パパは学歴厨

 タイトルの通りである。私の父は学歴厨だ。もうこの時点で相当の「がっかり」だと思うので、今回の「がっかり日記」はここで終わらせてもいいのだが、もう少しだけお付き合いいただきたい。


 まず学歴厨とは何か知らない人のために説明する。学歴厨とは世の中は学歴で全てが決まると思い込み、低学歴を馬鹿にすることを生きがいとしている愚か者達のことである。


 こうハッキリと断言すると「お前は低学歴だからそんなことを言ってるのだろう」と言う人がいるかもしれない。確かに私が行った大学の偏差値は低い方だ。運が良ければチンパンジーでも合格できるレベルの大学だ。だからなんだというのか。私が低学歴でも学歴厨達がろくでなしであるという事実は変わらない。


 良い大学へ入った人=すごい人、という事を否定するつもりはない。良い大学に入れたのはその人の才能となにより日頃の努力の賜物だろうし、そんな人達を私は尊敬している。


 しかし学歴厨が言うように、学歴が低い人=クズ、という考えは間違っていると思う。


 低学歴かつ今現在ろくな人生を送っていない私が言ってもなんの説得力もないことだが言わせてもらうと、


「学歴で人生の全てが決まるわけではない」


と私は思っている。


 良い大学に入ってもその後落ちぶれる人もいるし、大学に行かなくてもその後社会で成功する人もいる。そりゃ良い大学を出た人の方が社会で成功する可能性は高いのかもしれないが、何にしても社会に出てからどうするかが重要であってどんな学校を出たかで人生は決まらない。


 何というか普通すぎることを書いてしまったが、要するに言いたいのは私は学歴厨が大嫌いで、その思想も間違っていると考えている人間であるということだ。




 さて、ここで今回のタイトルを振り返ってみよう。


「パパは学歴厨」


 そう、もう一度言うが私の父は学歴厨なのだ。もう本当にがっかりだ。




 具体的にどういう風に学歴厨なのか例を挙げていく。


 例えば日常会話で


「〇〇さんの家の△△ちゃんが××大学に合格したらしいよ」


という話が出た時、普通なら


「へえそうなんだ。よかったね」


ぐらいが普通の反応だろう。だが学歴厨の父は違う。


「××大学にかぁ。ふーん、なるほど」


といった具合にその大学のレベルによって蔑んだり感心したりする。本当に見ていてやな感じだ。



 また、ある時テレビでドキュメンタリー番組を見ていた時、将来家業である農家を継ぐために農学部に入ることを目指している健気な高校生男子が出てきた時も、


「〇〇大学の農学部は大したことない」


とバッサリ言い切った。この話で重要なのは親の意志継いで農家になるために頑張っているという点なので、どこの大学の農学部に行くかなんてどうでもいい話だ。なのに学歴フィルターを通してドキュメンタリー番組を見ると、ここまで屈折した感想を吐けるのかと呆れてしまった。このバカタレが。



 そして、もっともがっかりしたのは動画サイトで、とある高学歴の配信者が街に出かけ、低学歴の人たちを馬鹿にするといった内容の動画アップしていたのだが、これを父が面白がって視聴しているということだ。これには本当にがっかりした。


 その配信者だって本気でバカにしているわけではなく、バカにしている様子を動画にすることで人々を煽って再生数を伸ばす、という意図があってやっていることだ。


 しかし、視聴している父はどうなのだろう。この配信者を崇拝して「低学歴はクソ」みたいなことを本気で思い込んでいる気がしてならない。





 で、ここまで読んだ人はこう思ったことだろう。


「ここまで学歴厨なパパは、さぞいい大学を出たのだろう」


きっとそう思うはずだ。




 言ってしまうと、実は父は大学に入学したことはない。つまり高卒だ。


 ここで今一度、父が高卒であることを踏まえた上で、このエッセイを最初から読み直していただきたい。私の父の異常性に気づくはずだ。そして私の苦しみとがっかり感も少しはわかっていただけたと思う。本当にわけがわからない人なのだ、父は。


 普通なら学歴厨の話なんて、高卒の人は聞きたくもないはずだ。きっと彼らは高卒の人間をバカにするだろうから。


 しかし父はわざわざ学歴厨の動画を能動的に視聴し、さらには自ら学歴について語り、勝ち誇ったような態度をとっているのだ。




 父がこんな風になってしまったのは私の兄が影響しているようだ。兄は日本でも有数の難関大学に入学したすごい人だ。それが父になんの関係があるのかという話だが、どうやら父は自分の息子が難関大学に入学したことで「自分もその大学に入ったのと同じようなもの」と思い込んでいる節があるのだ。


 最大限好意的に解釈すれば、確かに兄がその大学に入学し、卒業できたのは父の力無くしてはあり得なかった。兄は塾に通っていたし、受験の費用も相当かかり、さらに地元から離れた大学のため一人暮らしのためにアパートも借りた。そんなことができたのも父が一生懸命働いていたおかげだ。


 大学に入るという選択ができない家庭だって普通にある中で、なんの心配もなく大学に入学できた私たちは幸せだったと思うし、父には感謝している。


 それはそれとして実父が「自分のことを高学歴だと錯覚している男」であるという事実はがっかりだ。




 もう一度フォローするが、父は高校卒業後懸命に働き立派に仕事を続けてきた。私たちを養い、育てて県外の大学まで行かせてくれた。


 さらに父は仕事だけの人ではなかった。小さい頃はキャンプに連れていってくれたり、カブトムシやクワガタムシを山に一緒に捕まえにいったこともある。私が自転車に乗れるように特訓してくれたのも父だった。


 学校では教えてくれないことをいっぱい教えてくれて、体験させてくれたのが父だ。例え一流大学を出てなくたって、そんな父が偉くないはずがない。




「学歴で人生の全てが決まるわけではない」


 今の私が言ってもなんの説得力の無いこの言葉だって、父なら胸を張って言ってもいいと私は思う。




 また、さらに付け加えておくと、父は別に頭が良くなかったから大学に行けなかったわけでは無い。そもそも父は高校を卒業してすぐに就職する人が今よりも圧倒的に多かった頃の人間だが、高校の頃成績もよかった父には当然大学進学するという道もあったはずだった。しかし、当時の家庭の事情がそれを許さなかったのである。


 きっと大学進学への憧れもあり、また大学へ行けなかったというコンプレックスを持ち続けていたのだと思う。きっとそういうところが今も残っていてこんなことになってしまったのだろうか。


 でも、それでも最後に私は、父に対して言いたい。







「お父さん。なんであなたは学歴厨なんかになってしまったんだ」

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