第4話

 私はお姉様を連れて、村外れまで出かけた。お姉様が、魔女に懐旧時計かいきゅうどけいのお礼をしたいと言ったから。

 なんでも、魔女は代金を貰わずに、お姉様に懐旧時計かいきゅうどけいを渡したらしい。

 本当に不思議な魔女さん。私の時も、不思議なお守りを無償でくれた。人助けが好きなのかしら。


 村外れに、星降堂はあった。魔女は店先に置かれた椅子に腰かけている。私達の姿を見て、ひらひらと片手を振った。


「今日あたり、来ると思っていたよ」


 なんて、不思議なことを言いながら。

 お姉様は、魔女を見るや否や、深々と頭を下げて礼を言う。


「あの、先日は懐旧時計かいきゅうどけいをありがとうございました。おかげで邪龍は滅び、妹とも仲直りできました」


「ありがとうございました」


 私も、お姉様に倣ったわけではないけれど、同じように頭を下げた。

 魔女は「くひゅひゅ」と変な引き笑いをして、私達に言葉を返す。


「こちらこそ、どうも」


 私は顔を上げる。

 こちらこそって、何のことかしら。私たちは、魔女の利益になるようなものは渡していないのに。


「いや、いや。十分貰ったよ」


 魔女は私の心を見透かして笑う。


「私はね。君たちの仲睦まじい様子を見ることができて、十分お腹いっぱいなのさ」


 本当かしら。


「本当だよ」


 そして私たちに片手を振った。


「君達が、後悔のない人生を送れるように祈っているよ」


 魔女の姿が消えていく。

 星降堂が消えていく。

 霧が晴れるかのように、それらは跡形もなく消え去ってしまった。


 今のは夢だったのだろうか。私はお姉様と顔を見合わせる。

 だけど、お姉様も同じものを見たのなら、きっと本当に起こったことなのだろう。


「すごい人に会っちゃったわね」


「お父様やお母さまに、自慢できるわね」


 私はお姉様と手を繋ぎ、来た道を歩いて帰っていった。

 

 ✧︎*。

『美しき夜を覗く』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る