第4話 冒険者カードを手に入れた

 <閃光の銀狼>から臨時メンバーとして一緒にダンジョンへ行かないかとの誘いを受けて驚いてしまった。僕の治療の手際が良い事に感心してくれたようなのだ。


 傷を簡単に洗って、軟膏をつけただけに見せたんだけど、ちょっとだけしくったかな?


 <閃光の銀狼>はアイラさんの暴走での教訓で、やはり回復職は必須だ。それははっきりした。そこで明日ギルドで募集しようと話し合っていたらしい。


 だが、そう簡単に見つかるものじゃない。なにせ回復職は引く手あまたなのだから。


 そんな時にアランさんのお眼鏡に叶ったのであろう僕が宿屋に現れたわけだ。詳しくは教えてもらっていないのだが、アランさんには人が生まれながらにして持つ魂の色を見分けるスキルを持っているらしい。一応身元がしっかりしていて信用に足りる者だと判断していいと彼らは考えたようだ。


 道理で最初にジロジロと見られたわけだ。


「お誘いは嬉しいのですが、元々、冒険者になってダンジョンで稼ごうって思ってたわけじゃないんです。薬草採取しての薬を売って細々と生計を立てながら、この広い世界を見て回りたいって思ってただけなんですよ」


 冒険者カードは明日でないと貰えないし、僕の職業<薬師>は、スキルではなく師匠の元で見習いとして修行したものなので、レベルが上がると成長するって言うものでは無いと言う事も伝えた。


「それにです。僕はすごく弱いですよ」


「俺たちにも良い出会いだが、こう言うのも何だが、それはアキト君にとってもメリットはあると思うぞ。


 アキト君はまだダンジョンに入った事がないのだろう? 上位冒険者の戦い方を知る事もこれから冒険者をする上で役立つだろうし、俺たちと一緒なら経験値も入り、君のレベルが上がるだけでなく、冒険者ランクのポイントアップにもなる。


 それにだ。俺たちは君を必ず守ってみせる。これでも腕には自信があるんだ。


 どうだ? お互いにウィンウィンだろ?」


 そう言われたら少し心が揺らぐ。そこで一晩考えさせてほしいとリーダーに伝え、明日の昼頃にギルドで会おうと約束し、僕は部屋へと戻った。


 ◇◇◇


「なぁ、ハルさん? どうしようかな?」


 ハルさんは今日は運動不足だからと、回し車をカラカラと勢いよく回している所を止めて、フワァ~と大きく欠伸をした。


「あのダンジョンのお誘いか? そうだな~? アキトはダンジョンに入った事ないだろ。いい経験になるんじゃねえ。だけどさ……。


 あのハイントマンリーダーと言うオッサンはアル中なのか? あの魔法使いにダメだし食らってて、縋りついて懇願する姿に笑ったわ。見た目強面なのにな。あんなのと一緒で大丈夫なんか?」


 ハイントマンリーダーさんはとてもお酒が好きなようで、かなり豪快に飲んではいたようだ。


 酔っぱらうまでは結構頼りがいのあるリーダーって感じだったんだけど、酔ってくる内に人が変わってしまってた。リンダさんに「後、もう一杯、もう一杯だから頼む!」って必死で頼んでる姿を見たハルさんは、それをどうも心配に思ったようだ。


 僕としては、その姿が意外にかわいいって思っちゃったんだけどね。


「そう言えば、ハイントマンリーダーさんが飲んでいたお酒だけど、あれって緑色だっただろ?」


「そだったっけ? なんか変わった匂いがしたけど」


「あれはハーブ酒なんだな。


 たぶんだけど、香付けにワームウッドニガヨモギみたいなハーブが使われているのかもね。あれって少量だけど幻覚などの精神を刺激する成分が入ってて、一度に大量摂取しちゃうと神経麻痺とかの症状がでちゃったりするから注意なんだよ。その上、習慣性も強く、安価で度数も高いことで、依存症になる可能性もあるんだけどさ」


「それって、毒じゃん!」


「取りすぎると何だって毒になるって話だよ。特に粗悪品だったら猶更だ。


 だけど、モノによるけど、ハーブ酒は他に色んな身体にいい成分も入ってて、胃腸に良かったり、血行が良くなっての冷え症やら肉体疲労に効いたりと、一概に毒とは言えないんだ」


 リンダさんのような、ちゃんと止めてくれる人がいるし、<小熊の巣穴>では粗悪品は出さないだろうから、ハイントマンリーダーさんは安心して飲んでるんだろう。それに人が変わって暴れたり暴力振るったりするわけじゃないようだから、そこは大丈夫だろうと付け加えた。


「まぁ、明日アランのオッサンに奴らの事を聞いてからでも遅くないかもな? だけど今日は眠いから明日考えようぜ」


「そうだよね。慎重に返事しないとね。相手の事やダンジョンの事を何も知らないと痛い目に遭うかもだから。明日アランさんに確認した後、資料室に行ってみるかな」


 明日は明日の風が吹くって事で、今日はゆっくりと休む事にしよう。


 ◇◇◇


 次の日、朝からギルドに行くとギルドは人でごった返していた。朝のこの時間帯は一日で一番忙しい時間帯なのだろう。


 受付には大勢の冒険者が列を作っている。アランさん他、職員達は冒険者の対応に天手古舞なようだ。


 僕はなるべく巻き込まれないように、ある程度の落ち着きを取り戻すまで壁際にてギルド内の様子を見学する事にした。


『ハルさん、すごい人だよね。あちらこちらで依頼受注やらパーティーメンバー募集やら皆さん色々やってて、なんか面白いよね』


『あん? 人間ってなんであんなせわしねえ生き物なんだ? 憐れだね~」


 ハルさんは僕の懐のポケットの中で大欠伸をしながら、うつらうつらしているようだ。


『ハルさんは人間への評価が低いよね。皆、生きる為に必死なんだよ』


 ハルさんと念話でやり取りしながら、周りを観察していると、何気に気になる子供が目についたのだ。


『あの子、何してるんだろ?』


 一人の女の子が色んな冒険者達に頭を下げ廻っているのだ。頭を下げられている冒険者たちは、ある者は面倒くさそうに鼻先であしらったり、またある者にはあっちへ行けと怒鳴られては、軽く突き飛ばされたりと、どうも相手にはされていないようだ。


 気にはなったのだが、いつの間にか何処かに行ったようで、姿が見えなくなった。そうこうしている内に、喧噪けんそうも一段落し、ギルドがある程度の落ち着きを取り戻した事で、冒険者カード受け渡しカウンターへと足を進める。


「おー!来たか。アキトだったな。カードは出来てるぞ」


 アランさんから冒険者カードを貰うと、カードには僕の名前とランクが記載されていた。


 *************

 名前:アキト

 冒険者ランク:Gランク

 *************


 僕はそのカードを見て感動してしまった。つい、嬉しさの余りにカードをじっと凝視していると。


「こほん。もう、説明してもいいかな」


 アランさんに軽く突っ込まれてしまった。ちょっと恥ずかしい。


「それでだ。今の君のランクは一番下のGランクだ。そして最高位はAランクになる。

 今後、多くの仕事の依頼を熟したり、ギルドからのクエストを受ける等での貢献度にてランクが上がって行く事になる。

 ランクが上がるともちろんランクに沿った優遇があり、また周りから信頼される事で依頼料も上がる事になる。以上だが、何か質問はあるかな?」


「仕事の依頼を達成できない時はどうなります? また、Gランクでずっといても大丈夫ですか?」


「仕事の内容によって変わってくるが、大きなミスをすると、もちろんペナルティとなる。まぁ、薬草採取や角うさぎやスライム等の低級魔物狩りの常設依頼なのはペナルティなどないので、最初はそれを受ければいい。だが、それだとランクが上がるのは難しいし、そう収入も多くない。Gランクのままで満足だと言うなら、それはそれでいいんだがな。それで――――」


 アランさんは僕にダンジョンには入らないのか? と問うてきたので、<閃光の銀狼>の事を聞いて見る事にした。


「<閃光の銀狼>がどうしたんだ?」


 昨晩、臨時メンバーに誘われた事を話し、彼らの評価を聞きたい旨の説明をした。


「ああ、そうか。あいつらも同じ宿だったな。そう言えば、回復役がしばらく帰省するって言ってたか」


 アランさんが言うには、<閃光の銀狼>はやり手のBランクパーティーで、Aランクに一番近いパーティーだと言われているそうだ。


「ギルドへの貢献度も高く、仕事の依頼を失敗する事もない。信頼がおけるパーティーだ。俺が保障しよう。臨時だからと言って都合が悪けりゃダンジョンに放置したり、魔物の標的にして逃げるようなクズじゃないから安心しろ。


 あいつらと行動を共にした事で得る事も大きいと思うぞ」


 やはり、これは僕にとって良い経験になると、アランさんからもお墨付きをもらった。

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