16.

**

鐘の音と共に、俺たちは真っ白な部屋の中にいた。


目の前には、一枚の大きな壁画が飾られている。

そこには、こう書かれていた。



―――ようこそ、デスゲームへ。


最後まで生き残った者には、どんな願いも1つだけ叶えて差し上げます。

巨万の富でも、人類つづく限り永遠に残る名声でも、不老不死でも、可能です。

凄惨に。残虐に。ここでは、一切の配慮も必要ありません。

さぁ、思う存分に殺し合ってください。



「どういうことだ? これは一体、何が起こっているんだ?」

思わず声が出てしまうほど、動揺してしまった。


隣を見ると、大和と目が合う。

お互いに、混乱していることは同じようだ。


真琴は、気を失って倒れていた。

彩花は、愛生の姿を探すも見つからず悄然しょうぜんとしてうつむいている。


そして、真琴の傍に居たはずのファザーの姿はない。


俺と大和は、白い部屋の中を探し始めた。

だが、何も見つからない。


俺は、あることに気づいて、慌てて指をさす。

壁に、新たなメッセージが刻まれていく。


そこには、こう書かれている。



――このゲームでは、全員が敵であり、味方でもあります。



ただし、共闘すれば ペナルティ が発生する仕組みとなっております。

共闘する人数ぶんだけ、特別なゲストらをお呼びする手筈となっておりますので、生き残るのが、更に困難になるでしょう。



「意味、分からないし!」

「これって、あのゲームのプロローグ的なのにそっくりそのままじゃないのか?」

「いやいや、さすがにそれはないっしょ」


大和は小馬鹿にするように、俺を見てくる。

ゲームよりもコイツの方が質が悪いんじゃねぇか?とか思っていると、ふたたび壁画の文字が変わりはじめた。


「おい、あれを見ろ!」


その文面を見た瞬間、心臓がドクンと大きく跳ね上がった。

そこに書かれた内容とは――



――キャラクターを選択してください。



その一文を見て、背筋が凍り付くような感覚に襲われる。

嫌な予感しかしない。それに、このメッセージの意味が理解できない。

……いや、したくない。


「いったい、どうなっているんだ? どうして、こんなことに……」

そう呟きながら、頭を抱える。


そのとき、頭上にキャラクターガードのようなものが何枚も現れ、円を描くように目の前に降りてきた。


「しっし! あっち行けだし‼」

あっちでは、大和が手で追い払おうとしているのが見えた。


すると、カードがくるくると回転し、ピカっと光を放つと彼女の姿が消えてしまった。それは、気絶している真琴 や 彩花にも同時に起きていた。


慌てた俺は、ゲームの内容を必死で思い出し、最後に生き残る主人公のカードに触れるも、謎の現象がそのカードを黒く染め上げてしまった。



――Rを押しながら方向キーの右を6回押し、Bを押しながら決定を確認しました。

隠しコマンド『黒き戦慄』が承認されました。



「なんだ?」

聞いたこともない言葉が流れる。

そして、床が突然揺れ始めた。


ゴゴゴッという音を立て、周囲の景色が歪んでいく。

次の瞬間には、俺たちが立っていた場所は、先程とは違う場所になっていた。

そこは、どこかの島の中だ。


巨大な重機が何台も見え、岩山を切り崩して資源に加工しているようだ。

ここは、まさか――


すると、背後に気配を感じる。

振り向くと、そこには一人の男が立っている。

年齢60代後半くらいだろうか。

長身で、筋肉質。

白髪交じりで、無精ひげを生やした男。


彼は、こちらを睨みつけている。

「なるほど。ずいぶんと腕に自信があるようでいらっしゃる」

男は、低い声でわらった。


やはり、こいつが黒幕なのか。

それとも、ただの手駒に過ぎないのか。

それは、今の段階では判断ができない。

どちらにせよ、この状況は非常にマズい。


ゲームの世界に取り込まれたとはいえ、最後には必ず優勝する主人公を選んだ。

……のだが、俺はまだ、自分の力を完全に使いこなせていない。

もし、相手が本気で向かってきたら、勝てるかどうか分からない。

だが、ここで逃げるわけにもいかない。

審判者を倒して、ゲームそのものの流れを止めてしまえば、すぐに終わるはずだ。


先手必勝。相手の出方を伺うよりも、先に攻撃を仕掛けるべきだ。


俺は、一気に駆け出して、相手に殴りかかる。

相手は、拳を構えて、腰を落として身構える。


もらったッ!


俺は主人公の能力解放ヴァジュランスをイメージして発動を試みるが、上手くいかなっかった。振り抜いた拳は、審判者の頬をカスることも無く、審判者の指弾によって弾け飛んだ。


そして、激痛と恐怖が全身を駆け巡る中、今度は蹴り飛ばされて地面に転がった。

「ぐっ、がはぁッ!!」

あまりの痛みに、意識を失いそうになる。


周りから、何人かの笑い声が聞こえてきた。

もう、止められそうにない…。


あの鐘の音が、響いてくる。始まりの合図だ。


『ようこそ、Jailbreak (ジェイルブレイク)を目指す 参加者諸君。

そして、殺人という衝動を抑えきれない『戦うために生まれてきた戦士』の皆さま。

今回、大会の審判を務めさせていただきますは、spesスぺスのマイヤーズと申します。

皆さま御揃いのようですので、これよりデスゲームを始めさせていただきます。

もちろん優勝されました方には、どんな願いでもたったひとつだけ叶えることができる次第でございます――』



――突然、太った オタクメガネが、騒ぎ始めた。

急に叫んで、自爆するキャラだ。


「な、何なんですか? これは!!」


プレイヤーに 各々のキャラクターに付与された特殊な能力を解説するために殺されてしまうデスゲームの演出だ。他人には見えない爆弾をつくり出して、30秒後に爆発する能力だ。ただ、この口調はゲームに出てくるキャラクターのしゃべり方と大きく違っている。


「朔也! 大和! みんな、どこに消えてしまったのですか?!」


その言葉を聞いた途端、嫌な予感がした。


「真琴ッ!?」思わず叫んでいた。

「朔也? どこですか! どこにいるのですか!?」


いますぐ助けに駆けだしたい。

だが、気持ちだけではどうにもならなかった。

身体にリキ が入らないのだ。這いずることもできない。

気持ちだけが、俺を急かす。いそげ、いそげ、と!


――だが、ドンッ! と地響きを鳴らす音とともに彼女は吹き飛んでしまった。

上空に高くたかく、吹き飛んだ左足だけが、ゴトンと音を立てて地面に落ちてきた。


その光景を見ていたキャラクターたちは、驚いた様子から、すぐに歓声へと変わっていった。コイツ等にしてみれば、それは当たり前の反応なのだと分かってはいるが、どうしようもなく、殺意が湧いてくる。



『さて、諸君らに付与された能力は、各々、それ相応に違っております。その能力を上手く使い、凄惨に、残虐に、そして思う存分に殺し合ってください。ここでは、一切の配慮は必要ありません。さぁ! 諸君らの性癖をぶちまけて、我々を楽しませてください!!』


それは、デスゲームの開幕を告げる言葉だった。


――生き残りたければ、殺し合え――


最後に生き残った者。


つまり優勝すれば、どんな願いでも、たったひとつだけ叶えることができるのだ。

そのために、もっとも大きな障害となるのが、卵頭ランドウ 公崇キミタカだ。これは、主人公と幼なじみのヒロインが共闘したことにより ペナルティ が発生。殺人鬼が1人参加した事となっているが、主催者側が復讐のために、最初からこうなる事を想定して、参加者を決めていたらしい。


だったら、俺はヒロインと組むこと無く、ソロで行動するしかない。


そうなると、次に厄介なのが、テリス伯爵だろう。

吸血鬼の能力で、生者死者を問わずに眷属にすることが出きるのだ。

原作では、消防士の勝田清炭によって、焼き殺された。

この勝田を殺したのが卵頭ランドウなのだが、その役を俺がやるしかない。



……待っていろ、真琴。

俺は、おまえを救うためなら、悪にでもなってやる!



【 第2部/完 】


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デスゲームの『モブキャラ』に転生してしまいました 越知鷹 京 @tasogaleyorimosirokimono

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