顔を上げたら、空は晴れていた

闇野ゆかい

第1話見知らぬ少女

ガラガラ、と舗装された石畳の上を車輪が滑り、大通りを走行する檻車。

鉄の檻に押し込められ、会話すら禁止されたボクら——奴隷は皆呼吸すらまともにできないでいた。

馬の手綱を握りしめ、檻車を引かせる奴隷商の男性に罵声を浴びせられ鞭で打たれることは日常茶飯事で恐怖を叩き込まれている。

見窄らしく麻でできた布一枚の服だけを着させられ、裸足である少年少女は身も心もボロボロで、いつ死んだっておかしくはなかった。

ボクよりも歳下である少年少女は六人いる。

奴隷商は、ろくに食事も摂れず、腹が鳴るのは自然だというのに腹が鳴った少年少女らに対して殴ったり蹴ったり、鞭を打ったりと虐げる。

暴行を加えられた仲間である奴隷の少年少女のつんざくような悲鳴が常に聞こえ、身体を休めようにも休まらない。

ぐっすり眠れたのは、どのくらい前だろうか……

雨が降り続けていて、体温が奪われて、恐怖と寒さで身体がブルブルと震える。檻に押し込められたボク以外の奴隷も同様だ。

ある兄妹は片手を繋ぎ合って耐え忍んでいる。

幸い、檻には布が覆い被さられ、大通りを歩く人々からの憐れむような見下した視線に晒されてはいない。

だが、ヒソヒソと潜めた声の数々は聞こえる。

鉄格子の二本の鉄柱に背中が触れ、もたれ掛かるようにへたり込むボクの身体が急停車した檻車の揺れで倒れた。

手首と足首に嵌められた鉄の枷を繋げる鎖が触れ合いジャラジャラと金属音が鳴るのと、仲間の奴隷らが鉄格子にぶつかったり倒れたりする鈍い物音が響く。

「うぅっ、痛ぁ……」

彼ら彼女らも呻き声を上げる。

衝撃を受けた箇所を片手で摩りながら、もう片方の手で口を塞ぐボクら奴隷一同。

普段よりも顔が青ざめていく。

「誰だ、貴様ッ!さっさとそこを退けぇい!」

「……」

暴行を加えられるとビクビク怯えて身体を丸めていたボクらは、奴隷商が怒鳴り声で叫ぶのが聞こえ、刹那に安堵して吐息を漏らした。

奴隷商と対峙してるだろう人物は、無言だった。

奴隷商は、相手の無言に耐えきれなくなったようで馬を降り石畳に足をつけたビシャという水が跳ねたのが聞こえる。

ビシャビシャっと、鞭を石畳に打ち付ける水音が聞こえた数秒後に奴隷商のか細い悲鳴が聞こえて、ドサっと倒れた物音が続いた。

馬の前脚付近にうつ伏せで腹から血液を流した奴隷商が転がっていた。

檻を覆い被す布の僅かな隙間から、奴隷商の懐をまさぐり束ねられた鍵を握りしめ、檻に歩み寄ってきた少女。

檻の扉が開錠され、背丈が160cmあるかないかの美少女が現れた。

左手を差し出した彼女は優しく、

「キミたち、もう大丈夫だよ。さあ、こんな檻から出よう」

と、言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

顔を上げたら、空は晴れていた 闇野ゆかい @kouyann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ