ダンジョン都市

第1話 ダンジョン都市へ入る

 宿場村から小さく見えていた塔は、ダンジョン都市に近づくにつれてどんどんと大きくなっていく。


 塔は、雲の上までそびえ立ち、その頂上は雲に隠れて見えない。


「ああ、なんて壮大なんだ!」


 その壮大で美しい姿に、僕は圧倒されてしまった。


 この巨大な塔のダンジョンが発見された事で、そこに多くの冒険者や商人が集りだし集落を作り、どんどんと大きく繁栄して都市となった。


 それが、ここ、ダンジョン都市ジルクライムだ。


 最初、ジルと言う男がこの塔をよじ登ったという話から、ジルクライムという名が付いたと言う伝承がある。その勇気に敬意を表した神によって、塔はダンジョンとしてジルへと譲渡されたと言う。今、このダンジョンを支配している統治者がそのジルの子孫ということらしい。


 伝承……。都市伝説?


 真実はどうあれ誰かにとって都合のいい伝説などは概ね胡散臭かったりするわけだが。


 このダンジョン都市は、周りを石造りの高い塀で囲い、中央に、その巨大な塔、魔塔がそびえ立つと言った構造になっている。


 上空から見ると、城壁は星の形をした星形要塞の様式なのだそうだ。


 日本の五稜郭やオランダのバウルタンゲのような形なのだろうか? 全貌を簡単に見る事が出来ないのが残念だとは思ってしまった。


 ◇◇◇


 都市の入口になっている門の近くまで来ると、そこには頑丈な鉄格子の扉があり、そこで門番たちが出入りを審査している。そのために長蛇の列が出来ていた。冒険者、商人、一般の列に分けられており、僕は一般列の一番後ろに並んだ。


 皆は扉を通る都度何かに手をかざしているようだ。あれは審判の魔道具なのだろう。かなりの人数が並んでいるのだが、その魔道具のお陰でサクサクと順調に進んで行っている。なので僕の番までは割と早くに廻ってきた。


 そこで前の人と同じように魔道具の上に手をかざすと、青白い光がパァッっと輝いた。

 門番は一瞬驚いた表情をしたのだが、何とか止められる事もなく、僕が差し出した通行料を受け取るとすんなりと門を通してくれた。


「じゃ、早速ギルドに行って冒険者登録するぞ!」


 入口にある看板で冒険者ギルドの場所を確認し、取りも直さず直ぐにギルドへ向かう事にする。ギルドで冒険者登録をすると、ギルドを通してアルル村からの報奨金がもらえる事になっているからだ。


「とりあえず、先立つモノは無いより有った方がいいに決まっているからね♪」


 それにだ。これで希望が敵っての冒険者登録がやっと出来るんだと思うと、ちょっとわくわくしながら歩を進めた。


「なぁ、アキト。ダンジョン都市って言うからには、メインはそれだろ。冒険者登録したら、ダンジョンに入るのか?」


「いや、入らないよ。だって、怖いじゃん。僕が魔物を駆逐できるほど強いと思う?」


「そうだね。アキトだったら、間違いなく尻尾巻いて逃げるよね」


「その言い方は酷くないか? 相変わらずハルさんは容赦ないね。まぁ、僕には巻ける尻尾はないけどさ」


 僕はハルさんを鷲づかみにして、そのハムケツにちんまりと生えた尻尾を、今にも掴もうと親指と人差し指をわしゃわしゃとして見せる。


「おらおらおら……」


「わ、ゴメンって! 謝るから。 それだけは止めて! そこはダメだから」


 ハルさんは僕の手の中で、バタバタともがいている姿がめちゃくちゃかわちい。あまりの可愛さにニマニマと見つめていると……。


「ほんと、ごめんって! (まぁ、ほんとに弱けりゃ、一人旅なんてしないわな)」


 ハルさんは独り言のようにポツリと何か言ったようだが、それは聞かなかった事にした。


 ◇◇◇


 初めて来た街だったので、迷いながらも何とか冒険者ギルドまで行きついた。


「あ、ここだ。ここ!」


 そこには石造りの大きく立派な建物がそびえ立っていた。その建物の入口、重厚で巨大な門扉の上には立派な盾と剣のエンブレムが飾られ、金色に輝く『冒険者ギルド』の文字が刻まれている。


 僕は思わずそれを見上げ、「ほぉ~」と感嘆の声を上げてしまった。


 ギルドの入口は大勢の人々がひっきりなしに出入りしていて、僕がアホ面を晒してエンブレムを見上げている所に、ちょうど大きな剣を背負った勇ましい鎧姿のお姉さんがギルドから出てきた。


 ふと視線をそちらに向けると、偶然と目が合ってしまった。そして、そのお姉さんはすれ違い様に……。


「ようこそ! かわいい新人さん」と、ウィンクされ、クスリと笑われてしまった。


 うわぁ、、、素人丸出しだったのがもろバレだったようだ。めちゃめちゃ恥ずかしい。赤面を隠すように、「よし!入るぞ」と少し気合を入れてギルドの中へと僕は進み入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る