第3話 踏破

 やっほ! みんな最近どう?

 オレ? オレはね~……。


 ゴブリンを食べながら、ゴブリンに食べられてるっ☆


 いや~、だってほら、オレ武器とかないじゃん?

 素手だよ素手?

 部屋着の上下スウェットだけで転移させられちゃったしさ。

 そんな状態で辺り一面のゴブリンだよ?

 素手じゃん?

 もう素手でいくしかないじゃん?


 でさ?

 食べ物とかもないわけじゃん、ここ?

 だから食べるしかないわけじゃん? ゴブリン。

 ほら、オレ不老不死だけど、お腹は空くのね?

 だからさ? ほら、仕方なく。

 仮にお腹壊してもさ、ほら……オレ不老不死だから。


 で、向こうのゴブリンさん達も「わー、餌だ人間だ」って具合で襲いかかってくるわけよ。

 いや、こんな何万匹も密集しといて、な~に一人の人間に群がってんだ、お前らって。

 っていうか、普段の食事はどうしてたんだ、お前らって。

「ご飯ここに置いておきます。早く出てきてね。母より」って書かれたメモと一緒に添えられたご飯じゃねーんだぞ、オレはって。


 で、オレもオレで不老不死な手前、食われても食われても死なないわけ。

 だからこっちもちょっとずつゴブリンどもを食っていってさ。

 で、向こうもオレを食っていってさ。

 なんつーの?

 そう、地獄☆

 ってな感じで、オレはゴブリンと食いつ食われつな共生関係を築いてたわけ。


 朝も、昼も、夜も。

 春も、夏も、秋も、冬も。

 一年も、十年も、百年も。


 え? 痛くないのかって?

 痛い、痛い! そりゃ痛いよ!

 でも、なんていうかなぁ、人って不思議なもんで慣れるんだよな、痛みにも。


 で、気がついたら東京ドーム何個分かのゴブリンが全部いなくなっちゃってた。

 オレが食べつくしちゃったのか、それともゴブリン達が移動しちゃったのかはわかんないけど。

 で、ここに留まってても仕方ないってことで、オレは上階を目指すことにしたんだ。


 なんせ脱出に二千年かかるダンジョンだ。

 やりがいは無限大。

 チマチマやることに関してはソロプレイヤーの右に出るものなし。

 普通の人が一気に稼ぐ経験値ゲージを、一人でちょこちょこ稼いでいくような行為に幸せを感じる人種。

 それがソロプレイヤーなんだから。


「フフフ……」


 燃えてきた。

 なんせこれから千九百年くらいチマチマとレベリング出来るんだ。

 最高じゃないか。

 オレは途中から武器として使っていたゴブリンの骨を手に階段をのぼる。

 天井付近を調べてみると、どうやら天板が動きそうだったので、ぐぐぐ……と横にスライドさせてみる。

 わりと重たかったが、どうにか動かせた。

 オレってこの百年くらいゴブリン食べてただけだったけど、もしかして意外と力がついてる?


「よい……しょっと!」


 天板をどけると、やけにきれいな部屋に出た。

 天井が高くて、床も「大理石、ドーン!」って感じ。

 壁には王城みたいな旗が吊るされてて、金ピカの鎧を着たゴブリンがいっぱいいた。


「あちゃ~……ここもモンスターハウスだったか……」


 天板はちょうど玉座? っぽいのの下にあったらしく、そこに座ってたっぽい緑色のゴブリンが床に転がってる。


「……は? ……誰だ? 一体どこから……」


「問答無用! しねええええええええ!」


 ザクー!


 お、当たりどころよかったみたいで、一発で仕留めたらしい。


「しゃぁ! クリティカル!」


 よしよし、いいぞ。

 先手必勝。

 これこそソロプレイの鉄則。

 敵に囲まれても、まず一匹倒せば包囲は崩れる。

 だから、そのスキに態勢を立て直すんだ。


 ってことで、オレは玉座を盾にしながら部屋の隅で骨を構える。

 ソロプレイで一番大事なのは、戦う地形だ。

 絶対に挟み撃ちされない場所で戦う。

 それがソロプレイヤーの鉄則。

 この位置なら、多くても二体の相手を同時にするだけで済みそうだ。


「くくく……」


 いいねぇ、百年ぶりにちゃんとソロプレイしてる気分だ。

 さぁ、こいゴブリンども!

 一匹づつ削り取ってやるぜ!


 ……って、あれっ?

 残りの鎧ゴブリンたち、顔を見合わせて、どっかに行っちゃったんだけど……。


 不完全燃焼。

 だけど「助かった〜」という気持ちも少々。

 いや~、危なかった。

 次から、フロア移動する時は、ちゃんと確認しないとだな。

 っと、この緑ゴブリンのドロップ品でもいただいときますかね。


 ▼GET!▼


■ なんか軽くて異世界物質っぽい素材の薄い剣。

■ なんか頭飾り。髪の毛ボサボサだから束ねるのにちょうどいい。

■ 黒と金で出来た鎧一式。サイズぴったり。ラッキー。

■ 赤いマント。赤は目立つからどっかで汚して黒く染めよう。

■ 黒いブーツ。めちゃめちゃ臭いけど背に腹は代えられない。


 ふぃ~、久々に着たぜ、服!

 やっぱり何かまとってると落ち着くんだな、人間って。

 元々着てた部屋着なんか一瞬でズタボロにされたもんね。

 これなら軽いし頑丈そうだ。


「あと……これも一応持っていくか。百年くらい一緒に過ごしたんだからな」


 下の階から持ってきたゴブリンの骨を鎧の隙間に詰める。

 さぁ、罠とか調べながら、完璧な地形取りをしながら、ちまちまレベリングしながら、ついでに踏破してやるぜ、二千年ダンジョン!


 ジャキーン。


 オレは手に入れたばかりの剣をダンジョンの奥に向けて掲げた。



 ──千九百年後。



 と、踏破してしまった……。

 しかも……あれから特に危なさそうな場面もなく……。

 ただ、ひたすら慎重にゴブリンたちを倒し続けて。

 ちまちまちまちま進んできた結果。

 なんの危なげもなく踏破出来てしまっていた。

 っていうか、このダンジョンほんとにゴブリンしかいなかった……。


 目の前にある扉。

 あきらかに外気の流れ込んできているこの扉を開ければ、オレの二千年間のレベリングは終わり。

 ダンジョンも踏破だ。


 「よしっ!」


 頬を叩いて気を引き締めると、意を決して扉に手をかける。


 パァ……ッ!


 二千年ぶりに見る光。

 その眩しさにクラっとする。


「キャアアアアアア!」


 女性の声!?

 すかさず声の方を向くと──。


 バビュビュビュビュンッ!

 

 膨大な数の弓が、オレに降り注いでいた。

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