20.打ち合う剣技、撃ち合う魔術
鳴り響く剣戟の音。
息つく暇も与えないほどの連撃。
頑強な堅さを持つ
圧倒的なまでの剣圧の為か、それとも反撃に移る為か。理由は定かではないが、
「――勝機!! 【幻身】!」
ゼツナ本人と違わぬ幻が現れ、防御を無視した全力の一刀を上段から振り下ろす。
致命の一撃を受けた幻身はまさしく幻のように消える。しかし、本体であるゼツナはすでに
一度許した背後を敵も警戒していただろう。故に執拗なまでの正面攻撃と幻身の捨て身の一撃は背後を取るための布石。正面だけに意識を向けさせて。
「おおおおおお! 太刀の
どれほど強固な
ゼツナの剣は速度をもって全てを断ち切る。
背中に背負うように担いだ
背後から
「何ッ!?」
にもかかわらず驚きの声を上げたのはゼツナ。
手応えが軽い。
鎧ごと斬ったと思った。しかし、厳密に言えば鎧だけを斬った。
斬られた鎧がガランと地に転がる。否。斬られたから転がったのではなく、
その瞬間を背面の鎧だけをその場に残して前方へと回避した
再び両の剣を取り構える
気を抜いていた訳でも、油断していた訳でもない。しっかりと
一気に剣の間合いに詰められた。
大気を斬る風切り音すら置き去りにしたのかと思うほどの速さを伴った一撃が振り下ろされる。
「――!?」
その事実を頭で認識するよりも早く、鍛え抜かれた剣士としての身体が反応する。
立場が逆転する。
二刀による連撃。
今までの
流れるような左右の攻撃は、攻守ではなく攻攻の連撃。右から左への切り替えにまったくの隙がない。
剛剣はそのままに速度も伴った
(くっ、このままでは――)
いつまでも躱し続けることは出来ない。かといってこの暴風のような攻撃を止める出立てが無い。
今や速度は互角。ならば手数と膂力で上回る
すでに完全には躱せず、身体のあちこちに裂傷が刻まれている。
一か八か。どの道このままではやられる未来しかない。
今まで躱すことすべてに専念してきたが、この流れを変える為に攻めに転じる。
勝負は一瞬。
打ち下ろしてきた右の
(よしッ!)
一か八かの賭けには勝った。あとは。
結果的には立ち位置が入れ替わっただけ。しかし斬撃の暴風はこの瞬間は止まった。
「
「【
身体のあちこちの毛細血管が破れて血が噴き出すが、三人並んだゼツナが
「「「太刀の
一人が右の
「破ァァァ!!」
覇気一閃。
今度こそ
◇
森の上空からそれは見えた。赤い体の魔獣と黒衣の
視線の先でゼツナが雄叫びをあげて赤い魔獣に攻撃を仕掛けて行く。
遠目からではどんな攻撃だったかわからなかったが、金属が打ち合うような甲高い音が聞こえたかと思うと、ゼツナと赤い魔獣との間に黒衣の魔族が割り込んでいた。と、思った瞬間、黒衣の剣がゼツナに向けて
ゼツナは間一髪、屈んでその初太刀を躱して追撃の振り下ろしの一刀も後方へ跳んで回避した。
振り下ろした一撃が起こした土煙が、その攻撃力の高さを物語っている。
かなりの強敵のようだった。
(上級魔族!?)
ゼツナは赤い魔獣をなんとかしたい様子だったが、それを黒衣の魔族がさせない。まるで
「ゼツナっ!」
森を抜け、開けた場所の上空から加勢をする意図をもって彼女の名を呼ぶ。
「私はいい!! 赤い奴をッ!!」
自分のことよりも赤い魔獣を優先しろとゼツナが叫ぶ。
「わかったわッ! こいつはまかせ――!?」
そう答えようとした時、森の木々を突き破って何かがチェシカに向かって高速で飛んできた。
チェシカを中心に爆発の轟音が響き、視界が真っ赤に染まったかと思うと強い衝撃と共に吹き飛ばされる。
黒煙を纏いながら地面に落下していたチェシカだったが。
「【
落下が止まり一度ふわりと空中に静止すると、再び高度を取り辺りの様子を伺う。
(今のは
魔術を受けた射線の位置から、狙い打った魔術師のおおよその場所を予測する。
すると、森の木々から滑るように移動して魔族が姿を現した。
つば広の帽子、ぼろぼろの魔術師の
チェシカは相手を認めゆっくりと地に降り立つ。
「
そう言って左の耳たぶを触る。そこには右の耳に付けている
さきほどの
(かなりの術者ね。そういえば強い気配は二つだった。赤い魔獣はたいしたことなさそうだから、もう一つはこいつか)
「【
再び広範囲に炸裂する魔術を放つ
「【
チェシカは継続飛行時間延長の
「お返しよッ! 爆炎には爆炎をってね! 【
細長い筒状の炎の塊が三つ、
【
「チッ、避けたか。でも直接当たらなくても範囲内なら少しは――」
炎の向こう側に姿を現した
「……そ。魔術抵抗も高いって訳ね」
ある程度予測出来たことではある。
高位の魔術師は本人自身の魔術抵抗が高いこともあるが、
(――こっちも上級魔族か)
そう簡単に倒れてくれそうにない。
チラリと視線を飛ばせばゼツナの方もかなり苦戦しているようだ。加勢したいところだが――。
視線を戻せば次の魔術の準備に入っている
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