第14話――敗北

 あまりの敵の脆弱ぜいじゃくさに拍子抜けし、完全に戦意を喪失したリーダーは、ふと我に返ったように、周りを見回した。


 さっき自分が殴った女性が白人はくじんの青年に、そして、足によっては、手をインシュロックで拘束されたままの日焼けした黒髪くろかみのハンサムボーイに介抱かいほうされている。


「余計な真似をするな!」


 真っ先にリーダーは、自分のたすけている体幹たいかんのいいハンサムボーイに対し怒号を上げた。

 しかし、相手は怯まず、顔がれあがった茶髪ちゃぱつの青年の前に立ちはだかると、言い返した。


“Who do you think you are?”


「……何だって?」


 英語で返されたリーダーは思わず面倒くさそうにまゆひそめる。


「『?』 って言ってる」


 その声で振り返ると、キャップを被った白人はくじん青年がその拘束された両手で倒れた恵梨香えりかを介抱しながら、こちらを冷めた目つきで見ていた。


「……なんだと?」


“I still don't understand the situation”


「未だに何が起きているのかわからないが」


 突然の英会話で茫然とするリーダーを置いてけぼりにして、白人はくじん青年の通訳つうやくは続く。


“One thing I can say――”


「ひとつだけはっきり言えることは」


 すると、黒髪くろかみのハンサムボーイは、背後でまだ立ち上がれないままでいる茶髪の青年の方をちらっと振り返ると、今度は、向かいの離れた所で白人青年に介抱されている恵梨香えりかの方を見て、再びリーダーに向き直った。


“you're a motherfucker


「あんたが、ってことだけだ」


 そのに、リーダーの両目が大きくかれた。


「黙れ。ぶっ殺すぞ。クソ外人がいじんが」


 リーダーがすごみながら、その筋肉質な体つきのハンサムボーイの方へと歩いていこうとすると、


「やめとけ」


 背後から白人青年はくじんせいねんが呼び掛けた。


「あんたがかなう相手じゃない」


「……何……?」

 

 たたみ掛けるように白人はくじん青年自身の口からのように、言葉から発せられた。


「もう、あんたには誰もついて来ない。。全員で協力し合うことでしか、脱出する方法はないんだよ」


 リーダーはふと周囲を見回した。


 自分の部下だった長髪、パンチパーマ、金髪坊主、ニット帽、リーゼント頭の男達が気まずそうに戸惑いの視線を泳がせる。

 悲壮感ひそうかん溢れる目つきで彼らの顔を必死で追いかけるリーダーだったが、誰も目を合わせようとしない。


(……こいつらは……俺を絶対に裏切れるわけがないんだ……)


 急に我が身に襲い掛かかってきた孤独こどく虚無感きょむかんを振り払う様に、リーダーは必死に声を張り上げた。


「黙れ! 俺がこの場を手配てはいしたんだ! 最後まで!」


 すると、彼の言葉に反発するように、地面で拘束されている同じ銀ジャンパーの男女が、不信そうな目つきを向けた。


「……何だその目は! てめぇら、全員ぶっ殺すぞ! 俺に逆らうと、どうなるか教えてやる!」


 そう叫ぶや否や、リーダーはすぐそばうずくまっているネイビージャンパーを着ている男の髪の毛を掴むと、手に持っていたボールペンを高く振りかざした。


「やめて!」


 恵梨香えりかの声が、大広間に響き渡ったと同時だった。

 抵抗する間もなく、その青白い顔の男の首元に向かってボールペンが真っ直ぐに振り下ろされた。


『やめなさい。健吾けんご


 不意をついたによって、リーダーの動きが止まった。


 ボールペンは首元寸前で制止している。


 しばらく静かだったスピーカーから、弥玻荃やはうえの声が続いた。


健吾けんごあきらめなさい。あなたのです』


 そのを聞き、リーダーの頭の中で、またたに焦りと不安がふくれ上がっていった。


(……何故、を知ってる……?)

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