方ないか。
いや~、しかし二千年ぶりの外界だ!
やっぱり新鮮な空気はいいな~!
スーハースーハー。
うん! やっぱり人間、地上だな〜!
さぁ、これからは人間生活満喫するぞ~!
とりあえずは、っと……。
よし、あの駆け出し冒険者達が行った方向に向かってみるか。
きっと街とかがあるんだろうし。
オレは千九百年使い込んできた愛剣を「チンッ──」と鞘に収めると、足取り軽く彼らの後を追い始めた。
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