最終話
「運命だよ!」
仲直りした日の帰り道、里運が「運命」といった。
「今回はなにがあったんだ?」
「えっとね! さっき鳥さんが目の前に現れて、パッと飛んでったんだよ」
さっきまで泣いていたことを忘れたのか、眩しい笑顔を向けてくる。
今回も変わらないな。
「全然、運命じゃないだろ? ほら、向こうの人のところにも鳥がいるし」
数メートル先のバス停のベンチに座っているおじいさんの前には、数羽の鳩がいた。
「ううん、絶対、運命だよ!」
里運がぷっくらと頬を膨らませる。
もう何もないと思ってたんだけどな。
今日くらいは、いいか。
「そうか、運命か。それで今回はなにをするんだ」
「え? 蒼太くん、付き合ってくれるの?」
意外だったのか、里運が目を見開いている。
なんだよ、付き合ってくれるのって。
いつも付き合っているだろうに。
「なんだ、今日はって」
「ううん、何でもない!」
そう言って、里運は歩いていく。里運の背を見ながら、俺は後を追った。
「今日はね、さっきの鳥さんを見つけようと思ってるの!」
「さっきの鳥さんって、俺見てないから分からないぞ?」
「大丈夫、一緒に探せば、見つかるよ!」
「わかった、じゃあどっちが早く見つけられるか競争な?」
彼女がついてこれるようなスピードで、ゆっくりと前に出て、走り出す。「待って」と聞こえたが、聞こえないふりをした。
「待ってよ、私のほうが先に見つけるから!」
俺の前に出た里運が、ペースを速め、元気に一本道を走っていく。
走り過ぎたら、転ぶだろうに。
「まてよ、危ないぞ!」
「危なくないよ、運命に導かれてるんだから!」
そう、今日も彼女は、運命と巡り会う。
それが神様から与えられたものなのか、自分でそう思っているだけなのか、ただの偶然なのかは分からない。
それでも俺は、彼女の運命を一生見続けることに決めた。
だって――
運命少女は今日も尊いのだから。
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