第10話 あの時2

※※※※※※※※※※※※※※※


「ねぇ・・・」

泣きそうな目でアイツが呟く。


想っていることは同じ。

俺は両手を握りしめて必死に答えるのを我慢していた。


まさか。

アイツも眠れないほどに、俺を想ってくれていることも知らずに。


「もう、知らないっ・・・」

アイツがむくれて公園の外の道路に飛び出そうとした。


「あっ、待てよっ・・・」

俺は咄嗟にアイツの手を取った。


柔らかな感触に戸惑いながらも。

俺はアイツを引き寄せた。


「キャッ・・・」

小さな悲鳴と共にアイツは俺の胸に飛び込んだ。


無意識に。

ギュッとした。


「裕美・・・」

タメ息のような声でアイツを抱きしめた。


「・・・」

アイツは声も出さずに俺に身体を預けていた。


柔らかな感触と共に甘い香りがアイツの髪から漂った。


「好きだ・・・」

絞り出す声にアイツがモゾモゾと顔を上げた。


大きな目が。

ウルウル、していた。


「バカ・・・」

ジッと俺を見つめながら呟いた。


「やっと、言ってくれた・・・」

アイツの両腕がギュッとした。


「裕美・・・」

俺は心の底から愛おしい名前を呼ぼうとした。


その時。

目の前を大型トラックが通り過ぎていった。


そして。

無意識に言葉を綴っていた。


神様。

ありがとう・・・。

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器(うつわ) 進藤 進 @0035toto

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